2022年7月6日水曜日

2022年度ゼミ 前期第12回:新書報告(B班担当)

  こんにちは。4年のUです。あっという間に梅雨が過ぎ去り、一週間ごとに気温が上がる日々が続いています。アイスが美味しい季節ですね。皆さんはなんのアイスが好きですか?僕はピノが好きです。さて、今回はB班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:吉野実『「廃炉」という幻想 福島第一原発、本当の物語』(光文社新書、2022年)

 本書は、新聞社勤務時代からテレビ局に転勤した現在まで長年にわたって原子力発電所について取材している著者が執筆したルポータージュです。福島県出身で原発問題を自分ごととして考えてきたKさんが紹介をしてくれました。

 2011年に、東日本大震災後に原子力発電所の事故が起きた事件は記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。事故後に30~40年を目安に廃炉にすると政府が声明を出しました。しかし、それは事故が起きていない普通の原子炉を廃炉にするのにかかる基準だそうです。事故の起きた福島の原子力発電所の場合は、専門家の間では少なくとも100年、長いと300年かかると言われているそうです。

 私は、事故が起きて10年も経つと、原子力発電所のことを忘れかけていました。本書の紹介を聞いて、目を背けていてはいけない問題だとハッとしました。

Tさん:黒木登志夫『研究不正 科学者の捏造、改竄、盗用』(中公新書、2016年)

 先月発覚した福井大学の研究不正のニュースを見たTさんは「なぜ研究不正は起こるのか」が気になり、本書を読んだそうです。

 本書は、科学者が論文で行った不正について書かれたものです。不正を捏造、改竄、盗用という3つに分けた上で、実例の紹介から改善策の提案までなされます。

 研究不正では、聞いていても「それはバレるだろう」思うような不正の事例が紹介されていて、興味深く感じました。例えば、白いネズミに黒いネズミの皮膚を移植するはずが、黒のマジックペンで塗って「皮膚を移植した」と主張する不正が行われたことがあるそうです。

 さらに、改竄では予め立てた仮説を証明するために、実験の結果得られた都合の悪いデータが排除されることもあると言います。

 著者は不正をなくすために、研究倫理教育をおこなったり、研究室の風通しをよくしたりすることを提案しています。

 学生の私たちも、「不正なコピペなどのレポートは厳禁です」と大学1年生の頃から、耳にタコができるほど聞かされます。しかし論文の不正は研究者間でもなくなることのない点や、その不正の具体例まで知るのは、初めての機会でした。知らない世界の一端を覗いた心持ちになりました。

Hさん:原田隆之『サイコパスの真実』(ちくま新書、2018年)

 サイコパスの定義は「良心を欠いた人」と定義しています。一般人口の1~3%が該当するそうです。

 100人に1~3人もいるなんて、意外と多くの人が該当することが印象的でした。

 さらに、「サイコパスは犯罪者になるのではないか」という一般的に持たれがちな認識は意外と間違っていて、犯罪者に占めるサイコパスの割合は15%に過ぎないそうです。つまり多くのサイコパスは、そもそも犯罪に関与していません。

 サイコパスと会った時の対処法は、「できるだけ関わらず、個人的な話をしない」ことなどが挙げられます。そして、サイコパスである有名人としてスティーブ・ジョブズが紹介されています。

 報告を聞いて私は、サイコパスの割合の高さに驚かされました。さらにスティーブ・ジョブズのような著名な人間もサイコパスだと聞くと、サイコパスを少し身近に感じるようになる報告でした。

Nさん:竹下大学『日本の品種はすごい』(中公新書、2019年)

 本書はリンゴやジャガイモなど、栽培植物7種について紹介しています。

 スーパーに行くとお馴染みの男爵芋は、明治の頃に強い品種を育てようという意図で、日本に導入されたそうです。川田龍吉男爵が個人的に導入したということで「男爵芋」と命名された、興味深いエピソードが紹介されました。もともと海外の名前があったはずなのに、流通した時に名前が分からなかったことが原因だそうです。

 さらに、りんごについても、面白い紹介がありました。日本に輸入された当初はりんごの人気が不動だったといいます。しかし戦後になると、皮を簡単にむけて甘くて美味しいバナナやみかんが輸入されるようになったため、りんごの人気が下がってしまったそうです。バナナやみかんが当たり前にある時代に生まれた私にとって、印象に残りました。

 著者は新しい品種の開発によって、それ以前に主流だった歴史ある品種が忘れられることを憂いて、本書を執筆したと言います。確かに、このような魅力的な男爵芋やリンゴの人気のエピソードが忘れ去られるのは悲しいと感じました。

Sさん:武田尚子『ミルクと日本人 近代社会の「元気の源」』(中公新書、2017年)

 ミルクと福祉的関係というと、一見、関連がない言葉のように感じるのではないでしょうか。本書は、ミルクが日本でどのように一般に行き渡ってきたのかという歴史的経緯について紹介しています。

 関東大震災の後、必要な人にミルクが届かなかったことをきっかけに、震災から9日後には東京市(現東京都)にて、約60万名の乳幼児を対象に牛乳の配給がおこなわれました。

 さらに、ミルクの配給と並行して、保健所の併設が行われました。健康診断など、配給を受ける人を対象に生活をより良くするための指導も行われたそうです。一見、ミルクと健康診断は無関係に思われますが、配給に参加するのは、主に貧困者が多かったことから貧困者支援の役割も果たされたそうです。

 文明開花で牛鍋などと同時に導入された当初は、牛乳に対して「こんな臭いもの、誰が飲むんだ」という反応も存在したそうです。しかし栄養価の高さゆえに、次第に広まっていったそうです。歴史の流れを知ることができる、貴重な発表でした。

 今回の新書報告で紹介されたのは以上の5冊です。来週に控えているC班の新書報告も楽しみです。前期最後の新書報告となります。皆さん、お疲れ様でした。