2022年11月30日水曜日

2022年度後期第10回:新書報告(D班)

こんにちは、2年のHです。先月から始まったサッカーワールドカップでの日本代表の活躍が素晴らしいですね。寒い日が続いていますが、白熱した試合を観戦し感動しました。さて、今回はD班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:秦正樹『陰謀論‐民主主義を揺るがすメカニズム』(中公新書、2022年)
本書では、陰謀論を信じてしまう人の傾向やどのような人が陰謀論を信じているのか、を解説した一冊です。陰謀論とは、重要な出来事に関する説明で「邪悪で強力な集団による陰謀が関与している」と断定したり信じたりすることです。どのくらい陰謀論を信じている人がいるのかというと、4人に1人は陰謀論を信じていると述べています。陰謀論を信じやすい人の特徴をいくつか紹介していました。私が印象に残った特徴は、政治・時事的な問題に関心がある人ほど陰謀論を信じやすいことです。私は政治・時事的なニュースに関心があるため、毎日ニュースを見るようにしています。陰謀論を信じやすい特徴に当てはまっているので解決策として、客観的に報じているニュースを見たいと感じました。
本書を通して、陰謀論を信じている人が一定数いることに驚きました。一般的な考え方と陰謀論的な考え方の違いは何か、改めて考えたいと思いました。陰謀論について興味があるので、読んでみたいと思いました。

Hさん:小菊豊久『マンションは大丈夫か‐住居として資産として』(文春新書、2000年)
本書は、マンションの値段が上がっている理由や日本の集合住宅の歴史などについて解説した一冊です。私が印象に残った内容は、住居を買うときの日本と海外の違いについてです。日本は土地と建物を買います。しかし海外は住居を買うときに内装込みで買わず、土地と建物の外装だけ買うことに驚きました。海外は個人の好みが強みすぎるため、このようなスタイルになっているそうです。もし住居を買うとしたら私は、土地と内装込みの建物を買いたいと思いました。私はこだわりがないため、内装込みで買いたいです。
本書を通して、マンションに住んだことはないもののマンションの良さを見つけることができました。マンションは管理費を払うので、一軒家より安全性が高いことが分かりました。日本は地震が多いので、マンションで暮らすほうが良いと感じました。

Tさん:勝間和代『断る力』(文春新書、2009年)
本書は、断る大切さについて述べられている一冊です。人から何かを頼まれるとき断ることについて申し訳ないと思ってしまい、受け入れてしまいます。しかし著者は、頼まれたことを受け入れることは、自分の人生を他人に委ねてしまっていると述べています。そもそもなぜ、断る力を手に入れなければいけないかというと、自分の時間と能力が有限であるからです。断る力を身につける方法として、あるワードを自問することが大切だそうです。そのワードとは、「友達は何人必要か」です。なぜならすべての人に好かれることは不可能であるからです。
本書を通して、全ての要求に対して断るのではなくて、パワハラなど理不尽なことを要求されたときに断る力は有効であると感じました。また、嫌われることを恐れて自己主張ができなくなるのであれば、すべて従う必要はないと思いました。人からの頼みを断ることが苦手な方に読んでほしい一冊です。

Kさん:齋藤孝『思考を鍛えるメモ力』(ちくま新書、2018年)
本書は、メモの本質について解説している一冊です。著者は、メモを取る目的として「本質をつかまえる力を磨くため」と述べています。Kさんの新書報告では、メモ力の鍛え方と効率的なメモの取り方について紹介してくださいました。
特に印象に残ったのは、メモ力の鍛え方です。メモ力初心者にありがちなのが、「守りのメモ力」といって相手の言葉や板書されたものをそのままメモすることです。では良いメモのやり方はどのようなものかというと、「攻めのメモ力」をすることです。攻めのメモ力とは、相手の話を聞いて自分の考えも含めてメモすることです。些細な疑問や自分の意見を一緒にメモすることで、さまざまなアイデアや価値を生み出すことができると著者は述べています。
私は今まで、相手の言葉と板書されたものをそのままメモしていました。しかし今回の報告を聞いて、攻めのメモをしたいと思いました。メモすることは後で見返すだけのものと思っていましたが、クリエイティブ力を養うこともできると聞いて、考え方が変わりました。メモのやり方を見直してみたいです。
今回も興味深い報告がたくさんありました。新しい知識や新しい考え方を得ることができて良かったです。来週のゼミはE班です。残り数回のゼミ活動ですが、楽しんでいきましょう。

2022年11月16日水曜日

2022年度後期第9回:卒論検討会

ゼミの教室がある6号館前の銀杏
 こんにちは。2年のHです。本校の文化祭である葵祭を終え、どこか落ち着いた雰囲気を取り戻した校内はイチョウの木が綺麗に色づいてきました。気持ちの良い秋晴れが続いており、どこかへ出かけたくなる季節ですね。そんななか、今回のゼミは、前半はいつも通りグループに分かれてそれぞれが読んできた新書を簡単に紹介しあうグループワークを行い、後半はいつもとは違いOさんの卒論検討会を行いました。

まず前半のグループワークでは、読んできた新書の出版社をもとに3つのグループに分かれました。私が参加したグループでは、福沢諭吉/齋藤孝『13歳からの『学問のすすめ』』(ちくまプリマー新書、2017年)、志村史夫『「水」をかじる』(ちくま新書、2004年)、児玉聡『功利主義入門』(ちくま新書、2012年)、加藤恭子編『日本人のここがカッコイイ!』(文春新書、2015年)とジャンルの異なる本が4冊紹介されました。グループメンバーそれぞれが読んできた本の紹介をしたあとには活発な質疑応答が行われました。その中でも「功利主義に対してどう思うか」と「日本人は本当に海外の人が言うように「優しい」のか」という質問に関しては、全員が考え、意見を述べるなど一番の盛り上がりを見せました。

功利主義に対しては、「それまでの経緯を一切見ず、結果さえ良ければすべて良いというのはどうなのか」や「全体の幸福のために少数を犠牲にすることは、はたして本当に全体の幸福につながるのだろうか」という意見が出ました。グループワーク内で結論は出なかったのですが、今回のディスカッションを経験したことでこれから功利主義に関する新書を読み、自分はどう思うのかを考えていきたいと思いました。

日本人は本当に優しいのかという問いに関しては、「確かに落とした財布が中身も無事で交番に届けられるということは優しいのかもしれないが、困っていても知らん振りされたり、ぶつかってしまったときに舌打ちされるなど優しくない面もたくさんある」や「日本人は優しいのではなく無関心、輪の中から外れたくないという意識から空気を読んで行動するからこそ優しいと見えるのではないか」といった意見が出ました。日本人として生まれ、日本で育っている私たちにとって当たり前のことでも、海外の人からしたら当たり前ではないのだなと実感するとともに、外の人から見た日本人は優しく、真面目だと見られていることに驚きました。さまざまなジャンルの本を知る機会となり、ディスカッションを交わすことができて貴重な経験となったと思います。

一号館横の銀杏並木

後半は、Oさんの卒論検討会を行いました。Oさんの卒論のテーマは、「ヤングケアラーの実態と支援に向けて」だそうです。Oさん自身の実体験から「ヤングケアラー」に対して問題意識が生まれました。そもそも「ヤングケアラー」とは、「障がいや病気のある親や祖父母など、ケアを必要とする家族がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども」(一般社団法人日本ケアラー連盟サイト)を指します。近年、日本でもヤングケアラーという社会問題が顕在化し、2020年には厚生労働省が中学生を対象に調査を行いました。調査に参加した中学校の46,6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーがいるという結果がでました。そのような現状に対しOさんは、ヤングケアラーの存在を周知し、社会的な支援の必要性を論じました。

このOさんの発表を聞いたあとで、内容についての質疑応答を行いました。「ヤングケアラーと虐待の関係性はあるのか、虐待につながるのではないか」や「厚生労働省の調査は単発的に行われたのか、それとも継続的に行われているのか」という質問が出ましたが、まだ実態がつかめていない問題であるため厚生労働省の調査もまだ1度しか行われず、ヤングケアラーと虐待の関係性も掴みきれていないのだそうです。Oさんはヤングケアラーと虐待の関係性についてもう少し深掘りして調べ、考えていくと話していました。

この発表を聞き私は、ヤングケアラーという問題をよく知らなかったため、今回のOさんの発表は新たな発見となりました。そして、庇護されるべき立場にいる子どもが家族のために家事や介護、感情面のサポートを行い、自分の本分である学業や友だち付き合いにまで影響を及ぼしてしまうことに胸が痛くなりました。ここ数年で社会問題として取り上げられるようになったものの、私自身のように「ヤングケアラー」という言葉も実態も知らない人が多くいます。

さらにOさんが指摘するようにまだまだ支援が足りないという現状もあります。私も子どもが子どもらしく生きていく世の中をつくるために、Oさんのようにヤングケアラーの存在自体を周知させ、支援を充実させていくことが必要だと思いました。なお、私自身もまだまだヤングケアラーに関して知らないことが多いため、今後新書等を読み学んでいきたいと思います。

次回は、通常通り新書報告を行います。担当はD班です。楽しみにしていてください。

2022年11月9日水曜日

2022年度後期第8回:新書報告(F班)

こんにちは。3年生のDです。おだやかな小春日和が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。すっきりとした秋晴れの日にはどこかに出かけたくなりますよね。紅葉が一段と色を増す美しい季節ですので、ぜひ皆様も日本の秋を満喫してお過ごしください。

また、これからインフルエンザが流行する時期でもあります。くれぐれも体調を崩さぬよう、体調管理を今まで以上に気をつけて生活していきましょう。さて、本日はF班の新書報告を紹介します。

Uさん:宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書、2010年)

本書は、「民主主義」が抱える哲学的な問題点を、民主主義と以前の貴族制を比較しながら解説している本になっています。特に私の印象に残った問題点は、皆平等を掲げている点です。古今東西、人間は生まれ育つ家庭や生まれ持った身体的特徴などが異なるため、人生において平等ではない点が多くあります。

貴族制の時代では、生まれた身分や家庭によって育つ環境に圧倒的な格差があることは、周知の事実であったため、平民が貴族に嫉妬したり不満を抱くことは少なかったと言います。それに対し、現代では平等ではない点や生まれ持った差があるにも関わらず、人々は皆平等であるという風潮が強いため、人々の間で嫉妬や不満、ひがみなどのネガティブな感情が生まれてしまい、幸せを感じにくくなっているそうです。これに対し著者は、生きがいややりがいなどのリスペクトを確立し、それを他者との交流を通して配分することで幸せに近づくことができると述べています。私も他人のことばかり気にしすぎず、自分に焦点を当ててアイデンティティや自分の軸をより強固にしていきたいと、この報告を聞いて感じました。

Oさん:柏木恵子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』(中公新書、2001年)

本書は、少子化が進む現代において、「子どもを持つ」とはどういう意味があるのかと問い、子どもという存在の価値や考え方の変化について考察している本となっています。

日本では以前から、「子どもは宝物である」というような表現をよく耳にします。これは果たして本当なのでしょうか。本当なのであれば子どもにはいったいどんな価値があるのでしょうか。という点の考察がとても印象に残りました。ある研究データによると、日本や先進国では、子どもの価値というのは、実用的な価値や経済的な価値ではなく精神的な価値であると考えられているそうです。そして、子どもを持つ理由や意味は、「跡継ぎや労働力を確保する」「子孫を残すことで社会を繁栄させる」等の社会的理由から、「単純に子どもが欲しいから」といった個人的な理由に変化しているそうです。この変化の背景として、子どもが生まれることに対する捉え方の変化が挙げられます。昔は「子どもは授かりものである」というように自然現象として捉えられていました。しかし現代では「子どもを産む」というように、主語が母親や夫婦に置き換わり、子どもは計画的に産むものであるという捉え方が増加しています。この考察を聞いて、子どもの社会的な意義が弱まったことによって、子どもを欲しくない人や子どもを育てたくても育てられない人は子どもを作らないという選択ができるようになり、結果的に少子化に繋がっているのではないかと思いました。生まれてくる子どもの幸せを考えるあまり、そもそも子ども自体が減ってしまっているのは難しい問題だと思います。

Nさん:竹田いさみ『海の地政学』(中公新書、2019年)

本書では、前半で海洋の重要性に気づき、次々と海へ進出していった国々の世界史、後半では領海や排他的経済水域などの海洋に関する法律や制度、条約などが解説されています。Nさんは、前半の国々の世界史の中から、海洋の覇権を取ったイギリスについてお話してくださいました。

まずイギリスは、大航海時代にスペインの船から人材や資源を略奪しながら、奪った人材や資源を国力とすることによって成長していきます。その後、どんどん強大になったイギリスの海軍は、アメリカ、インド、オーストラリアの海運の要所を次々と抑えることによって覇権を握っていきます。そして20世紀に入り、第一次世界大戦が始まると、世界各国は植民地との情報網を築くため、海底にケーブルを開通させ始めました。その頃イギリスはすでに世界中に海底ケーブル網を構築していました。そこで世界中の他国のケーブルを自国に繋げ、情報を傍受したり、切断したりすることで、第一次世界大戦を優位に立ちまわり戦勝国になることができたそうです。

私は、19世紀の頃からすでに海底ケーブルという電信技術が確立され、20世紀にはそれが世界中に張り巡らされていたことにまずとても驚きました。世界史を海洋という視点から見ることはとても新鮮で面白かったので、後日私もこの本を読んでみようと思います。

Hさん:原田隆之『入門―犯罪心理学』(ちくま新書、2015年)

本書は、タイトルの通り犯罪心理学という学問を初心者にもわかりやすく解説している本です。日本では、窃盗や交通違反などの軽犯罪も含めると年間240万件ほど犯罪が発生しているそうですが、これは直近10年間で減少傾向にあるそうです。罪を犯しやすい人には8つの危険因子と呼ばれる共通点が挙げられます。

Hさんの報告では、この中でも特に影響力の高い4つの危険因子を紹介してくださいました。1つ目は、犯罪歴です。犯罪歴がない普通の人に比べて、犯罪歴がある人は再犯率が高い傾向にあるそうです。2つ目は、反社会的パーソナリティです。これは、物事に対して無責任だったり、周囲への攻撃性が高かったりする人物が該当します。3つ目は、反社会的認知です。これは、犯罪に対して罪悪感や抵抗感がなく、目的を達成するためなら罪を犯しても構わないという考え方のことを言います。4つ目は、反社会的交友関係です。素行の悪い反社会的な人物と関わりが深い人は、比較的罪を犯しやすいそうです。

この報告を聞いて、犯罪心理学という学問も面白い分野だと思いました。上記の他にも、受刑者にとって人気の刑務所だったり、殺人事件の発生率だったりと興味深いデータをいくつも示してくれたためになる報告でした。

Kさん:渡辺弥生『感情の正体』(ちくま新書、2019年)

本書では、発達心理学の観点から感情の正体について、考察と解説がなされています。まず、感情の正体に関して、ジェームズ・ランゲ説というものがあります。要約すると「悲しいから泣くのではなく泣くから悲しい」ということです。つまり、泣くという身体的な現象が起こった後に悲しいという感情が生まれるという説になっています。

続いて、感情のコントロールの方法には、東洋的なアプローチと西洋的なアプローチの二つがあるようですが、Kさんは東洋的なアプローチについて紹介してくださいました。東洋的な感情のコントロールの方法として、マインドフルネスというものがあるそうです。やり方はとても簡単で、意識を呼吸に集中するだけでいいそうです。人は大人になると過去や未来のことを考えすぎて、余計な悩みや心配事をたくさん抱えてしまう傾向にあります。だからこそ今に意識を集中させ、余計なことは考えないようにすることによって、感情を上手くコントロールすることができるようになります。

この他にも、青年期に問題行動が増える要因や自尊心と承認欲求に関するお話などもあり、とても興味深い新書報告でした。


今回の新書報告は、皆さんそれぞれが全く分野の違う新書だったため、様々なジャンル、学問の知識を学ぶことができました。来週の相澤ゼミは、4年生のOさんの卒論検討会を予定しています。どんなお話が聞けるのかとても楽しみです。


2022年11月2日水曜日

2022年度後期第7回:新書報告(E班)

 こんにちは。ゼミ生2年のMです。11月に入りました。気温が下がることに加えて年末に向け慌ただしくなってくる時期ですので、皆様も体調にお気を付けください。さて、本日はE班の新書報告を紹介します。

M :伏木亨『人間は脳で食べている』(ちくま新書、2005年)

こちらは私の報告になります。

本書では食べ物の「おいしさ」のメカニズムを研究する著者が、現代における「おいしさ」について語っています。おいしさは「やみつきになる(繰り返し食べたくなる)おいしさ」「文化、習慣によるおいしさ」など、本来多層的に構造されているものです。しかし、情報過多の環境で生きる現代人は「おいしさ」の一つである「情報のおいしさ」に頼り過ぎてしまっています。「情報のおいしさ」とは、包装や成分表示、価格、ブランドなどの情報から味に先入観を持つことです。口に入れるものへの評価を脳の情報に依存している現代人は、まさに「脳で食べている」状態です。著者は情報以外の要素から食べ物の価値を測る力が鈍くなってしまっているという現状に、危機感を抱いています。

本書を通して、自分も含め現代人は想像以上に「脳で食べている」のだとわかりました。自分にとっての「おいしい」とは何なのか、食への向き合い方をもう一度見つめ直してみたいと思いました。食に関心のある方に手に取っていただきたい一冊です。

Yさん:齋藤孝『極上の死生観 60歳からの「生きるヒント」』(NHK出版新書、2020年)

本書では「死生観」について語られています。私はフロイトの話と、寿命の話が印象に残りました。フロイトは無意識研究などを行った精神科医です。Yさんが紹介した「人は死を恐れているようで死を望んでいる」というフロイトの言葉は、人はいつか死ぬために生きている、すなわち「死生観」を考えることは人生を考えることでもあると捉えられるように感じます。若いうちから死生観を考え始めても遅すぎるということはないのかもしれません。

また「最近は医療技術が進歩し寿命が伸びているが、本当にそれは良いことなのか」というYさんの一言に共感を覚えました。テレビで「人が400歳生きる時代が来るかもしれない」と言う研究者を見たことがあるのですが、400年も生きられるだけの心身の強さが人にあるのだろうか、時間が有り余る人生に意義はあるのだろうかとほんの少し疑問を感じたことを思い出しました。

Sさん:柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書、2022年)

本書では食事や運動の時間と脂肪を落とすことの関係を解説しています。特に私の印象に残っているのは、運動する時間についての説明です。

脂肪を落とすためには、副交感神経が活性化する夕方に運動することが有効です。朝食前も直接脂肪が燃やせるという点では有効ですが、エネルギー切れの恐れがあるため夕方が望ましいそうです。また、望ましい運動は30分程度の少し息が切れるウォーキングで、10分を3回に分けても効果はあるとのことでした。

食事に関しては、1日3食食べて体内時計のリズムを整えることが重要です。食べる時間と食べない時間をしっかりと区切らないと、体内時計のリズムが乱れてしまったり、栄養を過度に吸収してしまったりするそうです。

実践してみたい知識が盛り沢山な発表でした。3食食べることは、簡単そうに見えて案外できていない方もいるのではないでしょうか。私も今一度自分の食生活を見直してみようと思いました。

Hさん:増本康平『老いと記憶』(中公新書、2018年)

本書では、加齢と記憶、認知の関係について解説しています。年齢で衰える能力の一つに「ワーキングメモリー」があります。「ワーキングメモリー」とは、思考や判断などの際に必要な情報を一時的に保持、処理する短期記憶能力です。例えば、「ワーキングメモリー」が衰えると読書が難しくなります。これは、どの部分まで読んだのか、その時点まで本から得た知識を覚えていられないからです。また、加齢により衰えるのは記憶力そのものではなく、記憶を頭から引き出す力だそうです。記憶力の低下を防ぐ方法として、著者は脳トレには否定的です。人と人とのコミュニケーションなどにより脳を働かせることが有効だと主張しています。

歳を取っても記憶力そのものが衰えるわけではないことに驚きました。私自身が老いるのはまだ先ですが、身近な高齢者との関わり方を考える上でも一度読んでみたい本です。


今回は身体に関する話題が多かったように感じます。どれも興味深いものでした。来週の報告も楽しみです。


2022年10月26日水曜日

2022年度後期第6回:新書報告(D班)

 こんにちは。ゼミ生3年のYです。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。今週、東経大で葵祭が開催されるため、キャンパス内も少しずつお祭り仕様になってきています。葵祭はコロナ後、初めてのリアル開催なので、とてもワクワクしています!気持ちはとても温まっていますが、気温は下がってきているので、暖かくしてお過ごしください。さて、今週のゼミはD班の新書報告でした。報告の内容を紹介していきます。

Kさん:坂本貫志『ほんとうの定年後 -「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書、2022年) 

本書で著者は「定年後も、生活費・日本社会を維持するために働きましょう」と主張しています。これまでは、定年後は働かずに年金だけで生活が出来ていました。しかし、年金の受給額が減少や受給年齢が引き上げられた影響により、収入と支出の割合が逆転し、貯金を切り崩しながら生活をする人が増加しています。そのため年金だけで生活を維持するのが難しい時代になっています。この問題を解決するには「小さな仕事(非正規雇用・アルバイトなど)」をしながら生活することが必要だと、著者は主張しています。

私はまだ大学生という立場なので、定年後の生活を具体的にイメージすることは難しいと感じました。また、本書で語られている定年後の暮らしと、私たちが実際に定年を迎えたときの暮らしでは、状況がさらに変化しているだろうと想像します。しかし、最後まで幸せに生活するためには、定年後の生活を考慮するのが大切だと感じました。定期的に自分の人生観を見直していきたいです。

Hさん:丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新書、2022年)

本書は、「お金」「仕事」「成功」「覚悟」「生きる」の5つの切り口から、生き方について考えていく一冊です。私は、2章で語られている「ワークライフバランス」についてのお話が印象に残りました。一般的にワークライフバランスは「仕事とプライベートをそれぞれ確立して両者のバランスを取っていく」という意味で使われていることが多いと思います。しかし、著者はその認識を否定し、「人間は働くことが本来の在り方」、「働くために生きているのだ」と主張しています。

私は、著者のこの主張に共感しました。しかし、「私(Y)自身の働く目的は何か」を考えてもわからずモヤモヤしました。著者はきっと、働き方(手段)と自分の生き方(目的)が一致しているから、仕事こそが生きがいになっているのだと思います。働き方を考える前に、その根底にある「生きる」意味と向き合うことが、私自身のモヤモヤを解決するヒントになると感じました。社会人になれば、働く時間が人生の半分以上を占めることになります。自分の生きる目的を叶えられる仕事を選ぶためにも、「自分とは何か」を哲学し続けたいです。

Zさん:日本植物病理学会『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(ブルーバックス、2019年)

私たちは普段、感染症などの病気にかからないためにマスクをつけています。植物たちも同じで、病気にかからないために対策をしているそうです。本書は、植物たちの病原菌の対策に焦点を当てて書かれた一冊です。Tさんは、植物の病原菌感染対策の話を3つ紹介してくれましたが、私の印象に残ったのは、リママメのお話です。リママメは、害虫から身を守るために、害虫の天敵となる虫を呼び寄せるフェロモンを発するという特徴を持っている植物です。

植物には、人間のように考えるための脳があるわけではありません。脳で「考える」という行為をしなくても、どうやったらより長く地球上で生き残れるのかを感じ取り、進化しているのが、非常に面白いと感じました。植物たちがどのように危険を察知し変化していくのか気になったので、私も植物に関する書籍を読んでみたいです。

Kさん:山本博文『「関ヶ原」の決算書』(新潮新書、2020年)

本書は、関ヶ原の戦いと島津氏という大名を主人公にした話がメインで書かれています。決算書というタイトルが付けられていますが、お金の流れについての解説はあまりされていないそうです。報告では、「関が原での撤退戦、島津の退き口」について紹介してくださいました。この戦いは、島津氏が巷で「戦闘民族・バーサーカー」などと呼ばれるようになったきっかけになったそうです。

Kさんの話を聞き、大将・島津義弘の戦略が無茶すぎると感じると同時に、自分たちが有利になるように考えて陣を導けるカリスマ性に感心しました。大将の戦略によって、300人対3万人の戦いで80人生き残るという結果を残している事実に衝撃を受けました。歴史の教科書ではあまり見ることのない名前なので、今回初めて島津氏の存在を知りましたが、もっと詳しく知りたくなりました。

Tさん:石井直方『カラダが変わる!姿勢の科学』(ちくま新書、2015年)

説明中のTさん。
本書は、姿勢を良くすることが大切だと伝える一冊です。姿勢次第で、肩こりや腰痛、ポッコリお腹などの問題を解決できると教えてくれました。姿勢をよくするためには、筋肉をつけることが大切です。ただし、ボディビルダーのような魅せる筋肉ではなく、バレリーナやスケート選手のようなしなやかな筋肉を目指すのがよいそうです。

みんなでトレーニング。
実際に、本書に書かれているトレーニングをゼミ生全員で実践しました。動きはシンプルで簡単なものでしたが、普段使わない内側に効いている感覚がありました。内側の筋肉を鍛えるためには、ゆっくり動くことが大切なようです。体幹を鍛えるトレーニングをするときは、心掛けてみてください。


今回も非常に面白い報告を聞くことができました。来週のゼミはE班の報告です。どのような話が聞けるのか楽しみです。

2022年10月19日水曜日

2022年度後期第5回:新書報告(F班)

 こんにちは!3年のSです。昼間も寒いですが、夜は特に冷え込むようになってきました。羽織やストールなど、暖かくできるアイテムを身に着けてお過ごしください。それではF班の新書報告を紹介します。


Uさん:瀧口美香『キリスト教美術史』(中公新書、2022年)

本書は、読者に芸術鑑賞を楽しんでもらうために、主にキリスト教美術を味わうのに必要な知識を三つ紹介しています。

一つ目は、偶像崇拝です。キリスト教は一神教で、唯一の神を信仰します。従って、描き手によってイメージが変わってしまう絵画は禁止されていました。では、なぜ教会や美術館に絵画が展示されているのか。それは、絵で表現すると、書物に比べ簡単に布教することができたからです。このため、聖書を基にした絵画が数多く描かれてきました。

二つ目は、表現技法の発展です。絵画に限らず、建築技術も時代と共に発展しました。例えばステンドグラスです。電気がなく、日光で明かりを得ていた人々は、窓からさす光を有効活用しようと窓ガラスに注目しました。その結果、自然と融合した美しい作品であるステンドグラスが生み出されました。このように、時代背景と技法の発展には密接な関係があります。

三つ目は、東西の違いです。絵画は、大きく二つに分けることができます。それは、奥行きがない絵と、遠近法が用いられた写実的な絵です。東の地方では、一神教の意識が強く、画法を統一して描いていました。西の地方では、より伝えやすくするために、描き手が想像する姿で自由に描かれました。よって、西の地方では時代と共に技術が発展し、写実的な絵画が今も残っています。美術展によっては、西と東で絵画を分けて展示している場合もあるそうです。

以上がキリスト教美術作品を楽しむために必要な三つの知識です。家族でよく美術館に行くので、全員で1度読んでみたいと思います。美術館に行く予定がある方、興味がある方は是非読んでみてください。


Kさん:渡辺正峰『脳の意識 機会の意識』(中公新書、2017年)

本書は、脳神経科学の専門家である著者が、脳と意識の関係を解説した一冊です。

意識とは、感覚的体験を指します。感覚的体験とは、何かを思い出そうとする何とも言えない感覚、アイデアをひらめいたときの感覚です。この感覚が脳のどの部分で起こっているのかを見つけると、感覚的体験のメカニズムを知ることができます。また、メカニズムの解明によって、自我や意識の本質を理解できると考えられています。

脳と意識の関係を探るために、1990年代後半から実験が行われてきました。その結果、意識と連動する脳の位置は特定できましたが、意識を担う部分の特定にはいまだに至っていません。そこで著者は、脳を機械で再現することで、脳の意識のメカニズムを見つけ出せるのではと考えました。なぜなら、脳の仕組み自体は少し複雑な電気回路であり、自我と意識を除くと、機械と同じような仕組みになっているからです。再現していく過程で脳と機械の違いを見つけ、意識のメカニズムが発見できると著者は予測しているそうです。

現在でも、脳と意識の関係についてわかっていることはほとんどありません。しかし、いつの日か意識の神秘が解き明かされ、私たちの意識が機械に乗り移ることもできるのではないか、とKさんは話していました。SF映画にありそうな話ですが、Kさんの報告を聞いて実現するかもしれないと思いました。機械に意識を移せるようになれば、身体が古くなっても新しいものに交換できるようになります。将来、不死の時代が来るかもしれません。


Nさん:岡村均『時計遺伝子-からだの中の「時間」の正体 』(講談社ブルーバックス、2022年)

本書は、体内時計とは何か、深夜にコンビニに行くと元気になるのはなぜか、その理由を時計遺伝子との関係から解説しています。

時計遺伝子とは、体内時計をコントロールする遺伝子です。時計遺伝子は24時間間隔で、光の明暗を用いて体を管理しています。例えば、朝に起きて夜に寝る生活リズムが挙げられます。哺乳類は目の奥に「視交叉上核」という時計の役割を持った領域が存在します。視交叉上核は、光の情報を目から受け取ります。起床時に浴びる太陽光は目覚めの信号と決まっているため、目を通して視交叉上核に送ることで身体を動かし始める仕組みになっています。

では、なぜ深夜にコンビニに行くと元気になってしまうのか。それは、コンビニの光が太陽光に似ているからです。目からコンビニの光を浴びることで視交叉上核が反応してしまい、朝が来たと勘違いします。実際は、朝の太陽光ではないため、昼間のように活発ではありません。しかし、2時間程活動が延びてしまい、夜更かしの原因になります。

以上が時計遺伝子と体内時計の関係です。明るい時間に活動し、暗い時間は休むリズムが、狩りを行っていた時代から現代まで受け継がれていると考えると、不思議な感覚になりました。健康に大切な早寝早起きを心掛けたいです。


Tさん:伊藤比呂美『女の一生』(岩波新書、2014年)

本書は、質疑応答形式で書かれた、女性の一生を見るかのような一冊です。Tさんは二つの質問と答えを紹介しました。

一つ目は、若い女性によるダイエットに関する質問です。流行りの服は細身で、華奢な女の子がかわいく着こなしているから自分も痩せる必要がある。しかし、どうしたらよいかわからないとの質問でした。著者の答えは、「なぜ痩せたいかを考える」でした。細身で華奢な女の子がかわいいのは、世間が作り上げた価値観だからかわいくて当たり前。あなたはその価値観にとらわれずに、自分が着たい服をきるべきと答えが述べられていたそうです。

二つ目は、恋愛がうまくいかないという性と恋愛に関する質問でした。著者の答えは、「自分と他人をしっかり区別できるようになる必要がある」でした。男女の恋愛でよく起きる失敗は、自分と他人を同じように扱ってしまうことです。まずは、私は私と認識できるようになること。次にあなたはあなた、と区別することで恋愛上手になれるそうです。

Tさんは女性について知ることができると思い、本書を読んだそうです。今の自分が知りたかったことは書かれていなかったと話していましたが、これからも様々な人と関わる機会があります。私は、今知識を生かせるタイミングが無くても、将来参考になる日が来るのではないかと思いました。他の質問と答えが気になったので、読んでみたいと思います。




以上F班4人の新書報告でした。他の班に比べ報告人数が少ないですが、1冊の内容が濃く、どれも印象に残る報告でした。次週はD班による2回目の報告です。体調に気を付けてゼミ活動に取り組みましょう!

2022年10月12日水曜日

2022年度後期第4回:新書報告(E班)

 こんにちは、3年のNです。すでに10月も半ばになり、肌寒さが増してきたように思います。そして、今回から新体制での新書報告になります。

Sさん:高水裕一『宇宙人と出会う前に読む本』(講談社ブルーバックス、2021年)

本書は、宇宙人のような異なる知的生命体に出会ったときに、どのように向き合うかについて解説した一冊です。宇宙にあるカフェで会話をしているという物語仕立てで話が進み、比較的とっつきやすい本という印象を受けました。宇宙人との対話の例として、地球に住む我々が自己紹介をする際、「地球出身です」と答えても、相手は「地球」という単語を知らないため理解できず、コミュニケーションが円滑に行われない、というものが紹介されました。当たり前に感じている自分たちの常識が、どこでもそのまま通用するわけではないことを思い知らされます。地球の枠組みを超えた宇宙人という存在を考えることによって、より広い基準での教養が身に着けられると思います。

Sさんは、例えば宇宙人が攻めてきたときにコミュニケーションを取れれば分かり合える場合もあるのではないか、と話していました。地球人同士のスケールでも同じ、自分のもっている常識を見つめなおすことは、異なる価値観の相手とのコミュニケーションの際に必要だと感じられました。

Yさん:小坂国継『西田幾多郎の哲学ー物の真実に行く道』(岩波新書、2022年)

「自分の本質とは何か」を問い続けた西田幾多郎の哲学を解説した一冊です。Yさんが紹介してくれたのは「純粋経験」についてです。これは主観と客観が未分化の状態のことを指します。Yさんの説明を聞いて、私は、経験の蓄積によって得られた感覚を抜きにして、そこに映る事象そのものを捉えることだと理解しました。

哲学の話題は難しく、どう理解したらよいのかわからないことが多くあります。主観を抜きにした純粋経験というものはあり得るのかという質問もありましたが、Yさんは、純粋経験とはなにか、本質とはなにかを問い続けることが大切と。今回はゼミ生の活発な質問もあり、ゼミ内でよかったと思います。

Tさん:本田創造『アメリカ黒人の歴史』(岩波新書、1991年)

日本国内でも話題になったBLM (black lives matter)に関心を持ったTさんが紹介してくれました。アフリカ大陸にルーツを持つ黒人の歴史について書かれた書で、奴隷制に関連した話題を紹介しています。16~17世紀、黒人は奴隷であり、人ではなく資産として扱われていました。18世紀には奴隷貿易が中止されましたが、奴隷制自体は存続しました。19世紀に反対協会が設立され、奴隷制に反対する勢力が徐々に出てきました。その後、奴隷解放宣言によって奴隷制が廃止されたのが1863年です。奴隷制がなくなったものの黒人に対する人種差別は続きました。様々な権利運動の活発化した1970年代に入り、黒人への人種差別はようやく改善の方向に向かいだしたそうです。

この新書は2001年に出版された本で、少し情報が古いため、現在も残る問題については記述しきれていませんでした。今起こっているBLMなどの問題については、この本に書かれていることを踏まえつつ、改めて考えていく必要があると感じます。

Mさん:齋藤孝『読書力』(岩波新書、2002年)

本書は、読書をする習慣がない人向けに、著者の考える読書法を紹介した書です。著者は、読書をするうえで特に、娯楽小説や推理小説ではない学術的な読書を読むことを推奨しています。理由として、学術的な書は、娯楽小説などと比較してある程度緊張感をもって取り組むことができると述べています。また、著者は、練習や積み重ねによって上達するものであるという点で、読書とスポーツを似たものだと捉えています。Mさんは本書のなかで、上手な読書をするための4ステップを紹介してくれました。

巻末には著者おすすめの文庫本が100冊紹介されているそうなので、機会があればいくつか読んでみたいです。秋学期が始まるこのタイミングで改めて読書のやりかたについて確認できてよかったと思います。

Iさん:伊勢武史『2050年の地球を予測する』(ちくまプリマー新書、2022年)

生物学の博士である著者が、環境問題の基礎知識を解説している一冊です。Iさんはそのなかから球温暖化について取り上げて紹介してくれました。

地球温暖化は二酸化炭素やフロンの増加によって発生する問題です。環境保全への取り組みが進んでいますが、それでも平均気温は上がり続けています。著者は対策の一つとして、環境保全とビジネスを組み合わせることを提案しています。私は、著者は生物学者ながら、柔軟な姿勢で環境問題に取り組んでいると感じました。

著者は、本書を読んで環境問題に対する姿勢を読者に少しでも身に着けてほしいと考えています。普段はあまり意識しない環境問題ですが、Iさんの紹介を聞き、私も普段から心構えを持っておこうと思いました。 


今回の新書報告も様々な分野の話題が取り上げられました。この時期は気温の変化も著しく体調には気を遣うと思います。次週も気を付けて報告に取り組みましょう。


2022年10月5日水曜日

2022年度後期第3回:新書報告(Ⅾ班)

こんにちは。二年のKです。10月に入り、季節の変化を日々実感する毎日です。肌寒い日が増えてきたので体調にお気をつけて過ごしてください。さて、本日は後期最初の新書報告を紹介していこうと思います。

Hさん:土井成紀『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版、2022年)

本書は、昨今耳にするようになったメタバースについてビジネスの視点で解説した一冊です。そもそもメタバースとは何でしょうか。メタバースとは「インターネット上の仮想空間」や「仮想空間において行われるサービス」のことを指すそうです。メタバースはその性質上ゲームやヴァーチャル事業と相性がよく、とても期待されている事業でもあります。そんな事業には、これから多くの企業が参戦することが予想されています。中でもGAFAと呼ばれる大企業は確実に参加するといわれています。メタバースによって私たちの生活が現実から仮想の世界に移っていく未来も、そう遠くはないのかもしれません。

最新技術にかかわる話で興味深い内容でした。発表の際にメタバースを映画「サマー・ウォーズ」に登場するOzに例えていて、とても理解しやすかったです。

Tさん:五十嵐敬喜『土地はだれのものか~人口減少時代の所有と利用』(岩波新書、2022年)

現在の日本では少子高齢化と都市部への人口集中が進んでおり、空き家問題が発生しています。この空き家問題に解決のめどはたっていません。解決が難しい理由として、地方公共団体の数の減少や空き家に対する措置の難しさが挙げられます。空き家への対応が難しい事情が二つあります。一つ目は費用が掛かるということです。壊すのにも一定以上のお金がかかり、またその予算にも限りがあります。二つ目に土地の所有権の強さがあります。このような多くの課題を抱えている空き家問題には全く新しい解決方法を提示することが急務であると著者は述べています。

自分の周りにも空き家が存在しているため他人ごとではなく親身に発表を聞くことができました。空き家はその土地を有効活用できていないという点でも大きな損失であり、解決が急がれる問題であると感じました。

Kさん:除本理史、佐無田光『君の街に未来はあるか?〔「根っこ」から地域をつくる〕』(岩波ジュニア新書、2020年)

日本はわかりやすく東京一極集中の状態です。政治、経済が都市部に集中する一方で、人口等も地方と首都圏では格差が存在しています。しかし、こういった現状とは裏腹に地方に移住したいと思っている人は増加傾向にあります。移住を希望する人たちに実際に行動してもらうためには強い地域性を築くことがカギになります。そして地域の根っこをつくるには二つのことが重要になります。まずは住人が地域の良さを知ることです。その次に商業的なプロモーションをするのではなく本当の良さだけを発信することが重要です。もし地域の特産がなければ新しく作ることも一つの方法だと著者は述べています。

発表を聞き、地方の人達による地域おこしへの努力がひしひしと伝わってきました。日本は東京だけで成り立つわけではありません。地方それぞれとの連帯があってはじめて国が機能します。地方の人口減少は深刻な問題であり、その地方に住む人々だけではなく日本全体で考えるべきだと思いました。

Oさん:山口裕之『「みんな違ってみんないい」のか?相対性主義と普遍主義の問題』(ちくまプリマ―新書、2022年)

本書では「みんな違ってみんないい」という言葉を通して相対主義と普遍主義の立場を解説しています。相対主義とはみんな違ってみんな良いという相対的なものの見方や考え方をする立場です。普遍主義とは事実が確固として存在するという立場です。発表では「正しさ」とは何なのかという話題から派生して、正しい情報を見分けるポイントを二つ介していました。一つ目は情報の出どころを確認すること、ネットだけではなく本などからも情報を得ることが大事です。二つ目は複数の意見と比べ判断することです。

新書発表をしている私たちは人一倍情報の扱いに敏感であるべきです。本から得た情報というだけで無条件に信じ込むことは危険だからです。本の情報は古すぎないか、著者の専門は何なのかに気を付けて本を選ぼうと改めて思いました。

Kさん:三井秀樹『ガーデニングの愉しみ 私流の庭づくりへの挑戦』(中公新書、1998年)

本書は大学の講師がガーデニングに励む奮闘記です。著者がガーデニングを通して気づいたことをまとめています。庭師には自分なりの理想の庭像があります。その理想を目指して庭造りをするためそれは重労働であり、計画性が必須の作業になります。しかし相手は植物。そう簡単にはいきません。植物が自分の想像通りに育つことは稀です。そんなときの対応で庭師は二つに分けることができます。植物の偶然性を管理しようとする模型職人とその偶然性に付き合い、受け入れようとする庭師の二つです。ガーデニングを楽しむためには後者のメンタリティが必要であると著者は述べています。そしてガーデニングをするうえで最もダメな考えが「育て方は正しかったのか」という自問自答です。失敗はあっても間違っている育て方などはないと著者は述べています。

植物についての発表でしたが多くのことに通じることだったと思います。私たちの力ではどうしようもないものが多く存在します。その時真っ向からぶつかるか、受け入れ、うまく付き合うかで人生の彩も変わるのかもしれません。

今回の新書報告では以上の5冊が紹介されました。どれも興味深く、印象に残る部分が多かった発表でした。

相澤追記:私の都合で、今回のゼミをもってお休みをいただきます。残りのゼミは、早尾貴紀先生がご担当くださいます。ここまで頑張ってくれたゼミ生に感謝するとともに、今後の活躍を期待します。


2022年9月28日水曜日

2022年度後期第2回:グループワーク「ポピュラーミュージックの歌詞を鑑賞する」

こんにちは。ゼミ生4年のOです。今回は、後期のゼミ運営会議とグループワークを行いました。

運営会議で後期のゼミ活動内容を確認した後、相澤先生考案のグループワークを行いました。私たちゼミ生は、当日まで何をやるか知らされていなかったのでワクワクしていました。その内容はずばり、「ポピュラーミュージックの歌詞を鑑賞する」です。
リンジの代表曲「エイリアンズ」
を鑑賞し、3~4人のグループに分かれて曲の解釈を試みました。

まず各自歌詞カードを読んだ後、曲を実際に聴きました。ゆったりとした曲調で男性歌手2人が歌うメロディーには、どこか切なさを感じました。その後、ワークシートを使いながらまずは一人で歌詞を解釈し、その後グループでお互いの解釈をシェア、最後にグループでまとめた解釈を発表し合いました。

相澤先生が用意してくださったワークシートには、以下のような質問が書かれていました。「曲中の語り手や聞き手はどんな人物か」、「いつ、どこで語られているか」、「どのようなストーリーが歌われているか」、「この曲をどのように楽しむか」…。これらの項目ごとに細かく分析した班もあれば、全体的なストーリーを捉えようとした班もありました。ゼミ生それぞれで多様な解釈の仕方があり、グループで話し合うことで、また新たな解釈が生まれました。

ここでは、グループごとに発表された全体的なストーリー解釈を紹介します。「語り手と聞き手は恋人同士だが、禁断とされる関係(例えば不倫や同性愛)、夜明けになるとその関係を終わらせようとしている」、「自称ミュージシャンの男性が、働き詰めで疲れているまったく他人の女性に寄り添うように歌っている」、「夜中にお酒を飲んで泥酔した男女カップルが千鳥足で踊っている」などがありました。中でも特に多かったのは、「同性愛の二人の関係が終わり、どちらかがいなくなる」予感を感じさせる解釈でした。これは相澤先生の解釈にも近く、多くのゼミ生が曲中の二人の結末はアンハッピーになるだろうと予想していました。

長野で部活合宿したKさんから
差し入れが!
今回のポピュラーミュージック鑑賞では、自分が感じたことをまとめるだけでなく、そう感じる根拠を歌詞の言葉や音の印象から見つける必要がありました。そのため、普段何気なく音楽を聞くよりも、一歩進んだ鑑賞ができたのではないでしょうか。私は、他のゼミ生の鋭い指摘になるほどと思った瞬間が何度もあり、ゼミ生同士の交流もできて有意義なグループワークになったと思います。

次回から、通常通りに新書報告を行います。前期よりも活発な質疑応答のある報告会になることを期待しています!

2022年9月21日水曜日

2022年度ゼミ 後期第1回:夏休みに読んだ本報告

 担当教員の相澤です。夏休みが終わり、後期の授業が始まりました。第1回のゼミでは、いつもの新書報告に代えて「夏休みに読んだ本報告」を行いました。

部活の合宿で長野に行った
Oさんのお土産!
まずは小グループに分かれて、夏休みの様子を話すアイスブレイク。私も各グループで少しずつ話を聞かせてもらいました。過ごし方は様々ですが、皆充実した夏になったようです。続いて、グループ内で夏休みに読んだ本をシェアしあいました。

続いて本番。一人ずつ、全員に向けて夏休みに読んだ本を一冊ずつ紹介、質疑応答してもらいました。普段のゼミでは新書に絞って報告していますが、今回は小説あり、エッセイあり、絵本ありとセレクトがバラエティに富んでいました。その結果、各ゼミ生の個性がよく出ていたように思います。

私が10月初旬からお休みをいただくため、私が担当するゼミも残すところあと2回。次回は、私が不在にする間の運営計画を皆で練る予定です。



2022年8月5日金曜日

課外活動:スイス プチ・パレ美術館展鑑賞

美術館前にて。
(撮影時のみ、マスクを外しています。)
夏休み真っ最中の8月5日に、ゼミ生と新宿にあるSOMPO美術館を訪れました。同美術館では、スイスのジュネーヴにあるプチ・パレ美術館の所蔵品展が開催中。19世紀後半から20世紀にかけてのヨーロッパ絵画の流れを楽しみながら辿りました。



今回は「グループ鑑賞の試み」と題して、まずは一人で自由に鑑賞したあと、三人グループに分かれて各自が自分の気に入った絵をシェアする形で実施しました。自分が惹かれた点を言葉で他者に説明することによって、絵の魅力をより実感できたのではないかと思います。

以下、参加者の感想です。

Kさん

 事前知識を何も持たずに美術館に行ったが、とても新鮮で素晴らしい体験ができた。美術館に行かなければ体験できなかったような事がたくさんあった。その一つに絵というものがどういうものか実感した事だ。写真ではなく、絵であるという事を実感するとはどういうことか。私たちが名画に触れる時は写真を通して見ることが多い。しかしそれは実際にはプリンターのインクではなく絵の具が使用されている。そして絵の具は何回も塗り重ねられている。実際に絵を見る事でそういった細かい工程をまざまざと思い浮かべる事ができた。これは写真ではなく実際に絵を見てみないとわからない事だ。他にも新しい発見があった。それは絵画との距離によって見えるものが変化する事だ。ニコラス・アレクサンドロヴィッチ・タルコフ作の『木陰』という絵画がとても印象に残っている。その絵画は原色を大胆に使い、筆のタッチもとても豪快だった。人物も写っていたが最初見た時はこの絵は色使いの様を楽しむ絵画であると感じた。しかし、絵との距離をとるにつれ人物の表情が浮かび上がってくるのだ。それはまさに計算された完璧な色の配分によってなされているものだった。このように絵画との距離によってその絵が見せる表情も異なってくる。このように美術館に行く事でしか得られない体験が多くあった。

 最初に述べたように私は事前知識もなく美術館に向かったが、この美術館では時代背景と共に美術の文化の変遷が解説されている文章があり、私のような初心者でもじっくりと絵画鑑賞を楽しむ事ができたのでとてもおすすめだ。自分一人ではこのような貴重な体験をすることはできなかっただろう。この企画を発案してくださったU先輩や身重の体で引率をしていただいた相澤先生にはとても感謝している。

Rさん

今回印象派以降の絵画65点が展示されていたが、非常にバリエーション豊かで見飽きることのない美術展だった。美術史に沿った展示で、絵画の時流に乗った作品が数多く展示されていた。

最後にドーンと展示された「ひまわり」。
(撮影可の作品をゼミ生が撮影しました。)
惹かれた作品は数点あったが、その中でもSOMPO美術館の巡回広告でもピックアップされていた、モーリス・ドニの《休暇中の宿題》が印象的だった。家の中にいる作者の奥さん、子どもたち3人を描いた絵画で、静かに流れる日常のひとときを切り取ったような絵画だった。窓から差し込む太陽の日差しも相まって温かさの伝わってくる1枚だったが、この奥さんとは後に離婚しているとのこと。そのことを知るとまた違って絵画が見えてくるのも、絵画鑑賞の面白さだと思う。絵の具の凹凸や点描の技法、絵画そのものの大きさなどは、間近で本物を見ないことには捉えられない。生で見ることで、印刷では味わえない作者の思いを強く実感できると実感した。(余談だが今回の展示で、なんとなく見覚えのある絵画があると思ったが、この展覧会は既に地元にも巡回に来ていたもので、チラシが手元にあった。)

また、SOMPO美術館の目玉コレクションとして、ゴッホの描いた7枚のひまわりのうち、唯一日本にある1枚が常時展示されていた。今回はじめて見たが、想像よりも大きい作品で、まさに私たちの知る”あの”ひまわりそのものだった。

Oさん

今回の美術館鑑賞は、私にとって新鮮なことが多かったと振り返る。

これまでの鑑賞では、何の目的も持たずに美術品をなんとなく見るだけで、どこにその作品の良さがあるのか分からないまま終わってしまうことが多かった。しかし今回は、「自分の部屋に飾りたい一枚を見つける」という目的があったため、鑑賞ガイドや掲示された説明を注意深く読みながらじっくり鑑賞することができた。

2周目、ゼミ生と一緒に鑑賞した。私はRさんとKさんと一緒に、階ごとに自分が部屋に飾りたい絵を紹介しあった。すると驚いたことに、私が気に入った絵を、RさんとKさんも気に入っていたのである!

その絵とは、新印象派にカテゴライズされる「ファン・デ・フェルデ夫人と子どもたち」だ。絵の全面が点描で描かれているのが特徴である。私がこの絵で特に目を見張ったのは、夫人と子どもたちの髪の毛や衣装の光沢感の表現だ。光が当たるところとそうでないところが点描を用いて繊細に色分けされており、絵の中の彼女たちは今にも動きだしそうなくらい生き生きとしていた。耳をすませば彼女たちの会話が聞こえてきそうだと思った。

小グループワークだけではなく、全体でみんなの気に入った絵を紹介する時間も取れたらもっと発見があったかもしれない。それほど内容の濃い鑑賞会だった。ぜひまたみんなで行きたい。

Uさん

前期のゼミの新書報告にて、高階秀爾『近代絵画史(上)-ロマン主義、印象派、ゴッホ』(中公新書、1975年)を発表した。

その過程で、絵画は思いつきで描かれたのではなく、歴史や流行によって作風は変化する事を学んだ。

例えば、今回のプチ・パレ展で入り口からずらりと並んだ印象派は、チューブ式絵の具の発明と綿密な関わりを持っている。

チューブ式絵の具によって、アトリエの外にも絵の具とパレットを気軽に持ち歩けるようになったことが、画家たちの「風景をありのままに描きたい」という欲望を叶えた。

アトリエの外で描くうちに、それまでは色を混ぜて表現していた中間色を、「もっと日差しの下の風景を、見たままに明るく描きたい。」と新たなモチベーションが生まれる。

しかし、全ての色を混ぜると黒になるように、樹木の葉を表現する黄緑など、色を混ぜるほどに、原色の緑や黄色よりも色の彩度は落ちる。混ぜると、濁った色になる。

一般人の我々はあまり気が付かなくても、そこにストレスを感じて、印象派は新たな表現技法を生み出した。

それが、色を混ぜずに隣り合わせに配置して表現する「筆触分割」や、時代が下ると「点描画法」へと移行していく。

実際に展示の説明では、筆触分割や点描画法などの、高階が『近代絵画史』にて歴史背景と共に説明した説明書きが散りばめられていた。

このような時代ごとの表現方法の進化や、それに伴って「印象派」や「新印象派」「フォービズム」と名付けられた数々の運動。

これらが時代に沿って展示している美術館側のキュレーターの配慮にも感動した。

絵画に造詣が深く、絵やそれらを取り巻く歴史をテーマに著述する、原田マハ。原田は『楽園のカンヴァス』にて、美術館のキュレーターを主人公にして、「美術館の展示品をどのような展示意図で集めて、どの順番で並べるかがキュレーターの腕の見せどころだ」と語らせる。

時代ごとに整然と、調和を持って並べられた「印象派」や「新印象派」「フォービズム」までの展示。個人での鑑賞と、グループごとに好きな絵を共有するという鑑賞の2往復をして、改めて、展示の配列であるキュレーションの妙味に感嘆した。

Hさん

企画展が気になったりして博物館にはよく行くのですが、美術館を訪れる機会があまりなかったので今回の美術鑑賞は私にとってとても新鮮でした。思っていたよりも展示されている絵画が多くて驚きました。時代ごとにまとまっていたので、時代の変化に伴って描写の方法、画家たちのスタンスが変わっていったことを感じることができました。また、感想を共有した際に、同じ絵を見ていても感じることは人それぞれ違っているのだということを肌で感じ、自分と違う見方の意見を聞くことができたことでとても有意義な時間を過ごすことができました。

Yさん

作品を鑑賞する際、意識した点があります。それは「画家は何に興味があり何を大切にしているのかを考える」という点です。

時代によって筆や絵の具などの使い方(表現方法)が異なり、同じ時代でも画家によって作品の印象は大きく違いました。そこで、画家が何にこだわりを持ちながら作品を創り上げたのか考えることで画家の個性を楽しみながら作品と向き合えました。

たとえば、人の顔や身体にこだわりを持つ画家は、人の表情が浮かび上がってくるように描きますが、建物や植物はハッキリ描かずぼんやりとしています。どの作品も、全てを正確には描かず、力を入れる部分とそうではない部分がありました。作品のこだわりを探しながら、画家と会話をしているような気分になりました。充実した楽しい時間を過ごせました。

Zさん

今回の美術鑑賞に参加してよかったと感じた点は、作品を間近で鑑賞できたという点である。今回鑑賞した美術館で行われていた美術展では、スイスプチ・パレ美術館に所蔵されている19世紀後半から20世紀前半頃までのフランス絵画が展示されている。こういった作品のタッチや配色を細部にわたるまでじっくりと鑑賞できるのは実際に美術館にいったからこその意義だといえる。特に、新印象派の作品には、点描で描かれた作品もいくつか展示されており、一つ一つの点に至るまで鑑賞でき、特に意義を感じた。私は美術には明るくなかったが、少し美術についての知見を広げることができたと感じた。

2022年7月22日金曜日

課外活動:読売日本交響楽団演奏会

 前期最終週の金曜日に、打ち上げと懇親を兼ねて、ゼミ生9名とともに読売日本交響楽団の定期演奏会に出かけました。演奏はもちろん、会場であるサントリーホールの雰囲気も満喫しました。演目は次の三曲です。

  • エトヴェシュ:セイレーンの歌(日本初演)
  • メンデルスゾーン:ヴァイオリンとピアノのための協奏曲 ニ短調
  • ショスタコーヴィチ:交響曲第12番 ニ短調 作品112 「1917年」

サントリーホール前にて。
(撮影時のみ、マスクを外しています。)
学生たちは、事前学習として演目の歴史的な背景などを調べて参加しました。読書を通じて知識を得ることで、芸術鑑賞がより楽しくなることを実感できたでしょう。
また、終演後に感想を話し合い、他者と一緒に鑑賞する醍醐味も感じてくれたようです。

以下、参加者の感想です。

Dさん
今回のオーケストラは人生初のオーケストラ鑑賞だったため、とても楽しみにしていたが、実際鑑賞してみると期待以上の演奏で感動した。特に印象に残っているのは1曲目と2曲目だ。1曲目は怪鳥セイレーンがモチーフとなる曲で、実際に怪しげなリズムとメロディーで緊張感や切迫感といったものを感じられた。音の抑揚で、セイレーンの気配が近づいたり遠のいたりする様子を再現しており、脳裏にありありと思い浮かべることができた。
2曲目は荘厳で神聖なイメージを抱かせる曲で、西洋の城の中にいるかのような感情を抱いた。また、独奏陣のアンサンブルが始まった後も、その奥にメインであるメロディーが細やかに流れており、美しい響きを奏でていた。

Oさん
高校でオーケストラ部に所属しトロンボーンを吹いていた私にとって待望のオーケストラ鑑賞会!今回座った席は、私が大好きな低音楽器が見やすい位置だったので嬉しかった。
3曲の中で一番心に残ったのは、ショスタコーヴィチ作曲「交響曲第12番 ニ短調〈1917年〉」である。この曲はロシアの十月革命をテーマとしている。

一つ一つの楽器から出てくる音を味わいながら、次に音を出す準備をしている楽器に意識を向けて聴いてみると、発見が多く面白かった。楽器構成を詳細に知るために、高校時代、楽曲鑑賞の際必携していたスコア(全楽器の譜面が一列に書かれた小冊子)を見ながら聴きたいと思ったほどだった。
最初、コントラバスとチェロの重厚で荘厳な旋律が流れてくる。続いて細かな高音楽器が奏でていく。それに夢中になっていると、いきなり辛めのスパイスを加えるようにティンパニや銅鑼が音を響かせる。この曲は短調であるが、一音変えれば長調になりそうなのに、いつまでも短調で流れていくフレーズが続き、なにか切ないものを感じた。同フレーズが4楽章通して何回も繰り返されており、鑑賞後もずっと頭に残った。
曲中の静寂の間からクラリネット、トランペット、トロンボーンのソロが代わる代わる奏でる。その際、演奏者たちの息遣いが聞こえて感動した。それほど厳粛に静寂が保たれていたのだろう。普段、色々な音や喧騒にまみれて生活している私たちにとって、ひとつの音に耳を澄ませようとする瞬間は貴重なことなのではないだろうか。

弦楽器のピッチカート(指で弦をはじく演奏法)に惚れ惚れしながらも、やはり私は全体を下から支えるバストロンボーンやチューバといった低音楽器への熱がさらに高まった。

Uさん
エントランスホール。煌びやか!
1.しなやかな音楽
 私が見入ったのは、2曲めに演奏されたメンデレスゾーン「ヴァイオリンとピアノのための協奏曲 ニ短調」だ。指揮者アレホ・ペレスがかがんだり、大きく手を振りかぶるようにして行う指揮によって、演奏が統一されているように思える様に、目を惹きつけられた。
 指揮者のペレスと一緒に入場した、ヴァイオリン奏者の諏訪内晶子、ピアノのエフゲニ・ボジャノフに演奏前の大きな拍手に驚いた。しかしいざ演奏が始まると、2人の演奏に対する期待の拍手としては、むしろ小さいくらいだったと思うくらいだった。それほどまでに、2人の演奏が素晴らしかったのだ。

2.ピアノ演奏と身体の限界
 音楽は、「音を楽しむ」と書く。だが、幼稚園入園前から、ピアノを習っていた身からすると、音楽は音を楽しむものでは無い。
 特にピアノに関して言えば、身体の限界、指が動く限界まで、体に無理をさせて初めて演奏ができる。
 まるで、人間の体の可動域を少しずつ打ち壊すように、無理を強いる。だからこそ、音大に進む場合は、まるで修行のように幼稚園入園入る前から、ピアノに触れないと「遅い」と言われる。

 少し話が逸れた。ピアノのエフゲニ・ボジャノフに演奏に戻そう。
 既に指の動かし方を忘れて、「猫ふんじゃった」くらいしか弾けない私の、ピアノに対する思い出は、そのよう苦行じみたものだった。
 しかし、ボジャノフの手元は(A席を取って頂けたおかげで、なんと鍵盤を叩く手元の動きまで見える席だったのだ!!)まるで踊っているように見えた。
 音を楽しむかのように、手首のしなやかなスナップをきかせて、鍵盤が弾力を持ったゴムまりかのようにトントントンと運指する様子に魅力された。

3.他者と芸術鑑賞する妙味
 同時に「これぞ、ゼミみんなで観に行った醍醐味だ」と感じたのは、他のゼミメンバーの2曲目への感想だ。
 2曲目の後が、幕間だったので少しゼミメンバーと感想を話す事ができた。その際に「ゆったりとした演奏ですこし集中力が切れかけた」とコメントするゼミメンバーが複数人いた。
 確かに、私も普段はリズムの速い曲や、激しい曲が好きだ。(3曲目はそのような素敵な激しい曲だった)。
 ゼミメンバーのコメントを聞いて、「あれ、確かに普段はゆっくりした曲は眠くなるのに、なんで自分はこの曲が好きなんだろう」と小さな驚きを感じたことが、考えるきっかけとなった。
 みんなと行ったからといって、みんなと同じところで無理に「好きなところが同じだ!」と共通点探しゲームをすることだけが楽しみではない。
 他の人の感想に触発されて、「差異」から自分の好みが掘り下げられることも、他者と芸術鑑賞する妙味だと感じた。

Yさん
今回の演目で印象に残ったのは、エトヴェシュ作曲『セイレーンの歌』です。
今までオーケストラの演奏は、伝統的なクラッシックしか聞いたことがありませんでした。しかし、この曲は2020年に作曲された新しい曲で、今まで聞いたことない雰囲気に作曲者の独創性を感じました。伝統という型に囚わず、音色を敢えて崩した奏法をしたり、普段の演奏では使わない珍しい楽器を使っていたりなど、衝撃を受ける場面が何箇所もあり、楽しい一曲でした。
私は吹奏楽を長く続け、音楽と関わる時間がたくさんありましたが、まだまだ知らない世界があると気づき、もっと自分の知らない音楽に触れていきたいと思いました。非常に楽しい時間を過ごせました。

Tさん
今回、読売交響楽団コンサートを鑑賞させていただきました。あまり、このような場に参加したことがないので、とても貴重な体験になりました。普段は、K-popやJ-popなどという種類の音楽しか聴いていなかったのですが、今回、交響曲といったいつもと違った部類の曲に出会って、とてもよい経験になったと思います。新しいことに触れてみることの大切さも今回のコンサートを通して気付きました。
 僕は、指揮者をよく見ながら音楽を鑑賞していました。遠くから客観的に見てみると、指揮者のアレホ・ペレスさんが楽器を弾いている皆に指揮をしていて、楽器を弾いている皆も指揮者をよく見ていたので、指揮者の重要性というのがとてもわかりました。指揮者が正確に指示を出しているからこそ、美しい音楽が全体として完成されているのだと感じました。

Wさん
今回初めてオーケストラを鑑賞して、音の迫力に圧倒されました。1曲目のヴァイオリンとピアノのための協奏曲では、ヴァイオリンの独奏がとても美しく感動しました。2曲目のショスタコーヴィチの交響曲第12番では、多くの楽器を使用しており、圧巻でした。初めてオーケストラを鑑賞したということもあって、演奏後の拍手がとても長いことに疑問を持ちました。気になって調べてみると、素晴らしい演奏に対して、拍手を長くすることでコンサートの成功をたたえていることが分かりました。クラシックコンサートのしきたりを実際に感じることができて、良い経験ができました。他の名曲も聞いてみたいと感じました。

Zさん
今回のコンサートで鑑賞して特に印象に残っているのは、2曲目のメンデルスゾーン『ヴァイオリンとピアノのための協奏曲 二短調』である。この曲では題名にもある通り、ヴァイオリンとピアノに曲の主軸が置かれており、ヴァイオリンとピアノがそれぞれ奏でるメロディは、まるで会話をしているかのような掛け合いになっており、聞いていて堪能できた部分である。今回のコンサートはオーケストラの演奏は当然のことながら素晴らしいものだったが、コンサート会場の雰囲気も非常によく、演奏がより引き立てられたように思う。改めてコンサートを生で体感する意義を感じさせられた。

Nさん
クラシックの演奏を聴くのは数年ぶりのことで、久しぶりの体験に緊張しました。会場のサントリーホールは舞台の後ろ側にも座席があり、舞台をほぼ中心にして客席の空間が広がっていました。舞台が中心にあるため客席との距離が普段より近く、近眼の私にとってありがたいことでした。
今回の演奏会の中で、ショスタコーヴィチの交響曲第12番は印象に残っています。メンデルスゾーンのヴァイオリンとピアノの協奏曲は、独奏のヴァイオリンとピアノが織りなす細かく軽やかな演奏を心地よく聴きました。続く交響曲第12番は重々しい立ち上がりで、迫力のある銅鑼の音は座席が後ろのほうの私まで轟いていました。特に第一楽章の「革命のペトログラード」と第四楽章「人類の夜明け」は迫力があり、ロシア10月革命が帯びていただろう熱気を体験したような感覚になりました。
このような機会がないとなかなかクラシックは聴けないので、貴重な経験になったと思います。ありがとうございました。

Rさん
オーケストラを聴いたことはありますが、いわゆるプロオーケストラを聴いたのは今回が初めての経験だと思います。
今回の曲の中でも、ショスタコーヴィチの交響曲第12番は、生の楽器による力強い音を体感するのにうってつけの曲でした。打楽器の音が目立つ曲だったため、音や演奏者の動きに注目して聴いていると、打楽器の演奏が曲の雰囲気や迫力へ大きな影響を与えていることに気づきました。その他、私は楽器そのものについての詳しい知識や、楽器を聴き分ける耳を持っていないため、曲全体を楽しんで聴きました。
また、サントリーホールの雰囲気、重厚感を味わうことができたのも、なかなか経験が少なく貴重な体験でした。最近は、安くても様々な娯楽を得ることが出来ますが、少し高級な娯楽でしか得ることの出来ない、心の豊かさのようなものがあると思います。入場時に様々なコンサートのパンフレットを大量に貰ったので、ぜひ次に参加するコンサートを探してみたいです。

2022年7月13日水曜日

2022年度ゼミ 前期第13回:新書報告(C班担当)

 こんにちは。3年のRです。今回は毎週続けてきた、新書報告の前期最後の回になります。C班から全部で4冊の紹介がありました。それではご紹介していきます。

Tさん:菅屋潤壹『汗はすごい:体温、ストレス、生体のバランス戦略』(ちくま新書、2017年)

暑い季節に突入しましたが、本書は暑い環境に必ずつきまとう「汗」について、その本質や仕組みを説明した1冊です。汗そのものの成分は99%が水分で、残りの1%がアンモニアや塩素だそうです。水分が蒸発することで体が冷え、冷却効果をもたらすとのことです。暑い環境にいると、人はオーバーヒートして熱中症になってしまいます。汗は体温を下げ、熱中症を防ぐ効果があります。

また、人間は暑い環境に繰り返しいることによって「暑熱順化(熱に慣れること)」して、暑い環境でも長く生存できるようになるそうです。Tさんはこの本を読んで、サウナと暑熱順化は関係しているのではないか、夏の暑い環境でも過ごしやすくなるのではないかと考えたそうです。その他、冷や汗の存在や性別による汗の量の違いなどについても紹介がありました。

汗は人間とは切り話せない存在です。この季節にぜひ知りたい情報を得ることが出来ました。

Iさん:内山真『睡眠のはなし:快眠のためのヒント』(中公新書、2014年)

汗とともに、人間と切り離せない存在が睡眠でしょう。本書は、その睡眠についてメカニズムや関連する現象など、睡眠にまつわる様々なことを解説した1冊です。Iさんは寝付きが悪く、金縛りに遭うなど睡眠に関して困っているとのことで、改善方法が知りたいと思い、本書を選んだそうです。

発表では寝付きが悪くなる原因を2点挙げられていました。1つは温度・光・音などの外部からの刺激、もう1つは精神的理由です。精神的理由とは、脳が常に警戒する状態になっていて、リラックスできずに眠りが浅くなってしまうことを指しています。寝付けない日が続くと不眠恐怖症につながるとのことでした。対策として、ベッドや布団の上を「寝ない場所」として脳に誤った認識をさせないために、本当に眠くなるまでベッドに入らないという方法があるそうです。その他にも、夢や金縛りとレム睡眠・ノンレム睡眠の関係など、Iさんにとって役に立つ情報が多くあったそうです。

私は、わりとすぐに寝れてしまい、睡眠で困ったことはありませんが、日常生活でも重要な睡眠について向き合う良い機会となりました。

Mさん:宮武久佳『正しいコピペのすすめ:模倣、創造、著作権と私たち』(岩波ジュニア新書、2017年)

私たち大学生はコピペについて何度も注意されますが、社会においてもコピペは問題になっているそうです。コピペの問題点やコピペをしてしまう理由などをまとめた1冊です。

研究者の世界でコピペは気にかけなければならない問題です。また、大学の教員にとって、学生から提出されるレポートのコピペという問題があります。他にも近年、STAP細胞の論文不正や、東京五輪・パラリンピックのエムブレム類似問題など、コピペに関連する事象が社会的な話題となることが増えています。著者はこの理由として、類似したコンテンツを探し出す技術が向上しているためだとしています。

コピペや関連する事象が問題となる一方で、本のタイトルにある正しいコピペとして「引用」の存在を提示しています。他の人の文章をコピペしても、厳しいルールに基づいて記載すれば、問題のない正しいコピペである「引用」として認められます。

著者は、真似ること自体がタブー視される風潮があるものの、歴史を鑑みても、真似ること自体は悪いことではないとした上で、著作権の法律がプロのみに適用されていたときと変わらないために混乱が起きている。ネットの発達も鑑みて、みんなの著作権といえる仕組みが必要なのではないかと問題提起したとのことです。

私たちがレポートを書くときにも、引用とコピペの間には大きな差があると思います。その違いを改めて認識することができました。

Oさん:庵功雄『やさしい日本語:多文化共生社会へ』(岩波新書、2016年)

Oさんは、別の新書で登場した「やさしい日本語」に興味を持ち、本書を読んだそうです。

著者は日本語学の研究者で、本書では多文化共生における日本語教育の重要性や、日本の諸問題の解決策について論じています。

日本の諸問題として、両親かその一方が外国出身である人の子供、いわゆる「外国にルーツを持つ子どもたち」にとって日常生活で日本語を身につけることや日本語によるコミュニケーションが難しく、学校生活や学習に弊害がある実態が挙げられています。実際に彼らはクラスでの孤立など学校生活に問題が生じるほか、進学率も低下していて、高校の進学率も2割ほどにとどまるそうです。著者は、道具としての日本語を習得する機会がないと、自己実現を果たすことが難しくなってしまう現実があるとしています。

そのような、日本語が必ずしも得意ではない人々にも伝わりやすい日本語として「やさしい日本語」があるそうです。ルーツは、阪神淡路大震災のとき、日本語と英語でしか情報共有されず、情報を得ることが難しい人々がいたことから、考えられ始めたそうです。「やさしい日本語」の一例としては、「容器をご持参の上で中央公園にご参集ください。」を「いれるものをもって中央公園に あつまってください。」とすると理解しやすくなるとのことです。

著者は「やさしい日本語」の存在に加えて、お互い様の気持ちを持つことや先入観を取り払うことが、バイアスや偏見の解消につながり、多文化共生社会が実現できるのではないかと指摘したそうです。

私は日本語を難しい言語だと思っていますが、最低限の要素まで簡単にすることでコミュニケーションの壁が下げられるのではないかと感じました。

今回で、前期の新書報告は終了となります。前期にゼミ生が読み、全体あるいは小グループに報告した新書の冊数を数えてみると合計で130冊近くになるようです。みなさんお疲れ様でした。次回は、前期のゼミ最終回です。


2022年7月6日水曜日

2022年度ゼミ 前期第12回:新書報告(B班担当)

  こんにちは。4年のUです。あっという間に梅雨が過ぎ去り、一週間ごとに気温が上がる日々が続いています。アイスが美味しい季節ですね。皆さんはなんのアイスが好きですか?僕はピノが好きです。さて、今回はB班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:吉野実『「廃炉」という幻想 福島第一原発、本当の物語』(光文社新書、2022年)

 本書は、新聞社勤務時代からテレビ局に転勤した現在まで長年にわたって原子力発電所について取材している著者が執筆したルポータージュです。福島県出身で原発問題を自分ごととして考えてきたKさんが紹介をしてくれました。

 2011年に、東日本大震災後に原子力発電所の事故が起きた事件は記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。事故後に30~40年を目安に廃炉にすると政府が声明を出しました。しかし、それは事故が起きていない普通の原子炉を廃炉にするのにかかる基準だそうです。事故の起きた福島の原子力発電所の場合は、専門家の間では少なくとも100年、長いと300年かかると言われているそうです。

 私は、事故が起きて10年も経つと、原子力発電所のことを忘れかけていました。本書の紹介を聞いて、目を背けていてはいけない問題だとハッとしました。

Tさん:黒木登志夫『研究不正 科学者の捏造、改竄、盗用』(中公新書、2016年)

 先月発覚した福井大学の研究不正のニュースを見たTさんは「なぜ研究不正は起こるのか」が気になり、本書を読んだそうです。

 本書は、科学者が論文で行った不正について書かれたものです。不正を捏造、改竄、盗用という3つに分けた上で、実例の紹介から改善策の提案までなされます。

 研究不正では、聞いていても「それはバレるだろう」思うような不正の事例が紹介されていて、興味深く感じました。例えば、白いネズミに黒いネズミの皮膚を移植するはずが、黒のマジックペンで塗って「皮膚を移植した」と主張する不正が行われたことがあるそうです。

 さらに、改竄では予め立てた仮説を証明するために、実験の結果得られた都合の悪いデータが排除されることもあると言います。

 著者は不正をなくすために、研究倫理教育をおこなったり、研究室の風通しをよくしたりすることを提案しています。

 学生の私たちも、「不正なコピペなどのレポートは厳禁です」と大学1年生の頃から、耳にタコができるほど聞かされます。しかし論文の不正は研究者間でもなくなることのない点や、その不正の具体例まで知るのは、初めての機会でした。知らない世界の一端を覗いた心持ちになりました。

Hさん:原田隆之『サイコパスの真実』(ちくま新書、2018年)

 サイコパスの定義は「良心を欠いた人」と定義しています。一般人口の1~3%が該当するそうです。

 100人に1~3人もいるなんて、意外と多くの人が該当することが印象的でした。

 さらに、「サイコパスは犯罪者になるのではないか」という一般的に持たれがちな認識は意外と間違っていて、犯罪者に占めるサイコパスの割合は15%に過ぎないそうです。つまり多くのサイコパスは、そもそも犯罪に関与していません。

 サイコパスと会った時の対処法は、「できるだけ関わらず、個人的な話をしない」ことなどが挙げられます。そして、サイコパスである有名人としてスティーブ・ジョブズが紹介されています。

 報告を聞いて私は、サイコパスの割合の高さに驚かされました。さらにスティーブ・ジョブズのような著名な人間もサイコパスだと聞くと、サイコパスを少し身近に感じるようになる報告でした。

Nさん:竹下大学『日本の品種はすごい』(中公新書、2019年)

 本書はリンゴやジャガイモなど、栽培植物7種について紹介しています。

 スーパーに行くとお馴染みの男爵芋は、明治の頃に強い品種を育てようという意図で、日本に導入されたそうです。川田龍吉男爵が個人的に導入したということで「男爵芋」と命名された、興味深いエピソードが紹介されました。もともと海外の名前があったはずなのに、流通した時に名前が分からなかったことが原因だそうです。

 さらに、りんごについても、面白い紹介がありました。日本に輸入された当初はりんごの人気が不動だったといいます。しかし戦後になると、皮を簡単にむけて甘くて美味しいバナナやみかんが輸入されるようになったため、りんごの人気が下がってしまったそうです。バナナやみかんが当たり前にある時代に生まれた私にとって、印象に残りました。

 著者は新しい品種の開発によって、それ以前に主流だった歴史ある品種が忘れられることを憂いて、本書を執筆したと言います。確かに、このような魅力的な男爵芋やリンゴの人気のエピソードが忘れ去られるのは悲しいと感じました。

Sさん:武田尚子『ミルクと日本人 近代社会の「元気の源」』(中公新書、2017年)

 ミルクと福祉的関係というと、一見、関連がない言葉のように感じるのではないでしょうか。本書は、ミルクが日本でどのように一般に行き渡ってきたのかという歴史的経緯について紹介しています。

 関東大震災の後、必要な人にミルクが届かなかったことをきっかけに、震災から9日後には東京市(現東京都)にて、約60万名の乳幼児を対象に牛乳の配給がおこなわれました。

 さらに、ミルクの配給と並行して、保健所の併設が行われました。健康診断など、配給を受ける人を対象に生活をより良くするための指導も行われたそうです。一見、ミルクと健康診断は無関係に思われますが、配給に参加するのは、主に貧困者が多かったことから貧困者支援の役割も果たされたそうです。

 文明開花で牛鍋などと同時に導入された当初は、牛乳に対して「こんな臭いもの、誰が飲むんだ」という反応も存在したそうです。しかし栄養価の高さゆえに、次第に広まっていったそうです。歴史の流れを知ることができる、貴重な発表でした。

 今回の新書報告で紹介されたのは以上の5冊です。来週に控えているC班の新書報告も楽しみです。前期最後の新書報告となります。皆さん、お疲れ様でした。

2022年6月29日水曜日

2022年度ゼミ 前期第11回:新書報告(A班担当)

 こんにちは。2年のMです。暑い日が続いていますね。熱中症で倒れる人も増えているそうですので、皆様も体調に気を付けてお過ごしください。さて、今回はA班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:高橋雅延『記憶力の正体―人はなぜ忘れるのか?』(ちくま新書、2014年)

本書では記憶力について解説されています。Kさんは『どうしたら記憶力が高まるのか』という部分を取り上げて解説してくれました。記憶力を高める方法として挙げられたのは二つです。一つ目の「想起」は覚えたいことを反復して思い出す方法です。二つ目の「場所法」は周辺の記憶と共に物事を記憶する方法です。これらを巧みに使うと効率的に記憶を保持できるそうです。逆に何かを忘れたい時はその出来事を言語化し、口に出したり書いたりすると効果的とのことでした。

私にも、覚えたいことは中々覚えられないのに忘れたいことは忘れられない経験があります。今回の報告で知ることができた記憶力を高める方法や忘れる方法を実践してみたいと思いました。

Yさん:駒崎弘樹『政策起業家―「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』(ちくま新書、2021年)

政策起業家とは、一般市民の立場で社会のルールを変えることや新たな法律を作ることができる人を指します。本書は政策起業家である著者の活動を記録した一冊です。新書報告で紹介されたのは「おうち保育園」に関する事例です。小規模保育園の設立はかつて法律で認められていませんでした。しかし、著者は活動を続け、様々な人の協力を得て認められるようになったのだそうです。著者のメッセージは「何かを変えたいなら声を上げなければ変わらない、当たり前だと思われていることは言わなければ気付いてもらえない」です。

事例と併せてとても説得力があり、何かを変えたいと思った時に勇気をもらえる一冊だと感じました。

Uさん:高階秀爾『近代絵画史(上)-ロマン主義、印象派、ゴッホ』(中公新書、1975年)

絵画を見た時に直観的に感動を覚えるか、歴史などの背景知識に感動を覚えるか。著者はどちらも認めた上で、本書では後者の背景知識が大切だと主張しています。例としてピカソの『ゲルニカ』という作品が挙げられました。『ゲルニカ』は民間人に対する爆撃の悲しみを白黒で歪な描き方をすることによって現している絵です。背景知識なしにただ特殊な描き方だと捉えるか、背景を知った上での表現と受け取るかで、鑑賞した時の心の動かされ方が大きく変わります。また「印象派」に関しても紹介してくれました。印象派の台頭により、輪郭を描いてから色を塗る手法から、輪郭を描かずに色で表現する方向に絵の描き方の潮流が大きく変わったそうです。

絵の受け取り方の話が特に興味深かったです。絵を見る機会があれば、直観から受け取る印象と背景知識がある上で観賞した時に受け取る印象の違いを気にしてみたいと思いました。

Hさん:小川剛生『兼好法師:徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年)

本書では兼好法師の知られざる一面が語られています。随筆『徒然草』を記した人物として知られる兼好法師、または吉田兼好について「世俗を離れ特定の宗派に属さず各地を転々する自由人」という印象を持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、これは兼好法師が作ったイメージであると著者は述べています。まず兼好法師は名家の出であるだけに経済基盤があります。宮中や内裏に出入りできるばかりかもてなされたほど顔も広く、「法師」の質素なイメージとはかけ離れた煌びやかな生活を送っていたようです。経済基盤に揺らぎが生じた際は土地の一部を手放し、じきに歌壇に目覚めて都を離れて寺を点々としたとのことです。

兼好法師は質素で周囲を気にしない自由な人物という印象を持っていたので、今回の報告を聞いて意外に思いました。


Kさん:鷲田小彌太『死ぬ力』(講談社現代新書、2016年)

本書では「死」について解説されています。当たり前の明日が続く保証はなく、本来人は常に最悪の事態を想定しなければなりません。しかし、人は死を恐れるあまり死を考えないようになり、死を恐れないために三つの物語を作ったそうです。一つ目は「不死」です。神話や伝説でよく取り扱われ、現代でも科学の力で語られているテーマです。しかし現状、不老不死を求めた人はみんな死んでしまっています。二つ目は「復活」です。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教などで見られる思想です。これも科学の言葉を借りて語り直されており、人体冷凍保存などは実際に行われています。三つ目は「魂」の物語です。魂は多くの宗教の中心にある概念です。現代には精神をデジタル化してデータとしてアップロードし、事実的な不老不死を試みるという研究もされているそうです。一方、死の恐怖を遠ざけるために物語を作ったにもかかわらず、実際は物語が死への恐怖をより加速させてしまっているという矛盾が存在しています。本書で著者は「死ぬ力」に直接言及をしていませんが、「終わりに向かって華々しく散りたい」という趣旨の発言はあるようです。

週末に帰省したので、
熊本土産をゼミ生に
お裾分けしました(相澤)。

人であればいつかは死んでしまうしそのいつかが今ではない保証はない、という本来は当たり前のことを改めて突き付けられたような気がします。自分の「死」について深く考えたことはなかったのですが、自分の人生を生きる上では外せないテーマだと思いました。

今回の新書報告で紹介されたのは以上の5冊です。テーマが豊富でどれも興味深い内容でした。来週のB班の新書報告も楽しみです。皆さんお疲れさまでした。


2022年6月22日水曜日

2022年度ゼミ 前期第10回:新書報告(C班担当)

 こんにちは、三年のNです。暑さも増し、体調を崩しやすくなる時期です。暑さに負けないよう、水分補給などをしっかり行って夏本番を迎えましょう。今回はC班の親書報告をご紹介します。

Tさん:澤井悦郎『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書、2017年)

マンボウが大好きな著者が、マンボウの体のつくりや生態を解説しています。本書を紹介してくれたTさんには、マンボウのひみつについてクイズを交えながら紹介してもらいました。マンボウの生態は未だに謎が多く、その理由として、漁をする文化がないことや、3m2tの巨体が運搬を困難にしていることが挙げられました。また、広い地域に分布しているため調査が難航するそうです。

未だ謎の多いマンボウですが、伊勢長嶋ではマンボウを食べることができるそうです。ゼラチン質でプルプルとした食感が美味しいとのことなので、是非食べてみたいと思いました。

Mさん:上田一生『ペンギンの世界』(岩波新書、2001年)

ペンギンのスペシャリストである著者が、ペンギンの生活や生態、人との関わりの歴史を解説しています。今回、Mさんは、15世紀ごろにヨーロッパの探検家たちによって発見され、今日まで続いているペンギンと人との歴史について紹介しています。ペンギンは発見当初、「のろまな食料」とみなされていたそうです。また、ほかの鳥類と違い、飛ばないことから魚の仲間と考えられていました。このような誤解がペンギンに対する態度を冷酷にしていたそうです。しかし、19世紀の万博博覧会を機に徐々にペンギン愛護の機運が高まり、現在では動物園などで親しまれている動物になりました。

ペンギンは現在愛されている動物であり、過去に冷遇されてきた事実に驚きました。ペンギンへの態度が様変わりしたように、時代や環境で考えは変化していくと知りました。

N:幸田正典『魚にも自分がわかる 動物認知学の最先端』(ちくま新書、2021年)

本書では、魚の鏡像認知について、ホンソメワケベラを用いた実験を中心に報告されています。魚はかつて、人と比べて単純な脳を持つと考えられていましたが、現在では動物の脳構造は基本的に同じであることが最近の研究で分かっています。著者は、魚も人も脳構造に大きな差はない点に着目して魚の鏡像認知の可能性を見出しました。

鏡像認知とは、鏡に映った像を自分自身だと認識することです。マークテストと呼ばれる鏡を用いた実験手法が1970年代に確立し、動物が自分自身を認識できることが確認されました。マークテストはこれまで、オランウータンをはじめ、哺乳類や鳥類などで行われていました。魚は猿などの哺乳類に対して意思疎通が困難なため、本書ではこれまでの哺乳類などのマークテストとは異なるアプローチでの実験が報告されています。著者は、ホンソメワケベラが同種の魚についた寄生虫を払う習性を利用して、寄生虫に似た茶色の色素を注射して実験を行っています。ホンソメワケベラの習性を利用したことが功を奏し、ほぼ100%の個体がマークテストに合格し、魚が自己認識することが発見されました。

筆者は現在も魚の自己認識について研究を進めており、今後の展開にも期待したいです。

Oさん:村上靖彦『ケアとは何か』(中公新書、2021年)

本書では、ケアとはなにか、現象学の視点から個別具体の事例を取り上げて考察しています。著者は、「ケアとは生きることを肯定する営み」と定義し、相手との意思疎通の大切さ、相手の立場になって考えることを説いています。今回取り上げられた終末期患者の例として、「お寿司を食べたい心筋症患者」が挙げられました。通常、医療現場では高糖質の食事は命の危険にさらされるため制限されています。この事例ではケアの視点から、相手の意思を尊重してお寿司を食べることを認めています。当人の意思を尊重した結果、その患者の方は「好きに食べることができた」ことにとても満足されたそうです。また、こういった事例のなかには余命が伸びるといったポジティブな効果もみられたそうです。

適切な医療によって延命を図る以外にも、当人の意思を尊重することがその人の人生にとって良い場合もあるとわかりました。


以上が今回の新書報告でした。動物に関する発表が多く、皆さんの興味の傾向が見えてきたように感じられました。来週は今期最後のA班の報告になります。どのような本が報告されるのか、次回も楽しみです。皆さんお疲れ様でした。


2022年6月15日水曜日

2022年度ゼミ 前期第9回:新書報告(B班担当)

こんにちは、3年のIです。雨が多く、憂鬱な気分になりがちな時期ですが、1ヶ月後には楽しい夏休みです。頑張っていきましょう。今回はB班の新書報告をご紹介します。

  Rさん:千々和秦明『戦争はいかに終結したか (二度の大戦からベトナム、イラクまで)』(中公新書、2021年) 本書は、過去の戦争がどのように終結したかを解説しています。著者は、戦争の終結には「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」の2つの方向性があるとしています。前者を重視すると現在の犠牲が増え、後者を重視すると将来の危険が高まってしまうので、この2つのバランスをとることが重要であると言えます。また、戦況が不利な側は有利な側の政権崩壊による戦争終結を期待することがありますが、実際に起こることはほぼありません。そのため、戦争終結のために、時には損切をする必要もあると著者は述べています。

  Zさん:小川さやか『「その日暮し」の人類学 もう一つの資本主義経済』(光文社新書、2016年) 本書では、文化人類学を研究している著者が日本とタンザニアの考え方の違いについて解説しています。日本の人々は「将来」を、タンザニアの人々は「今」をそれぞれ重視しているといいます。この考え方の違いの背景には、両国民の経済状況があります。比較的経済が安定している日本の人々は、「今」のことだけでなく、「将来」を考えた生活をする余裕があります。一方、貧困率の高いタンザニアでは、主に日雇いや自営業といった不安定な働き方をしている人が多く、賃金水準も低いです。このような、厳しい経済状況も、タンザニアの人々が「将来」よりも「今」を重要するようになった要因の一つにあるそうです。 
 
  Tさん:畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年) 本書は、失敗してしまったときのメンタルの保ち方について解説しています。今回は、「逃げる」、「人のせいにする」、「愚痴を言う」という3つの方法が取り上げられました。一見、現実逃避をしているようにも思えますが、自分の心を守るために必要なことなのです。そうして、心が落ち着いてきたら、失敗と向き合い、繰り返さないようにするにはどうすればよいか考えることが大切だと著者は付け加えています。

  Sさん:矢野勲『エビはすごいカニもすごい-体のしくみ、行動から食文化まで』(中公新書、2021年)  本書は、タイトルの通り、エビとカニの体のしくみについて説明しています。今回はテッポウエビとイソギンチャクガニの生態が紹介されました。テッポウエビは大きな腕から発射されるプラズマ波のビームで敵を撃退します。イソギンチャクガニは両手に毒のあるイソギンチャクを身につけることで天敵から狙われにくくしています。両者とも体は小さいですが、武器を身につけることで厳しい自然界で生き抜いています。  

以上4冊が紹介されました。今回もためになる知識をたくさん得ることができました。来週はC班の報告です。どんな本が紹介されるか楽しみです。みなさん、お疲れ様でした。

2022年6月11日土曜日

課外活動:バレエ「不思議の国のアリス」鑑賞会

本ゼミでは、芸術に触れる課外活動の機会を設けています。今年度最初の課外活動として、6月11日の晩にゼミ生たちと、新国立劇場でバレエ「不思議の国のアリス」を鑑賞しました。三時間近くにわたる壮大なパフォーマンス、幕が降りた後も鳴り止まないスタンディングオベーション。大変盛り上がった舞台でした。以下に、参加者の感想を掲載します。

Sさん:

会場の新国立劇場オペラパレス
踊りと演劇、近代技術が融合した新しい舞台作品でした。

第1幕でアリスが不思議の国に迷い込むとき、スクリーンを使って観客も一緒に吸い込まれていくような演出がありました。この演出のおかげで没入感が生まれ、作品を集中して見ることができました。第2幕で印象に残ったのは、イモ虫の登場シーンです。バレエは言葉ではなく踊りで表現しているが、イモ虫のセリフをスクリーンに映していました。これまで見たことのあるバレエではなかった表現方法だったため、驚きました。第3幕ではハートの女王のユーモアある踊りがとても面白かったです。原作で有名な女王のセリフである「首をはねろ!」が面白おかしく表現されていました。

どのキャラクターも作りこまれていて、原作と対比しながら見ても楽しむことができそうだと思いました。しかし、スクリーンやや大掛かりな舞台装置など、斬新な演出が多く、刺激的な色が使われている場面が多々あるため、好みがわかれる作品でもあると思いました。初めて見るバレエには向いていませんが、原作が好きな方、もっと刺激がある作品を見てみたいという方におすすめです。

Kさん:

今回の課外活動に参加した理由はバレエを今後自分から見に行く機会がないと思ったからです。自分が普段行わないものをこのゼミを通して行いたいと思っていたので、今回のバレエ鑑賞に参加しました。まず端的に言って、参加して良かったと思います。題目はアリスでしたが、”アリス”の世界をセットや映像を駆使し、見事に表現していました。その表現の工夫は演出家の人たちの努力を感じさせるもので、まさしく現代の”アリス”と言うことができると思います。そしてなんといってもバレエと音楽との親和性に驚きました。バレエの緩急のある動きや全身を使った表現はオーケストラが生で奏でる音色と合わさることで私たちの想像をより掻き立てていました。振り返ってみれば鑑賞後はとても疲れを感じていたと思います。しかし、その疲れがとても心地よく私の心は満たされていたので、上演後には出演者たちへ惜しみない拍手を送ることができました。バレエを鑑賞できたことで私の人生に一つ彩りが加わったと思います。

アリスの世界に迷い込むように、
会場内には様々なデコレーションが。

Nさん:

大学の課外活動は初めてなので緊張しました。

私は舞台装置の構成と、おとぎ話の文章を実際の動きにどう落とし込むのかに注目して観ていました。印象に残るのはチェシャ猫の表現です。第二幕のあらすじにはアリスのチェシャ猫への問いかけ、それに答えずとらえどころのないチェシャ猫に戸惑うアリスの場面が書かれています。舞台上では、チェシャ猫は分解された体のパーツが数人の黒子によってそれぞれ分担されていました。体の部位ごとに独立して動くので、実体がない、捉えられないことが表現されているのだと理解しました。舞台空間を大きく使ってチェシャ猫を動かせるので舞台袖の色々なところから出てくるのは視覚的に面白い工夫だと感じました。

初めてのバレエ鑑賞だったので不安もありましたが、実際に舞台を見てみると様々な工夫を見ることができて楽しく鑑賞できました。この度はこのような機会を与えていただき、ありがとうございました。

Yさん

バレエ鑑賞3回目の私は、少し変わった視点からバレエを楽しみました。私は今回、鑑賞しながら2つの違和感があると気づき、その原因を考察しました。ここでは一つだけ紹介します。

違和感の正体は「現代の多様性を尊重する文化とのギャップ」です。特に、バレエのダンサーの体型を見て「多様性とは、美しさとは何だろう」と考えました。

バレエのダンサーは全員体が鍛え上げられていて、女性はスラッとスリムで、男性は筋肉質で逞しくて、一般的には理想の体型として憧れられる存在に思えます。しかし私はそこに違和感を覚えました。バレエの舞台には太ったダンサーは登場しません。皆スリムで筋肉質で、それ以外の体型の人は出てきません。バレエの世界ではこれが「当たり前の美しさ」なのかもしれません。しかし、私たちが暮らす現実にバレエの「当たり前の美しさ」を適用させたとしたら、とても生きづらいと思います。もしかしたら、バレエのような伝統的な芸術に影響を受け、「痩せていなければいけない」「太っているのは良くない」という価値観が定着し、現代の生きづらさを作り出したのかもしれないと想像しました。

バレエを鑑賞していたはずが、いつの間にか社会問題を考察していました。本来の楽しみ方ではないかもしれませんが、芸術を題材に浮かんできた疑問について考えてみるのは結構面白いことだと思いました。

Uさん

結構長丁場。休憩時間に
感想を話すのも楽しみです。

今回、バレエ「不思議の国のアリス」を観劇していて、村上春樹の翻訳騒動を、ふと思い出した。

 村上春樹が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を翻訳したとき、「随分と、旧訳である野崎訳と雰囲気が異なる」と話題になった。

 それに対して村上はインタビューの際に、「時代が変わると、それに合わせて伝え方も変えなければいけない。何も変えないまま、"伝統だから変わらない"と述べていると、誰からも見向きをされなくなる」という趣旨の応答をしている。

 この村上のエピソードを今回の観劇で思い出した理由は、バレエが新しい試みに満ち溢れている点だった。例えば、幕間にあるゼミ生が「原作でアリスが巨大化したり小さくなったりするシーンが、舞台背景のスクリーンの映像を上手く利用して表現されていた」と感慨深げに語っていた。

 さらに演出の工夫は、スクリーンにとどまらなかった。劇場の構造を利用して、突然バレリーナが2階客席に登場して踊った。さらに、花びらが舞い散るシーンでは、実際に天井から花びらがひらひらと降り注いだ。

 バレエが世界で初めて行われたのは16世紀とも言われているが、言うまでもなくその時代はこれらの舞台装置はなかっただろう。現代の舞台スクリーンを表現するCG技術と、演出装置を上手く活用した「新しい」バレエだった。

 しかし最も印象に残ったのは、実は演出方法ではない。バレエの舞いや、タップの目を引くような技術の高さだった。

 ともするとCG演出や舞台装置のレベルが高いほど、根本のバレエがおろそかになりがちだ。しかし、今日の舞台で拍手が10分を超えるほど絶えなかったのは、その「バレエそのもの」が、とても魅力的だったからだ。

 演出に工夫がこなされつつも、あくまで主従の「主」の部分はバレエだと言わんばかりの圧倒的な実力に、目を惹きつけられた。感動を伝えたくて、拍手をし過ぎて手が痛くなった。

Oさん

バレエダンサーのピンとした姿勢と立ち振る舞いに毎回見とれてしまいます。

「不思議の国のアリス」は絵本でしか読んだことがなく、バレエではどのように不思議さを演出するのか気になっていましたが、その演出方法は終始自分の想像を超えていました。

踊りだけではなくて、花びらが上から舞い降りてきたり、客席の所までダンサーが来たりしたところが今まで見た演目とは異なり新鮮でした。

また、映像を効果的に用いてアリスの大きさが変化したり、水の中に入ったりするところを表現しており斬新で見応えがありました。ダンサーが一人で踊っているところも素敵でしたが、第3幕終盤で、大混乱に陥っている時に舞台中央の階段上にいて怒っているハートの女王を王様が翻弄されながらもなだめようとしているやりとりがあり、面白くてそちらに気を取られました。主人公たちが踊っていても、舞台上の至るところで各人たちのドラマが生まれており、どこを見ようかと目移りしてしまうほど鑑賞する楽しさに満ち溢れていました。場面によっては観客席から笑いが起こることもあり、バレエが主でありつつも、総合的なエンターテインメントショーのように感じました。

私にとってバレエの醍醐味は、バレエの踊りだけでなく音楽にもあると思います。ダンサーは台詞を口にしない分、舞台下のオーケストラピットから奏でられる音楽で状況を表現しているからです。音楽がない沈黙のシーンはほぼないため、演奏する方々も大忙しなはずなのに、寸分の狂いもなく踊りと合わせていたことに感動しました。舞台下で大役を務めているオーケストラは、まさに縁の下の力持ちと言えそうです。とても格好良かったです!

前回よりもよい席で鑑賞することができたため、気づきも多く熱中できた鑑賞会でした!


Zさん

バレエについて私はハイカルチャーとしての印象が強かった。良く言えば、伝統のある高尚なイメージ、悪く言えば、厳めしく、私のような無学な人間にとっては近寄りがた持っていた。

 今回『不思議の国のアリス』を鑑賞し、私のそういった悪いイメージは払拭された。なぜなら、この作品では、ハイカルチャー的な側面と同時に大衆娯楽的な側面を兼ね備えていたからである。バレエの繊細で優雅な踊りだけではなく、曲の雰囲気に合わせたコミカルな動きや、プロジェクションマッピングやパペットといった最新の技術が舞台の中で多用されており、鑑賞する側を飽きさせないような工夫が随所になされているのを感じた。

 今回の鑑賞でバレエの面白さの一端に触れることができた。


Dさん

私は、生まれて初めてバレエというものを鑑賞したが、こんなにも素晴らしいものだとは思いもしなかった。舞台を見る前には、「不思議の国のアリス」という原作をどのようにバレエで表現するのかと期待で胸がいっぱいだったが、この舞台は見事にその期待を超える感動を提供してくれた。

言葉が使えない分、振り付けでキャラクターの個性を鮮やかに描き出す必要があるが、今作はバレエ、ミュージカル、パントマイム、トリックアート、デジタル技術など様々な要素をふんだんに駆使して見事にそれぞれのキャラクターを表現していると感じた。さまざまなジャンルの「芸術」を融合させ、現代人に新たなエンターテイメントを提供するこの舞台を見て、表現の勉強にもなった。言葉を使わずとも、目線、身振り手振り、表情一つ一つで、その物語を語る出演者の方々の演技は、表現における神技だと感じた。他にも色々なことを学べて、色々なことを考えさせられる魅力的な舞台で、とてもタメになった。貴重な経験を得られて、本当に良かったと心から思う。

2022年6月8日水曜日

2022年度ゼミ 前期第8回:新書報告(A班担当)

  こんにちは、3年のZです。今回は一巡して、A班の2回目の新書報告が行われました。本と発表方法どちらも、バラエティに富んでいました。それでは、A班の報告を紹介していきます。

Uさん:千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書、2022年)

 本書は、デリダやフーコーといった現代思想を学ぶことができる一冊です。著者によれば、昨今、物事に分かりやすさが求められていますが、単純に理解することはよくないとしています。なぜなら、社会の構造は分かりやすい単純なものではないからです。よって、複雑なものを複雑なものとして理解することが重要だと指摘しています。しかし、複雑なものの理解は簡単ではありません。これを理解するためには知識の積み重ねや理解するためのエッセンスが必要です。本書は、読者の理解を促すために、後者を意識して書かれているそうです。

 私は現代思想は、難解なイメージがあり、積極的な関心がありませんでした。この発表を聞いて、多少関心を持ちました。

Hさん:正高信男『考えないヒト ケータイ依存で退化した日本人』(中公新書、2005年)

 本書は17年前、まだスマートフォンが一切普及していない時代に書かれた一冊です。著者はケータイ依存によって、主に若年層に2つの問題が起き、これを「サル化」だと指摘しました。1つ目の問題は、「出歩き人間」の発生です。これは、ケータイによって、いつどこでも連絡が取れることから、自分の家に帰ろうとしなくなってしまう問題です。2つ目は、コミュニティ能力の低下です。メールの文章を読むことや、電話による声だけのコミュニケーションばかりになって、言葉を額面通りにしか受け取れなくなってしまうのではないかと著者は危惧しています。

 私は、本書は、ガラケーが主流だった時代に書かれた本であるため、スマホの普及によってケータイ依存が以前と比べてどう変化したかについても興味を持ちました。

Dさん:山田敏弘『その一言が余計です。 日本語の「正しさ」を問う』(ちくま新書、2013年)

 本書は、日常生活で余計に感じる一言について、その表現や文法に着目して、書かれた一冊です。発表では、例として、「~でいいよ」という表現が挙げられました。この表現が生まれる原因を著者は2つ考察しています。1つは、「らしい」や「ようだ」など、日本語は断定を避ける表現が多いためです。もう1つは、「~でもいい」から「~でいい」へと表現が変化したというものです。

著者は、私たちが、余計な一言を言ってしまう(捉える)立場だとして、相手の言葉を寛大に受け止める必要があると主張しています。

私は、細かい言葉のニュアンスや違いで余計な一言に変貌することに、コミュニケーションの難しさを感じました。

Yさん:池田晶子『14歳からの哲学 考えるための教科書』(トランスビュー、2003年)

 本書では、当たり前だと思っていることについて深く考える哲学書です。発表では「言葉」について取り上げられました。例えば、「美しい」という言葉であれば、まず美しいと感じるものについて考え、美しいとは何かと考えていき、最終的に、自分に他者との共有ができる美しいという概念があることが分かります。このことから、言葉は自分の中に概念として理解されるものであると著者は述べています。

 発表を聞いて、私はあまり普段当たり前だと思っていたものについて改めて考えてみると、新たな気づきが見つかって面白かったです。

Kさん:小林憲正『地球外生命体 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来』(中公新書、2021年)

 本書では、「アストロバイオロジー」と呼ばれる、地球外生命体について研究する学問について解説されています。アストロバイオロジーは、地球外生命体を問うために、そもそも地球では生命がどのように誕生したのかを分析しています。本書によれば、地球の生命体は宇宙から飛来した隕石がきっかけで誕生したのではないかという説が有力になっているそうです。

 宇宙や生命についてはまだ分からないことが多く、話を聞けば聞くほど、興味関心が尽きないと感じました。


以上が今回の新書報告でした。興味深い発表が多く、学びを深められたゼミでした。来週は2回目のB班の報告です。どのような報告が行われるのか楽しみです。皆様お疲れさまでした。


2022年6月1日水曜日

2022年度ゼミ 前期第7回:新書報告(C班担当)

 こんにちは!3年のSです。今回で全班が新書報告を行いました。緊張したゼミ生もいると思いますが、どの報告も楽しく聞くことができました。欠席者が1名出たため、全部で4冊の紹介になります。それではC班の新書報告を紹介します。

Tさん:齋藤孝『からだ上手 こころ上手』(ちくまプリマ―新書、2011年)

本書は、身体と心を整える技術を解説しています。心は身体から、身体は心から整えることができると言います。そのためにはイメージを上手に使うことが大切だそうです。本書ではイメージが体に与える影響を検証した実験が紹介されていました。一人を二人で持ち上げる際、持ち上げる人を岩・水・煙だとイメージしながら持ち上げる実験です。最も重く感じたイメージは岩、次に水が重いと感じたそうです。水は掴み辛く、持ち上げにくいと思ったため煙よりも重い結果になったと思われます。同じ人を持ち上げているにもかかわらず重さの感じ方に違いが出ることから、イメージの重要性がよくわかりました。

背伸び体操風景
また、体を整える技術として紹介されていた背伸び体操を行いました。この体操を食事前に1分間行うことで、ダイエットを助ける効果が期待できるそうです。

私は落ち込みやすい時期があり、どうしても物事を前向きに捉えられないことがあります。そんな時は無理せず軽いストレッチや体操を行い、身体から健康になっていくことも大切だと思いました。他にも簡単に取り組める体操がいくつか書かれているので、気になる方は本書を読んでぜひ実践してみてください。

Oさん:芹沢俊介『家族という意志―よるべなき時代を生きる』(岩波新書、2012年)

「よるべなき」とは、頼るところがない、身を寄せる人がいないという意味です。本書は、現在の家族の居場所を1. 生後まもない子供の受け止められ体験、2. 自殺と中絶、3. 老後の三点に分け、著者の体験をもとに考察しています。

1では、震災で親を失い乳児院に預けられた子供が例に挙げられていました。乳児院では効率よく面倒を見るために、両親がいる子どもと比べて自分の主張を無視される機会もあります。よって、本当にやりやいことがかなえられないため、本来赤ちゃんが必要としている受け止められ体験ができない状況も起こり得ます。

2に関しては、避妊技術の発達により家族計画が立てやすくなったことで、女性の一生が母親の役割にとらわれにくくなっていると指摘されていました。

3では、親の老後の見届け方について述べられていました。子どもは親を老人ホームに預けると世話から解放され楽になるが、親本人は家族とのつながりを絶たれ、一人になってしまう問題があります。ゼミ生の中にはこの問題について兄弟で話し合った学生もいました。

前々回受けたSDGsの授業に関連した点もあり、興味深い内容でした。3の老後の見届け方は将来必ずやってくる問題です。家族で老後の方針を相談するべきだと思いました。 

Mさん:将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』(ちくまプリマー新書、2021年)

本書は、人々が従順である理由やその危険性、そして究極的に何に従うべきか論じています。

なぜ人は従順になってしまうのか、三つ理由があげられていました。一つ目は習慣になっているから、二つ目は安心感を得るため、三つ目は責任を回避するためだそうです。

ではなぜ従順してはいけないのでしょうか。それは気づかないうちに不正に加担する可能性があるからです。例えば、秩序のなかに女性差別が組み込まれていた時、この秩序を維持しようと従順でいると差別に加担してしまいます。

しかし、生きていく上で何にも従わないわけにはいきません。何に従うべきか。それは共通善と良心です。共通善は、公共の福祉を指します。良心のみに従っていると行動の結果を配慮できない場合が多いため、共通善も含めて判断する必要があるそうです。

紹介を聞いて、従順であることは楽ですが、不正に加担しないためにも自分で考えることも大切だと改めて思いました。本書は最近出たばかりで、聞いたことがある事例も多く挙げられているそうです。読みやすい内容になっているので、社会問題に興味がある方に読んでもらいたい1冊です。

Iさん:福間詳『ストレスの話 メカニズムと対処法』(中公新書、2017)

本書は、タイトルのとおり、ストレスとその解消法を解説しています。

ストレスの一番の解消法は食事と睡眠です。7時間以上寝る、バランスの良い食事をとることがストレス解消に最も効果的です。しかし、必ずしも健康的な生活が送れるとは限りません。 誰でも、必ずストレスをため込んでしまう場合があると思います。その時は、ストレスを避けるのではなく、「薄める」必要があります。

ストレスが溜まっている時には、殻に閉じこもるのではなく、外に出て多くの刺激を受けることが有効です。この刺激はすべてが良い刺激である必要はなく、マイナス面の刺激でも効果があります。一つの出来事に集中するのではなく、様々なことを考えることによってストレスは薄まっていきます。また、考えすぎないためにも運動をして疲れることも大切だそうです。

近年ニュースでも度々ストレスが話題になっています。悲しい出来事に強い印象を持ってしまいがちですが、自分を守るためにもその印象をコントロール必要があると思いました。Tさんが報告した新書と関連している内容なので、2冊合わせて読むとより日々の生活を豊かにできるのではないかと思いました。

以上が今回の新書報告でした。どの本も最近話題になっている内容で興味をひかれました。次週は2回目のA班の報告です。どんな本の紹介があるか楽しみです!皆さんお疲れさまでした。


2022年5月25日水曜日

2022年度ゼミ 前期第6回:新書報告(B班担当)

こんにちは。2年のHです。この頃、寒い日が続いたと思ったら急に暑くなったりと過ごしにくい気候ですね。みなさま体調には気をつけてお過ごしください。さて、今回はB班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Tさん:堀田秀悟『なぜ、あの人の頼みは聞いてしまうのか?仕事に使える言語学』(ちくま新書、2014年)

本書は、頼みごとが上手な人が無意識、または意識的に使っている「言葉の力」について解説しています。Tさんが言葉の力を強く感じたとして2つの例を紹介してくださいました。1つは質問する言葉を少し変えるだけで、得られる統計に大きな差がでるというものでした。もう1つは置かれた立場によって攻撃的に、または受動的になってしまうというものです。つまり、使う言葉や置かれる環境によって、人が受けとる印象や自分自身の性格までもが変わってしまうのです。このような言葉の力を上手に使うことで理想の自分になることも可能だそうです。

Zさん:岡西政典『新種の発見 見つけ、名づけ、系統づける動物分類学』(中公新書、2020年)

本書は、生物学者の著者が、新種を定義するとはどういうことかを解き明かします。新種を定義することはとても難しいそうです。昔は標本と見比べて新種かどうか判断していたようです。標本は世界各国に散らばっており、その標本を見に各地へ訪れる必要があったため時間と手間がかかっていたそうです。しかし、現在はインターネットの発達によって全てデータベースで整理され、どこからでも閲覧することができるようになりました。それに伴って、年々発表される新種が増加傾向にあります。また、技術の進歩によって昔は同種とされていた生物が実は違ったという事態やその逆も起きているそうです。ちなみに新種を発見した際、種や科は決まっているものの学名は発見者が自由に決めていいようです。

Nさん:林巳奈夫『龍の話』(中公新書、1993年)

本書はゲームなどでお馴染みの龍について、中国古代の青銅器や文献から読み解いています。古代中国や日本において、龍という存在は雨乞いの対象でありました。というのも龍は、中国古代の五行思想のなかで水と火を司るとされていたからです。龍は神として崇められていましたが、その龍の上には帝という存在があるとされていたようです。そして、人々の雨乞いは龍を通して帝に伝えられ、聞き届けられたら雨がもたされると考えられていたそうです。ちなみに龍には巻き型のツノを持つものときのこ型のツノを持つものがいて、きのこ型のツノの龍は帝の直属の龍だそうです。

Sさん:旦部幸博『珈琲の世界史』(講談社現代新書、2017年)

本書は、コーヒーが広まっていった経緯についていくつかの国を取り上げて説明しています。ここではイギリスの事例を紹介したいと思います。紅茶のイメージが強いイギリスですが、じつは紅茶よりも先にコーヒーが広まっていたそうです。コーヒーの味を楽しむというよりも、コーヒーを提供するコーヒーハウスが市民の交流の場になっており、コーヒーハウスが広まっていくにつれてコーヒーを飲む習慣も広まっていったそうです。その後、さまざまな要因が重なり、イギリスではコーヒーよりも紅茶が親しまれていきました。このようにどの国で、どういった経緯をもってコーヒーが広まっていったのかについて書かれている一冊です。

Rさん:稲田豊史『映画を早送りで観る人たち(ファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形)』(光文社新書、2022年)

近年、映画を早送りで観る人が増え始めました。特に若年層に顕著なようです。本書は、なぜ早送りで観る人が増えたのかについて3つの要因を説明しています。一つ目の要因は、映像作品の供給が多すぎるからです。そのため、視聴者は、良いと評価されている作品を効率よく観たいという感情から早送りで観るのだそうです。また、サブスクリプションの普及によって、たくさん観た方がお得感を得られるようです。二つ目の要因は、失敗を恐れるという点にあります。現代を生きる多くの人々には時間的にも精神的にも余裕がありません。そのなかで時間を使って映画を観た時に、好みでない作品だった場合にひどく時間を無駄にしたと思うそうです。また、人との会話の話題として映画を観る人も増えており、映画の情報を短時間で得ようとする傾向があります。三つ目の要因は、セリフで全ての情報を説明してしまうからです。わかりやすさを追求した結果、セリフで全てを説明するため倍速で観ても話がわかってしまいます。このようになぜ映画を早送りで観るのかについて細かく解説している一冊です。

Yさんがディズニーランドの
お土産を差し入れてくれました。
本ゼミに相応しい(?)
本型パッケージのクッキーです。


以上5冊が新書報告で紹介されました。興味深い内容が多く、どれも読んでみたいなと思いました。次回はC班の新書報告になります。どのような新書が報告されるのか楽しみですね。みなさん、おつかれさまでした。



2022年5月18日水曜日

2022年度ゼミ 前期第5回:特別企画講義「女性運動の思想史」

 こんにちは。3年生のDです。梅雨の走りともいわれ、雨がよく降る今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。5月と言えど、晴れると少し汗ばむほどの陽気。気温差が激しく体調を崩しやすい季節ですので、どうぞ皆様、お体に気をつけて、健やかな毎日をお過ごしください。

さて、今回のゼミは「SDGsとダイバーシティ」という特別講義に参加しました。相澤先生がゲスト講師として担当された「女性運動の思想史」という講義を受講しました。

SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」との関連で、日本の妊娠中絶に関する様々な課題とそれらにまつわる女性運動を、フランスと比較しながら、わかりやすく解説してくださいました。今回のブログでは、講義内で解説されていた「フランスと日本の中絶の違い」についてご紹介します。

フランスと日本の中絶における違いは、大きく分けて四点あげられます。すなわち、「中絶の可否の判断」「中絶にかかる費用」「中絶可能な時期」「中絶方法」です。

「中絶の可否の判断」について、日本では、女性と配偶者の求めに応じた医師の判断がひつようなのに対し、フランスでは中絶を行う女性の判断のみで中絶することができるそうです。

「中絶にかかる費用」について、日本では、自由診療であり、数十万円かかる費用はすべて自己負担だそうです。それに対し、フランスでは保険払い戻しの対象で社会が費用を負担しています。女性の自己負担はないそうです。

「中絶可能な時期」について、妊娠22週未満です。一方フランスは妊娠15週未満と定められています。

「中絶方法」について、日本では、掻爬法と呼ばれる安全面で劣るとされる手法が主流となっています。それに対し、フランスでは薬剤や真空吸引法といった女性の身体的・精神的負担が少ないとされるより安全な手法が採用されています。

こうしてみると、日本よりフランスのほうが、より女性に寄り添った環境が整えられているように感じます。日本では中絶に関する話題はセンシティブな話題として避けられがちです。その結果、このような環境の違いが生まれてしまっているのではないかと思います。

講義の内容を踏まえて、授業の後半では、講義を企画した中川先生及び学生との質疑応答がなされました。中川先生から「出産に関する経済的な困窮」という問題提起がされた際、相澤先生がおっしゃった「フランスで出産した友人は健診の時に一度も財布を出さなかった」という話に驚かされました。フランスの経済的なケアはそこまで進んでいるのかと、とても印象に残っています。

また、ある学生からの「現在の日本の中絶、避妊など性に関する教育は変えるべきなのでしょうか」という質問に対して、正しい知識は自己防衛につながると述べたうえで、「フランスはしっかりと性教育が実施され、避妊へのアクセスが良いにもかかわらず、中絶の割合が日本よりも高いという現実があるため、この事実をどう考察するべきかまだ結論が出せていません」と回答していました。このフランスの現実を聞いて、性教育を充実させるだけで解決に至るほど問題は単純ではないと、改めて中絶に関する問題の複雑さを実感させられました。

中絶という行為には、倫理的問題や技術的・経済的課題など解決すべき障害が山積しています。これらを乗り越えるためにも、私たち一人一人が当事者意識をもって中絶に向き合わなければなりません。デリケートな問題として話題にすることを避けるのではなく、もっと活発に議論を交わしていくことが今の私たちに必要な姿勢ではないでしょうか。

今回の講義は、ジェンダー平等に関する問題を深く考察するとても良いきっかけになりました。SDGsでは今回紹介した目標5の他に16個の目標が策定されています。それぞれの目標に付随する社会問題にも目を向け、自分の視野をもっと広げていきたいです。

2022年5月11日水曜日

2022年度ゼミ 前期第4回:新書報告第1回(A班担当)

こんにちは。2年のTです。今回は今学期初めての新書報告となります。顔合わせて間もないため緊張したと思いますが、皆さん素晴らしい報告でした。では、A班の新書報告を紹介していきます。

Kさん:西林克彦『わかったつもり』(光文社新書、2005年)

本のタイトルにもある通り、わかったつもりからの脱却について書かれた本です。本書では、わかったつもりとは読み込みが浅いことと定義されています。この本の特徴として、例文があることが挙げられます。例文があることによって、より理解しやすいように工夫されているそうです。本書によると、どのように文章を理解しているかを知ることが大事だそうです。文を理解するためには、単語と単語の関係性について理解することが重要です。この本を読むと1つ国語の授業受けたようになるそうです。

Hさん:阿満利麿『日本人はなぜ無宗教なのか』(ちくま新書、1996年)

本書は日本人はなぜ無宗教なのかという問いに答えています。まず、宗教は創唱宗教と自然宗教という2つに区別できるそうです。そして本書には、日本人は無宗教ではないと述べられています。なぜかというと、日本人は初詣やお墓前り、お葬式など宗教的な儀式をしていて、長い期間でみると、多様な宗教にすがっているといいます。また、神頼みしている時点で無宗教とはいえないと聞いて私自身納得しました。

Uさん:平野啓一郎『私とはなにか』(講談社現代新書、2012年)

本書は私とはなにかと、私について述べられている本で、明治時代に入るまでは私とは存在しなかったそうです。それは武士などの役職があったからだといいます。人は話し方を切り分けているといい、その相手ごとに自然な一面が引き出されていると述べていました。たしかに、先輩や後輩、先生や親などそれぞれ別の話し方だと私自身実感しました。私について悩みを持っている人はこの人の本を読んで気持ちを楽にしてみてはとおっしゃっておりました。

Kさん:池上彰『わかりやすく伝える技術』(講談社現代新書、2009年)

本書では相手にわかりやすく伝えるためのポイントとして3つ挙げられていました。1つ目は、聞き手に地図を渡すということです。地図を渡すとは、話の概要を初めに伝えることをいいます。こうすることによって、聞き手は話の到着点を見据えることができるため、話を聞いてもらいやすくなるといいます。2つ目は、アイスブレイクです。アイスブレイクとは、話し手と聞き手の距離感をほぐすことです。これがうまくいくと一体感のあるプレゼンをすることができるといいます。3つ目は3の魔術で、3という数字を大切にしているそうです。3の魔術とは、わかりやすい説明をするには3つのポイントが大事であるとことをいいます。記憶をメモを取らないで記憶する限界が4プラマイ1というのがあるそうです。これは人間は前提知識がないと4つや5つ説明されても理解できないことをいいます。

Yさん:友原章典『実践 幸福学 科学はいかに「幸せ」を証明するか』(NHK出版新書、2020年)

本書は幸せについて考察している本です。Yさんは、本書から印象に残った内容を二点紹介してくれました。一つ目は、将来幸せになっているかは卒業アルバムで目も口も本物の笑顔をしているかで判断できるそうです。笑顔は大事で、笑うと幸せホルモンがでるため人生が幸福になると述べられています。逆にストレスを感じてしまうとコルチゾールといった悪いホルモンが出てしまうため、ストレスを感じたら原因を客観視することが大事だといいます。作り笑いでも良いと述べられていたので私もよく笑うようにしたいとおもいます。二つ目は、幸福を追求しない方がいいと述べていました。ポジティブやネガティブの感情は良くも悪くもないといいます。ポジティブやネガティブといった感情をコントロールすることは良くないといいます。また、小さな工夫で幸せになれると述べていました。例えば、適度な運動などです。これをきいて、僕も適度な運動を行いたいと思いました。

以上5冊が新書報告で紹介されました。今回の新書報告で僕の知らない新たな知識を報告を通して得ることができました。次回の新書報告も新しい知識を学べるといいなと思います。皆さんお疲れ様でした。

2022年4月27日水曜日

2022年度ゼミ 前期第3回:発表の仕方・文章の書き方

 こんにちは、経営学部 2 年のゼミ生の H です。第3回のゼミを行いました。今回の授業では、プレゼンの仕方・聞き方とスマートな文章を書くためのコツを学びました。

まずプレゼンの仕方・聞き方について、おさえておくべきポイントが6つあることを相澤先生から教えていただきました。

  • 大きい声でハッキリ話す。
  • ゆっくり話す。
  • 難しい言葉は使わない。
  • 相手を見て話す。
  • 相手が複数いる時は、みんなに視線を配る。
  • ジェスチャーを活用する。

これらを意識してプレゼンすることで、相手に伝わりやすくなります。自分のプレゼンに興味を持ってもらうために6つのポイントを意識してプレゼンをしたいです。1つのポイントをおさえながらプレゼンをすることは簡単だと思いました。しかし、全てのポ イントをおさえながらプレゼンをすることは、難しいと感じました。毎回のプレゼンで経験を重ねながら、身につけていきたいです。

ゼミ生のUさんが先生に、「本の魅力を相手に伝えるコツを教えてほしい。」という質問をしました。先生から本を読んでいない人が一つ賢くなれる(学べる)内容を話すとよいことを教えていただきました。 本の魅力をプレゼンに組み込むことで、自分の発表に関心を持ってくれるようになると思いました。

次にスマートに文章を書くコツを教えていただきました。「~という」や「~もの」はほとんどの場合、なくても意味が通じることが分かりました。また、文章をダラダラと長くするのではなく、文を区切って短くすることを学びました。文を短くすることで、理解しやすくなると思いました。プレゼンの原稿をスマートな文章で書けるように練習していきたいです。

文章の基本的な書き方について学んだあと、グループに分かれてダメな文章表現例を適切な文章に変えるワークを行いました。グループで直した文章を先生や他のグループの修正例と比べてみると、適切な文章は必ずしも1つではなく、さまざまであることが分かりました。自分の伝えたいことが相手にしっかりと伝わるように、常日頃から適切な文章表現を使えるように気を付けていきたいです。

このように、今回のゼミでは、プレゼンには欠かせないポイントと文章の書き方を学びました。ゼミで経験を重ねて、プレゼン力や文章力を身につけていきたいです。

2022年4月20日水曜日

2022年度ゼミ 前期第2回:新書の探し方GW

 経済学部二年生の新ゼミ生のKです。二回目の授業は図書館で行われました。私がゼミ自体初めてということもあり、二回目の授業でしたが緊張と不安を感じながら図書館に向かいました。

今回の授業のテーマは新書の選び方です。本ゼミの根幹でもある新書を読む活動の前準備にあたります。主に授業の内容は三つです。始めに相澤先生から新書の探し方についての解説がありました。二つ目は、その説明を基にゼミ生たちが実際に図書館で三冊新書を選びました。最後に、自分が選んだ本を他の人と共有するというグループワークを行いました。

ゼミでは世俗的な本ではなく、一定の学術的な水準を満たした本を選ぶことが求められます。そこで学術的な新書の選び方について注目すべき二つの観点を相澤先生から教えていただきました。一つ目は出版社です。本には学術的な意味で格が存在します。格は出版社によってばらつきがあるので、最初は自分に合った出版社を選ぶことが重要です。二つ目は著者に注目することです。著者が研究者かどうかや、本のテーマが著者の専門と一致しているか本を読む前に確認することが大事です。

これらの解説を踏まえて、ゼミ生たちは実際に図書館で本を選んでみました。本を選ぶときにこの二つの視点を持っておくことで、以前よりも本の内容を推測しやすくなりました。それと同時に、自分にとって単純な作業だった本選びがとても難しく感じ、予想以上に時間がかかってしまいました。実際に気を付けて本を探してみると、確かに出版社ごとに特色を感じることができました。

その後、他のゼミ生とお互い選んだ本を紹介し合いました。選んだ本を通してその人を少し知ることができて面白かったです。本を通してその人のバックボーンや今興味のあることを知ることができました。学部で学んでいることに関連した本を選んでいる人や、自分の興味のままに本を選んでいる人もいました。その中で印象に残った本があります。岩波ジュニア新書の『なぜ国語を学ぶのか』です。私たちが一度は抱いたことがある疑問だと思います。そんな興味や好奇心を共有できたことがうれしかったです。ほかにも自分では見つけることができなかった面白そうな本に終始わくわくしていました。

グループワークを通して他の人の価値観に触れ、少しだけ自分の世界が広がったような気がします。まだまだゼミは始まったばかりですがゼミでの活動を通じて大学生活をより豊かにしていきたいです。

2022年4月13日水曜日

2022年度ゼミ 前期第1回:オリエンテーション

 担当教員の相澤です。2022年度のゼミが始まりました。今年は総勢15名、相澤ゼミ始まって以来の大所帯で学んでいきます。

今日前半はオリエンテーションとして、私からゼミの約束事やゼミの進め方を案内しました。人数が多いため、3グループに分けて新書報告を行う予定です。後半は、グループに分かれて顔合わせを行いました。まずはゼミ生同士お互いを知ることが重要です。グループシャッフルをしつつ、自己紹介で盛り上がりました。

ゼミ生たちには、ゼミを楽しみながら、目標である読書習慣をしっかりつけてほしいと思います。一方、教員である私にも目標があります。それは、運営をある程度学生に任せることです。これまでは、ゼミも課外活動も私が一人で仕切ってきました。しかし、昨年度から履修者数が増え、一人で切り盛りすることに難しさを感じることも出てきました。そこで、これまで私が担ってきたゼミ運営の仕事を適宜学生に任せ、組織運営のイロハも経験してもらいたいと考えています。

任せるためには、信頼が必要です。これから学生との関わりを通じて、お互いの信頼を育んでいきたいと思います。


2022年1月19日水曜日

2021年度ゼミ最終回:個人面談と「相澤ゼミの本棚」作り

 担当教員の相澤です。早いもので、2021年度のゼミも最終回を迎えました。

毎年最終回は、私と学生で個人面談を行っています。事前にGoogle forms経由で振り返りシートを提出してもらい、その内容をモニターに映して、一緒に一年の学習成果を振り返りました。

多くの学生にとって毎週新書を一冊読むことは簡単ではありません。しかし、一年継続した結果、読書の習慣がつくとともに、読書の楽しさを実感できたようです。また、授業では自分が報告するだけではなく、他の学生の報告を聴き、質問をしなければなりません。学生たちは、他の人の発表から多くの気づきを得ていたようです。

今年は初めての試みとして、個人面談と並行して、一年間に読んだ中からおすすめの新書を選んでPOPを作るグループワークを行いました。このPOPを使って、図書館で「相澤ゼミの本棚」展示を実施していただく予定です。

展示用の本と手作りPOP

力作が出来上がりました。



後日、このように展示棚を作成していただきました。早速借りられている本もあります。自分のおすすめ本が借りられるのは、なんとも言えない嬉しさがあります。

2022年1月14日金曜日

課外活動:「ニューイヤーバレエ」鑑賞


1/14の晩、ゼミの課外活動として、新国立劇場で上演された「ニューイヤーバレエ」を鑑賞しに行きました。コロナ禍で外出も少なくなりがちですが、皆で踊りの美しさに触れる貴重な機会となりました。以下、参加者の感想を紹介します。

Oさん:私にとってバレエ鑑賞二回目の今回は、2つの演目がありました。
「テーマとヴァリエーション」では、男女ペアのダンサーたちが大勢で舞台に登場し、それぞれの場所で美しく踊っていました。オーケストラの奏でる音楽にぴったりと合った舞は、どれも素敵でした。しかも同じ踊りが無く、私はいつまでも眺めていられそうでした。すると、さらにきれいな衣装を身にまとった主役級のダンサーが登場し舞い始めました。多くの人は、おそらくそれに注目するでしょう。私はそれを見つつも、今回はあえて両側にはけたダンサーたちに注目してみました。彼らはその場でしなやかに美しく佇んでおり、真ん中で踊る主役たちを引き立たせているようでした。私はその時、バレリーナは踊るときだけでなく、止まっている時も同様に輝いて見えるのだと感じました。
「ペンギン・カフェ」では、様々な生き物に扮したダンサーたちが、ピアノも含めた楽曲に乗せて、個性あふれる舞をしていました。個人的に最も印象に残ったキャラクターは、ペンギン(The Great Auk)です。よちよちと歩くペンギンらしさが、足先を左右に大きく振った踊りに反映され、とても可愛らしかったです。
舞台装置も画期的でした。最初に幕を少し開けて色々な生物を登場させ、徐々に幕を開けながらその世界を現したり、照明に影を投じてリアルな自然環境に見立てたりと、色々な工夫がありました。
今回も観どころ・聴きどころ満載のバレエでした!「ゼミ一年間お疲れ様」課外活動としてもとても良い鑑賞会でした。

Iさん:前回の「白鳥の湖」とはまるで違うバレエを観ることができ、新鮮でとても面白かったです。
印象に残っていることは、ネモフィラのような美しいブルーの衣装と、女性が男性に持ち上げられながら舞うシーンです。上の階から見ると、バレリーナ達の衣装がネモフィラ畑のように見え、とてもうっとりしました。また、男性に女性が持ち上げられることで、女性が宙を舞う時間がとてもゆったりして圧巻でした。
第二部では、まるでミュージカルのようなバレエだと感じました。また、拍手や太ももを叩いたり、足音を大きくたてて、体で音を出していることが面白いと感じました。
言葉を発さずに何を伝えたいのかを体全体で表現できていてとても驚きました。

Mさん:テーマとヴァリエーションにおける足先の動きが最も印象に残りました。移動が多い中での細やかな動きは、音楽の軽快さをより増しているなと思います。そして、前回とはまた違った面白さがありました。
また、ペンギン・カフェに登場するカンガルーネズミの動きを見ていて、1つのショーを見ているように感じました。
コロナ禍ではありますが、今回も参加できたことは貴重な経験になりました。ありがとうございます。

Yさん:バレエ鑑賞は今回が2回目でしたが、今回もとても楽しめました。前回の白鳥の湖とは雰囲気がガラリと変わり、ポップで親しみやすい作品だと感じました。ペンギンカフェは、想像していたバレエとは衣装のテイストや体の使い方が全然違ったので特に印象に残りました。バレエは歌やセリフがなく、演奏と踊りと舞台の大道具で世界観を表現するので、観るのに集中力や想像力が必要ですが、ある意味人によって多様な解釈ができるのかなと思いました。

Nさん:バレエを観たのは初めてでしたが、その表現力に圧倒されました。音楽に合わせて一矢乱れぬパフォーマンスを行う様には、素人ながら感動を覚えました。一方で、言葉が無いことによる難しさも感じました。もちろん、それを補って余りあるパフォーマンスなのですが。2つめの「ペンギン・カフェ」はパンフレットの解説である程度理解する事が出来ましたが、1つめの「テーマとヴァリエーション」は動きが凄いと感じるに留まってしまいました。次にバレエを観る際には、しっかりと注目ポイントを抑えて観たいと感じました。

Uさん:人は心が動いた瞬間のみを記憶する。と、述べた作家がいましたが、だとしたら僕が色濃く記憶するのは今日のバレエのことです。
 字数の関係上、最も興味を惹きつけられた、第一部のテーマとヴァリエーションに絞って感想を述べたいと思います。
 チャイコフスキーの音楽に合わせて舞う動きに惹きつけられました。事前に演目について調べた際に、音を動きで表現しようと試みたバレエと紹介されていて、どのように表現されるのかとても興味があり、当日まで楽しみにしてきました。私は、幼少期よりピアノを習って来ましたが、音楽そのもの以上に、音楽を別の方法で表現する試みに興味を持っています。例えば、音を絵画で表現するアーティストとしてメリッサ・マクラッケンや、音楽を文章で表現した作品として『蜜蜂と遠雷』などが好きです。
 そのような興味で迎えた第一部、優雅に舞うバレエのさまに釘付けになりました。

Tさん:今回、ニューイヤーバレエとして『テーマとヴァリエーション』と『ペンギン・カフェ』の2作品を見ることができて、良い体験になりました。テーマとヴァリエーションの方は、クラシックバレエという感じで、そろった踊りがとても綺麗でした。また、難しそうな動きをあんなに綺麗に踊れるバレエダンサーの凄さも感じました。
それに対して、もうひとつのペンギンカフェは、クラシックなバレエというよりも現代風のバレエのように感じました。踊りの振り付けがコンテンポラリーダンスのような感じで、見ていて楽しかったです。また、ペンギンをはじめとする動物がモチーフになっているので、かわいらしかったです。さらに、ペンギンカフェのメッセージ性も感じられたので面白かったです。それぞれタイプの違うバレエを見た気がして良い体験になりました。

閉幕後に全員集合。
Kさん:今回は新国立劇場のニューイヤーバレエを鑑賞しました。演目は『テーマとヴァリエーション』と『ペンギンカフェ』でした。
一部のテーマとヴァリエーションはダンサーの踊りと音楽が一心同体になっているかのようなハーモニーを作り出していてとても心地よく、ずっと食い入るように見てしまうような内容でした。
二部目のペンギンカフェは初めて見るクラッシックバレエ以外のもので凄く興味深かったです。バレエダンサーたちはみんな動物の被り物をしており、登場人物とストーリーはとてもわかりやすく面白かったです。今まで見てきたバレエと違って、より''ダンス''っぽさがあり印象的でした。
今回のニューイヤーバレエでは一部、二部それぞれ全く違ったバレエを鑑賞出来、新しい芸術き触れられてほんとにうによかったです。

Gさん:前回観劇した白鳥の湖とは異なるバレエでとても楽しかったです。1演目のテーマとヴァリエーションは物語ではなく、音楽を可視化したバレエとパンフレットに書かれてあり楽しみにしていました。チャイコフスキーの音楽に合わせた踊りは、まばたきをする瞬間も惜しい迫力がありました。2演目のペンギン・カフェはダンスに近い踊りでとても新鮮でした。絶滅危惧種を表現した衣装を着ており、フィナーレの銃声のような音で動物たちが次々に倒れていく様子は、文明の発展が動物の命を奪っていると強いメッセージを感じました。