2022年8月5日金曜日

課外活動:スイス プチ・パレ美術館展鑑賞

美術館前にて。
(撮影時のみ、マスクを外しています。)
夏休み真っ最中の8月5日に、ゼミ生と新宿にあるSOMPO美術館を訪れました。同美術館では、スイスのジュネーヴにあるプチ・パレ美術館の所蔵品展が開催中。19世紀後半から20世紀にかけてのヨーロッパ絵画の流れを楽しみながら辿りました。



今回は「グループ鑑賞の試み」と題して、まずは一人で自由に鑑賞したあと、三人グループに分かれて各自が自分の気に入った絵をシェアする形で実施しました。自分が惹かれた点を言葉で他者に説明することによって、絵の魅力をより実感できたのではないかと思います。

以下、参加者の感想です。

Kさん

 事前知識を何も持たずに美術館に行ったが、とても新鮮で素晴らしい体験ができた。美術館に行かなければ体験できなかったような事がたくさんあった。その一つに絵というものがどういうものか実感した事だ。写真ではなく、絵であるという事を実感するとはどういうことか。私たちが名画に触れる時は写真を通して見ることが多い。しかしそれは実際にはプリンターのインクではなく絵の具が使用されている。そして絵の具は何回も塗り重ねられている。実際に絵を見る事でそういった細かい工程をまざまざと思い浮かべる事ができた。これは写真ではなく実際に絵を見てみないとわからない事だ。他にも新しい発見があった。それは絵画との距離によって見えるものが変化する事だ。ニコラス・アレクサンドロヴィッチ・タルコフ作の『木陰』という絵画がとても印象に残っている。その絵画は原色を大胆に使い、筆のタッチもとても豪快だった。人物も写っていたが最初見た時はこの絵は色使いの様を楽しむ絵画であると感じた。しかし、絵との距離をとるにつれ人物の表情が浮かび上がってくるのだ。それはまさに計算された完璧な色の配分によってなされているものだった。このように絵画との距離によってその絵が見せる表情も異なってくる。このように美術館に行く事でしか得られない体験が多くあった。

 最初に述べたように私は事前知識もなく美術館に向かったが、この美術館では時代背景と共に美術の文化の変遷が解説されている文章があり、私のような初心者でもじっくりと絵画鑑賞を楽しむ事ができたのでとてもおすすめだ。自分一人ではこのような貴重な体験をすることはできなかっただろう。この企画を発案してくださったU先輩や身重の体で引率をしていただいた相澤先生にはとても感謝している。

Rさん

今回印象派以降の絵画65点が展示されていたが、非常にバリエーション豊かで見飽きることのない美術展だった。美術史に沿った展示で、絵画の時流に乗った作品が数多く展示されていた。

最後にドーンと展示された「ひまわり」。
(撮影可の作品をゼミ生が撮影しました。)
惹かれた作品は数点あったが、その中でもSOMPO美術館の巡回広告でもピックアップされていた、モーリス・ドニの《休暇中の宿題》が印象的だった。家の中にいる作者の奥さん、子どもたち3人を描いた絵画で、静かに流れる日常のひとときを切り取ったような絵画だった。窓から差し込む太陽の日差しも相まって温かさの伝わってくる1枚だったが、この奥さんとは後に離婚しているとのこと。そのことを知るとまた違って絵画が見えてくるのも、絵画鑑賞の面白さだと思う。絵の具の凹凸や点描の技法、絵画そのものの大きさなどは、間近で本物を見ないことには捉えられない。生で見ることで、印刷では味わえない作者の思いを強く実感できると実感した。(余談だが今回の展示で、なんとなく見覚えのある絵画があると思ったが、この展覧会は既に地元にも巡回に来ていたもので、チラシが手元にあった。)

また、SOMPO美術館の目玉コレクションとして、ゴッホの描いた7枚のひまわりのうち、唯一日本にある1枚が常時展示されていた。今回はじめて見たが、想像よりも大きい作品で、まさに私たちの知る”あの”ひまわりそのものだった。

Oさん

今回の美術館鑑賞は、私にとって新鮮なことが多かったと振り返る。

これまでの鑑賞では、何の目的も持たずに美術品をなんとなく見るだけで、どこにその作品の良さがあるのか分からないまま終わってしまうことが多かった。しかし今回は、「自分の部屋に飾りたい一枚を見つける」という目的があったため、鑑賞ガイドや掲示された説明を注意深く読みながらじっくり鑑賞することができた。

2周目、ゼミ生と一緒に鑑賞した。私はRさんとKさんと一緒に、階ごとに自分が部屋に飾りたい絵を紹介しあった。すると驚いたことに、私が気に入った絵を、RさんとKさんも気に入っていたのである!

その絵とは、新印象派にカテゴライズされる「ファン・デ・フェルデ夫人と子どもたち」だ。絵の全面が点描で描かれているのが特徴である。私がこの絵で特に目を見張ったのは、夫人と子どもたちの髪の毛や衣装の光沢感の表現だ。光が当たるところとそうでないところが点描を用いて繊細に色分けされており、絵の中の彼女たちは今にも動きだしそうなくらい生き生きとしていた。耳をすませば彼女たちの会話が聞こえてきそうだと思った。

小グループワークだけではなく、全体でみんなの気に入った絵を紹介する時間も取れたらもっと発見があったかもしれない。それほど内容の濃い鑑賞会だった。ぜひまたみんなで行きたい。

Uさん

前期のゼミの新書報告にて、高階秀爾『近代絵画史(上)-ロマン主義、印象派、ゴッホ』(中公新書、1975年)を発表した。

その過程で、絵画は思いつきで描かれたのではなく、歴史や流行によって作風は変化する事を学んだ。

例えば、今回のプチ・パレ展で入り口からずらりと並んだ印象派は、チューブ式絵の具の発明と綿密な関わりを持っている。

チューブ式絵の具によって、アトリエの外にも絵の具とパレットを気軽に持ち歩けるようになったことが、画家たちの「風景をありのままに描きたい」という欲望を叶えた。

アトリエの外で描くうちに、それまでは色を混ぜて表現していた中間色を、「もっと日差しの下の風景を、見たままに明るく描きたい。」と新たなモチベーションが生まれる。

しかし、全ての色を混ぜると黒になるように、樹木の葉を表現する黄緑など、色を混ぜるほどに、原色の緑や黄色よりも色の彩度は落ちる。混ぜると、濁った色になる。

一般人の我々はあまり気が付かなくても、そこにストレスを感じて、印象派は新たな表現技法を生み出した。

それが、色を混ぜずに隣り合わせに配置して表現する「筆触分割」や、時代が下ると「点描画法」へと移行していく。

実際に展示の説明では、筆触分割や点描画法などの、高階が『近代絵画史』にて歴史背景と共に説明した説明書きが散りばめられていた。

このような時代ごとの表現方法の進化や、それに伴って「印象派」や「新印象派」「フォービズム」と名付けられた数々の運動。

これらが時代に沿って展示している美術館側のキュレーターの配慮にも感動した。

絵画に造詣が深く、絵やそれらを取り巻く歴史をテーマに著述する、原田マハ。原田は『楽園のカンヴァス』にて、美術館のキュレーターを主人公にして、「美術館の展示品をどのような展示意図で集めて、どの順番で並べるかがキュレーターの腕の見せどころだ」と語らせる。

時代ごとに整然と、調和を持って並べられた「印象派」や「新印象派」「フォービズム」までの展示。個人での鑑賞と、グループごとに好きな絵を共有するという鑑賞の2往復をして、改めて、展示の配列であるキュレーションの妙味に感嘆した。

Hさん

企画展が気になったりして博物館にはよく行くのですが、美術館を訪れる機会があまりなかったので今回の美術鑑賞は私にとってとても新鮮でした。思っていたよりも展示されている絵画が多くて驚きました。時代ごとにまとまっていたので、時代の変化に伴って描写の方法、画家たちのスタンスが変わっていったことを感じることができました。また、感想を共有した際に、同じ絵を見ていても感じることは人それぞれ違っているのだということを肌で感じ、自分と違う見方の意見を聞くことができたことでとても有意義な時間を過ごすことができました。

Yさん

作品を鑑賞する際、意識した点があります。それは「画家は何に興味があり何を大切にしているのかを考える」という点です。

時代によって筆や絵の具などの使い方(表現方法)が異なり、同じ時代でも画家によって作品の印象は大きく違いました。そこで、画家が何にこだわりを持ちながら作品を創り上げたのか考えることで画家の個性を楽しみながら作品と向き合えました。

たとえば、人の顔や身体にこだわりを持つ画家は、人の表情が浮かび上がってくるように描きますが、建物や植物はハッキリ描かずぼんやりとしています。どの作品も、全てを正確には描かず、力を入れる部分とそうではない部分がありました。作品のこだわりを探しながら、画家と会話をしているような気分になりました。充実した楽しい時間を過ごせました。

Zさん

今回の美術鑑賞に参加してよかったと感じた点は、作品を間近で鑑賞できたという点である。今回鑑賞した美術館で行われていた美術展では、スイスプチ・パレ美術館に所蔵されている19世紀後半から20世紀前半頃までのフランス絵画が展示されている。こういった作品のタッチや配色を細部にわたるまでじっくりと鑑賞できるのは実際に美術館にいったからこその意義だといえる。特に、新印象派の作品には、点描で描かれた作品もいくつか展示されており、一つ一つの点に至るまで鑑賞でき、特に意義を感じた。私は美術には明るくなかったが、少し美術についての知見を広げることができたと感じた。