2020年7月22日水曜日

2020年度前期 第13回:個人面談

担当教員の相澤です。前期最後のゼミの活動を報告します。

毎学期、最終回は個人面談を行っています。学生は事前に振り返りシートに記入した上で面談に臨みます。面談では、私とともに学期中に学んだことを確認し、後期の課題を自分なりに設定してもらいました。

本ゼミでは、毎週の新書報告を軸に運営しています。今学期は、持ち時間3分で内容を紹介し、ゼミ生との質疑応答と行う形で、計6回実施しました。新書報告はゼミ生にとっても初めての経験だったわけですが、新書を読むことそれ自体だけでなく発表の仕方も慣れてコツがつかめてきたという声が聞かれました。また、本を読む習慣がなかったが、読み始めると面白いことに気づいたという声も聞かれました。教員として、ゼミの狙いが機能したことを嬉しく思いました。

一方、今後の課題として多くの方が挙げていたのが、質問が(うまく)できなかったという点です。ゼミでは毎回、必ず一度は質問するよう義務付けています。数名の方が、質問はできたけれど、もっと内容を深める質問をできるようになりたいという前向きな課題を掲げてくれました。


各ゼミ生が次の目標を見つけるとともに、私自身も、学生に資するゼミ運営について考えさせられる機会となりました。夏休みの間に、いろいろネタを仕込もうと思っています。

なお、夏休みには何度か課外活動を実施する予定です。学生と直に対面し、一緒に新しい経験をすることが今から楽しみです。

2020年7月15日水曜日

2020年度前期 第12回:GW「『社会のしくみ』を考える」

相澤ゼミ経営学部3年のNです。今回は、歴史社会学者の小熊英二さんのネットインタビュー「もうもたない!?社会のしくみを変えるには」を読み、次の2点の共有、ディスカッションを行いました。

(1)気になった点や他人の意見を聞きたいと思った点
(2)日本社会で生きるとき大切にしたいもの・変えてもいいもの

 詳しい内容を報告する前に、記事の概要を記載したいと思います。
本記事では、1970年代に完成した日本社会のしくみが、時代の変化に伴い、維持できなくなっているのではないかという考察が述べられています。日本社会のしくみとは、終身雇用や年功序列の賃金システム、そして新卒の一括採用などに象徴される雇用慣行と、それに規定されてできていった教育や社会保障のあり方、さらには家族や地域のあり方といった日本社会の慣習の束のことを指しています。
また、小熊氏は現代日本での生き方を、大企業型・地元型・残余型の3つに分類して説明していました。1つめの大企業型は、大学を出て大企業の正社員や官僚となり、賃金が年功序列で上がっていく人を指します。こうした大企業型は所得が多いものの、長時間労働や通勤時間が長く、地域社会とのつながりが薄い人が多いという特徴があります。2つめの地元型は、地元の学校を卒業し、農業・自営業・地方公務員・建設業などで地元にとどまって働いている人を指します。所得は比較的少ないものの、地域コミュニティ-を担い、持ち家や田んぼを有したり、人間関係が豊かだったりします。3つめの残余型は、平成の時代に増加してきたタイプで、所得が低く、人間関係も希薄という特徴があります。これらの象徴としては、都市部の非正規労働者などが挙げられます。
社会のしくみは、全人口のわずか3割の大企業型の安定性を守るために維持されてきました。しかし、東西冷戦の終結など、この三十年ほどの間に様々なことが起こったことから「日本は社会のしくみを維持できなくなってきているのではないか?」というのです。大企業型は、長時間労働・人事査定の強化・非正規雇用の活動といった方法でしくみを保っていますが、地域型・残余型の7割はどんどん非正規雇用へ移動していき、安定性を失っていきました。
社会のしくみが維持できなくなっていくにつれ貧困や格差という問題が出てきます。そうした問題への気づきが遅れた理由として、問題を論じるのが安定した約3割の人々であったこと、日本人が成果主義を嫌った事が挙げられています。現状、社会のゆがみは外国人労働者を使って解消しているものの、行政の人員不足によって人権問題が発生していると小熊氏は警鐘を鳴らしています。
記事の最後には、「社会のしくみを変えることに不安な者もいるかもしれないが、これからは、何を望み、何を望まないか考えていく必要がある」と、小熊氏は述べています。

記事の概要をふまえて、次に、冒頭で述べた(1)(2)についてゼミ生がどんな点に注目したのか、記載していきたいと思います。
(1)に関しては次のような意見が挙げられました。
・一億総中流(自身は中流階級と思う者が大多数)というなじみのない言葉が印象的だった。
・約3割の人々を残りの7割の人々が支えているというのに驚いた。
・日本では階級や階層の格差を意識するのが難しいことが分かった。
・日本は国内市場が大きいため、問題の発見が遅れたという点がおもしろかった。
・社会のしくみが東西冷戦で維持されてきたというのは皮肉で興味深かった。
・日本人がやりたくない仕事を外国人労働者で補ってきたという指摘に驚いた。
・公務員の数が少ないという問題を再認識できた。

私は、日本では階級や格差を意識しづらいという話が特に面白いと思いました。すなわち、企業内部では格差がそれほど開いていないため、格差を意識しにくい。一方、企業間の格差は着実に広がっているというものです。こうした、格差が見えにくい社会が形成された要因として、企業内で格差があると労働者のやる気が削がれるという点が挙げられるでしょう。私はそれと共に、他者と比べて自身が劣っているように感じる・自身が劣っていることを他者に気づかれたくない、という日本の恥の文化も関係しているのではないかと感じました。また、「こうした状況は私たちが選択してきた結果なのだ」という小熊氏の言葉も印象的でした。現状を「こんなはずではなかった」という方もいますが、我々が選択してきたからこうした現状になったという小熊氏の考えは実に興味深かったです。これは次の(2)にも関係してくることですが、何を守って何を捨てるのか、所捨選択を行う必要があると分かりました。

(2)の日本社会で生きるとき大切にしたいものは、物事を選択できる自由・趣味を行える時間の確保・自身や他者が健康に生きていけること・仕事に対してのやりがいの4点が挙げられました。逆に変えてもよいものとしては、現在の労働形態と、他人を気にしすぎる慣習の2点が挙げられました。
 私は、(2)に関するディスカッションを通じて、自身が大切にしていきたいもの・変えてもよいものを見直すことが出来ました。社会で生きていくにはあきらめなければならないことも多くあると思います。しかし、その時に本当に大切にしたいものは何なのかを考え、選択したいと思いました。

次週は1期最後のゼミとなります。もうそんな時期なのかと驚きを隠せませんが、最後まで気を抜かずに頑張っていきたいです。お楽しみに!

2020年7月8日水曜日

2020年度前期 第11回:新書報告

現代法学部4年のMです。今回も先週に引き続き新書報告を行いました。どのような発表があったか一人一人紹介していきます。

相澤先生
石川明人『キリスト教と戦争』(中公新書、2016)
この本は、今までキリスト教は平和を訴えながらも、なぜ、戦争という暴力行為をしてきたのかを多くの事例、参考文献をもとに解説しています。殺しと愛は矛盾しないとする「正戦論」はアウグスティヌスに始まり、現代ローマ教会の正当防衛承認に繋がっていきます。以前の新書報告で「魔女狩り」について学びました。魔女狩りでは不当な判決と残忍な処刑方法によって多くの犠牲者を出しました。本書の事例で紹介されている宗教戦争においても異教徒への迫害があったことから、時には世俗文化として割り切ることも重要だと考察しています。

Tさん
森山至貴『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書、2017)
近年LGBTと呼ばれるセクシャルマイノリティが注目され、クィア・スタディーズという言葉を聞くようになりました。クィア・スタディーズとは、あらゆるセクシャリティを対象としている分野の一つで、本書ではセクシャルマイノリティについての正しい知識や性の在り方の分類について歴史と経緯をふまえて説明しています。LGBTは多数者と少数者の対立と思われがちですが少数者同士でも差別が起きていることがあり、多様性の複雑さが現れています。

Aさん
原田隆之『痴漢外来』(ちくま新書、2019)
痴漢やレイプといった性犯罪について、犯人の性格や生活習慣から原因を紐解き、再犯防止に向けた取り組みを紹介しています。痴漢は「性的依存症」と呼ばれ、認知のゆがみによる性的興奮から抜け出せないため、犯罪の中でも再犯率が高いといわれています。日本では「認知行動療法」といった依存を克服する治療を経て社会復帰を目指します。一方、海外ではGPSによる追跡や保安処分によって通院が強制されるなど、社会からの風当たりもより強い傾向にあります。

Yさん
青木保『異文化理解』(岩波新書、2001)
異文化に対する偏見と先入観が、時には戦争をも引き起こす原因になるため、本書ではその国の文化が形成された歴史への理解も重要だと述べられています。また、著者はインターネットが普及した今の時代は先入観や固定概念による決めつけが生まれやすいと考察しています。確かに、マスメディアの報道次第で、情報の受け手である大衆に対して間違った理解を促すことも考えられます。このことから、正しく異文化理解を行うには常に慎重な姿勢で情報を見極める必要があると感じました。

Sさん
布施英利『「進撃の巨人」と解剖学』(講談社ブルーバックス、2014)
本書は、漫画『進撃の巨人』に解剖学の知見が生かされていることを論じています。本書に出てくる「美術解剖学」は、漫画の世界において筋肉を描写する際の情報として大いに役立っている学問だといえます。はじめは漫画家も解剖するのかと驚きましたが、解剖実習は医学部生しかやってはいけないため、漫画家は実習の様子を見学し、筋肉や骨格をスケッチするそうです。漫画を読む我々は実際の筋繊維を見たことがないため、『進撃の巨人』の描写のリアルさを判断することはできませんが、その筋肉描写のインパクトが私たちの想像力をかき立て、魅力の増幅に繋がっていると言えそうです。

Iさん
長沼毅『死なないやつら』(講談社ブルーバックス、2013)
本書は、高圧環境、酸性環境、宇宙線環境といった劣悪な環境下にいる極限生物を題材とし、進化の観点も踏まえて考察しています。極限生物は進化の過程で環境に適応したわけではなく、突然変異から誕生したといわれています。また、極限生物の特徴の一つに体の小ささがあります。これは、劣悪な環境下を生き抜くための進化だと思われます。極限生物の圧倒的な耐久性と生息域は大変興味がかきたてられます。

Nさん
竹内薫・丸山篤史『99.996%はスルー』(講談社ブルーバックス、2015)
情報化社会の現代ですが、本書のタイトルにあるようにほとんどの情報はスルーされています。その理由の一つは、人の脳が一度に処理できる量が決まっていて、およそ数十ビット/秒に対し、入ってくる情報は1000ビット/秒を超えているためです。また、マスメディアやSNSの発展により、情報量が2000年初期と比較すると35倍になったといわれています。これからは、重要な情報を取りこぼさず、なおかつ、スルースキルも習得することが必要不可欠だと考えられます。

Mさん
園山耕司『新しい航空管制の科学』(講談社ブルーバックス、2015)
現在日本における一週間の航空機の離発着数は国内線だけでも1万便を超えていて、それらを支えているのが航空管制です。航空管制は、飛行機のパイロットと常に連携を取り、離陸してから到着するまで指示を送り続けています。また、航空管制は、航空機がより安全に飛行できるように、衛星のほかに「エリアナビゲーション」とよばれる機械で高度や気圧等の変化を読み取り、航空機の位置情報を正確に把握しながら的確な指示を出しています。さらに、コックピット内の装置も以前はアナログなものでしたが、最近はカーナビ仕様になっているため航空管制の指示がよりスムーズに伝達できるようになったとのことです。

来週は今学期最後の授業です。もうひと踏ん張りです。

2020年7月1日水曜日

2020年度前期 第10回:新書報告

相澤ゼミ生の経営学部4年Sです。今回も先週に引き続き新書報告をしました。どのような発表があったかそれぞれ紹介します。

相澤先生
清水克行『耳鼻削ぎの日本史』(文芸春秋社、2019年)
この本は、耳鼻削ぎという日本の文化について中世歴史家の著者が辿っていくものです。耳鼻削ぎといえば秀吉の朝鮮侵略の話が有名ですが、実は耳鼻削ぎは秀吉の朝鮮侵略以前から行われていたものです。中世人の論理を解き明かしながらその意味を分析していくのが本書のテーマです。例えば耳鼻削ぎが死刑に相当する罰になることから現代人と中世の日本人の思考の違いを解説しています。

Aさん
川村裕子『平安女子の楽しい!生活』(岩波ジュニア新書、2014年)
本書は平安時代の貴族の生活について書かれています。女子だけでなく男子の生活についても解説されているのも面白い点です。平安時代の結婚は手紙のやりとりから始まり、男性が女性の家に通って愛を育んでいきます。当時のモテる男性の条件は手紙をまめに出すことや字が綺麗なことだそうです。考えていることやしていることに現代と似ているものがあるなと私は感じました。

Iさん
松本英恵『人を動かす「色」の科学』(サイエンス・アイ新書、2019年)
Iさんは色彩検定3級を持っていて、この本の内容はその知識に通じるものがあると言っていました。この本は色が人に与える影響について説明している本です。例えば色の持つ主張性が挙げられます。トイレの男性、女性を見分ける図の色は必ず青と赤に振り分けられています。つまり色が人にイメージを与えることがあります。例えば色の持つ印象とその人の振るまいがマッチすると相乗効果を発揮することや逆にマッチしないとイメージが悪くなりやすいそうです。相澤先生の好きな色である赤は負けず嫌いな印象を与えるカラーです。私も好きな色なので相乗効果を発揮できるような漢になりたいと強く思いました。

Tさん
坂爪真吾『性風俗のいびつな現場』(ちくま新書、2016年)
本書は風俗業が抱える問題を実際に働いている人の状況などを交えて説明しています。Tさんは、本書の中で扱われている次の2つの問題を紹介していました。一つは、託児所とベビーシッターがついていて子持ちの人でも働くことが出来る店など、ある意味働く人のワークライフバランスが実現できてしまうこと 。二つ目に、そしてお客さんがつかないと思うようにお金を稼ぐことが出来ずに劣悪な環境に依存してしまう悪循環に陥ってしまう点です。このような風俗の実態を紹介していてリアリティ溢れる本です。

Nさん
玄田有史『希望の作り方』(岩波新書、2010年)
本書は希望とは何なのか、そして希望を持つために必要な要素を紹介していくのが大きなテーマになっています。この本の希望の定義は困難な状況について本人が考え、行動して変えていくことです。中でもその希望を作る4つの要素は気持ち、何か、実現、行動です。そして希望をつくる2つのきっかけは失敗を経験することと仲間をつくることがあります。特に自身と違う価値観を持つ仲間と話すことが大切です。

Mさん
高橋久仁子『「健康食品」ウソ・ホント(ブルーバックス、2016年)
健康食品などの広告によく見られる「これを摂取すれば〇〇出来ます。」この言葉が本当なのか、実際どうなのかを科学的に検証していく本です。実際にトクホや機能性表示食品の設定された飲み物を例に本当に脂質の排出量が増えるのか確かめています。結果はあまり大きな効果にはなかったです。あまり誘い文句を鵜呑みにしてはいけないということを伝えています。

S(今回ブログ担当者)
小泉武夫『いのちをはぐくむ農と食』(岩波ジュニア新書、2008年)
本書は日本の食料自給率が低下しているにもかかわらず農業が後継者不足や異常気象で大変な状況になっていること、そして私たちが何をしたらいいのかというのがテーマになっています。農家の後継者不足や海外に食料を依存すると出てくる問題について説明しています。そのうえで日本の食について考えること、日本の食材を食べ日本というふるさとの味について考えることが日本の食と農家を考えることにつながっていくと主張していました。

Yさん
斉藤忠夫『チーズの科学』(ブルーバックス、2016年)
本書はチーズの栄養機能や作り方によって1000種類も違いができるチーズの魅力について紹介しています。チーズには豊富なカルシウムとその栄養の吸収しやすさが高いことや虫歯の予防になることが発見されています。そしてYさんはこの本を読んで食品を科学的な側面から分析する面白さを感じたそうです。

今回のゼミの最後で相澤先生に「ゼミ生の皆の伝える力が新書報告を通じて向上しています」と嬉しいお言葉をいただきました。これからもしっかりとゼミを楽しんでいきたいと思います。