2025年6月18日水曜日

2025年度 前期第10回

皆さんこんにちは。経済学部3年のKです。本格的に夏を感じる気温となってきましたね。私のおすすめの暑さ対策は、ズバリ「日傘」です。直射日光は日焼けの原因になるだけでなく、熱中症のリスクも高まりますし、将来のシミやシワの原因にもなります。今のうちから日焼け止めと合わせて、日傘も積極的に活用していきましょう。

さて、今回は毎年恒例の「歌詞解釈」をゼミ生で行いました。今回取り上げたのは、星野源さんの『地獄でなぜ悪い』(2015年)です。今回も事前準備として、ゼミ生が各々歌詞の解釈をワークシートに書き込みました。それを元に、まずはグループごとに、以下の観点から意見を出し合いました。

- 主人公はどのような人物像か

- 季節や時間帯は

- どんな状態にあるのか

- 「地獄」とは何の比喩か

- どんなストーリが込められているか

- この曲が伝えたいことは何か

ディスカッションの中で、「そんな解釈の仕方があったのか」「すごく腑に落ちた」「全然理解できない」といったさまざまな声が飛び交い、お互いの考えに驚かされる場面も多く見られました。

続いて、各グループで意見をまとめて発表を行いました。主人公が男性であることや、描かれている季節や時間帯については意見が一致しましたが、「地獄」とは何の比喩か、という点では大きく意見が分かれました。

- Aグループでは、「地獄」は思うようにいかない社会や現実の辛さの比喩だと解釈。

- Bグループでは、主人公が病気を患っており、その痛みや苦しみが地獄として描かれていると考察。

- Cグループでは、最初から天国など存在せず、この世こそが地獄であるという前提で解釈。

このように、同じ「地獄」という言葉でも、まったく異なる解釈がされていたことに驚かされました。自分では思いつかなかった視点に触れることができ、納得したり、疑問に思ったり、それについて討論することがとても面白かったです。 

初めに歌詞だけを読んだとき、私は、とても重く、ネガティブな印象を受けました。しかし実際に曲を聴いてみると、軽快でポップなメロディーに驚かされました。歌詞と曲調のギャップにより、まったく違う印象を受けました。

また、私は小説と音楽の大きな違いを実感しました。小説は文字情報だけを頼りに、登場人物の状態や心情を想像しますが、音楽にはメロディーやリズムといった要素が加わります。そのため、同じ言葉であっても、読んだときと聴いたときとで印象や受け取り方がまったく異なることがあるのだ気がつきました。最初は主人公の絶望や諦めを歌っているのかと思いましたが、実際には「現実を受け入れながらも前に進んでいくしかない」という前向きなメッセージが込められているようにも感じました。

さらに、自分の解釈と他人の解釈がまったく違っていたことから、音楽が人に与える影響や歌詞の意味は、聴く人それぞれの経験や価値観によって大きく変わるのだということを、改めて実感しました。歌詞が、ある人には「救い」としてとらえられ、別の人には「現実の辛さ」としてとらえられることで、音楽とは、それだけ多様な感情を表現し、無限の解釈ができる表現手段なのだと、今回の歌詞解釈を通して感じました。

今回もまた、白熱した議論がみられてよかったです。次回はA班の新書報告になります。皆さん体調に気を付けてお過ごしください!

2025年6月11日水曜日

2025年度 前期第9回 


こんにちは。現代法学部4年のTです。梅雨入りを控え、気圧の変化や湿度の上昇が感じられる季節となりました。今後は本格的な梅雨シーズンに入ると予想されます。低気圧による頭痛や体調不良にお悩みの方もいらっしゃるかと思います。十分な休息と水分補給を心がけ、体調に気をつけてお過ごしください。さて、今回はC班による新書報告です。


Mさん:清水徹男『不眠とうつ病』岩波新書、2015年

本書は、不眠とうつ病の関係を解明し、その治療方法を提示する一冊です。著者は、不眠とうつ病には相関関係があり、どちらからも発症し得ると主張しています。現代人は社会生活での不満や悩みを寝る前に思い出すことで、不眠に陥るパターンが多いそうです。

また、睡眠不足はネガティブな記憶を強化する性質があることがわかっています。ある実験では、睡眠不足の人と十分な睡眠をとった人に同じ記憶課題を行わせたところ、睡眠不足の人の方がネガティブな記憶をより強く記憶していたことがわかっています。つまり、ネガティブな記憶が睡眠を妨げ、睡眠不足がさらにネガティブな記憶を定着させるという悪循環が生じやすいのです。

不眠の治療法としては、認知行動療法により約7割の人が改善できるとされています。不眠症の人は、「寝床=ネガティブな記憶を思い出す場所」という意識が形成されている場合が多いです。そのため、寝る場所を変えることでその意識を切り離すことができると考えられています。また、不眠症の人は早く寝ようとする傾向にあります。そうした人には、眠くなるまでは寝床につかない・無理に寝ようとしないといった行動療法が有効だそうです。

私がこの話を聞いて思い出したのは、「寝床は固定しましょう」という一般的な睡眠指導です。しかし、不眠に陥った場合はむしろ逆のアプローチが有効であり、寝床を変えるべきだと知りました。こうした例外的なケースを知ることができた点においても、有意義な報告でした。


私Tの報告:石川良子『「ひきこもり」から考える 〈聴く〉から始める支援論』ちくま新書、2021年

本書は、ひきこもりの当事者に20年間インタビューし続けた著者が、「聴く」という視点から支援とは何か、支援がうまくいくとはどういうことかを考察する一冊です。

ひきこもり支援の最も大きな問題点は、支援内容が「当事者不在」で決められている点です。ひきこもり支援の多くは、支援者や教育関係者、当事者の親の論理で決められています。そのため、当事者の苦しみや思いが置き去りにされているそうです。また、当事者は支援者に社会不適合者として扱われる場合が多く、支援する側・される側で上下関係が生まれてしまうこともあるそうです。

著者は、こうした問題点を改善するために必要なのが「聴く」ことだと主張しています。なぜなら支援とは、支援する側・される側の協力によってできるものだからです。そのため、支援する側が、される側にとって信頼できる存在でなければなりません。そして、信頼されるために必要なのが「聴く」ことだと述べています。

著者は、支援する側が押さえておくべき「聴く」ためのポイントを5つ挙げています。第一に、当事者主体の支援姿勢として、最終的な決断は当事者に委ねることです。第二に、当事者への敬意と理解を示し、一人の人間として尊重することです。第三に、自己の価値観を押し付けていないか、自分はどのような価値観を持っているかを点検することです。第四に、相手の言葉をまず受け止め、理解しようとすること、わからなくても受け入れることです。第五に、対等な関係性を構築し、率直なコミュニケーションを心がけることです。

しかし、聴くことの限界を認識する必要もあります。相手が全く聴く耳を持たない場合や話そうともしない場合にはどうしようもありません。著者は、そうした限界を認識しつつも、まずは聴くことが重要だと改めて主張しています。

私が本書を読んで最も重要だと感じたのは、引きこもり支援において、対等な関係性の中で当事者の主体的な言葉をそのまま受け止め、解決策を提示しなければならない点です。支援者が先回りして解決策を提示することは支援ではないと著者は述べています。当事者が自ら選択できる環境、主体性を持つことができる環境を作り、彼らの選択を忍耐強く待つことこそが大切だと感じました。

質疑応答の時間では、「人との関係は相手を尊重することから始まるのではないか」という話題が挙がりました。引きこもり支援においては、当事者の話を聴く→信頼関係を構築する→当事者の意思を反映した解決策を提示する、というステップが重要だと分かりました。このステップは医療や育児においても必要であり、当事者の意思を聴かずに先回りして選択肢を提示してしまうと、関係が破綻するのではないかという指摘でした。私は引きこもり支援にのみ目が向いていたため、人間関係全般において「聴く」ことが重要だという考えには至りませんでした。こうした意見交換は、一人で本を読み咀嚼するだけでは気づかない視点を得ることができると再認識しました。今後の読書活動においても、自分一人で考え耽るだけでなく、「人の意見を聴く」という過程を大事にしたいと思います。


今回は体調不良による欠席者が多く、2名の口頭報告となりました。しかし人数が少ない分、一つの話題を深掘りすることができました。本ゼミでは、「聞いた人が一つ賢くなれる報告」を目標にしていますが、今回の報告では2つ、3つと賢くなれた気がします。次回は星野源さんの『地獄でなぜ悪い』の歌詞考察を行います。


2025年6月4日水曜日

2025年度 前期第8回

 こんにちは。経済学部3年のHです。今回初めてブログを担当させていただきました。がんばります。今回はB班の新書報告です。


Cさん 釘原直街『集団はなぜ残酷にまた慈悲深くなるのか』中公新書、2025年

本書は、服従する実験や同調する実験、また緊急事態における集団の心理について解説しています。その中でもCさんは同調について紹介してくれました。

集団において同調が発生する要因として3つの要素が挙げられるそうです。1つ目は無意識に同調をする暗黒的影響、2つ目はうわさやデマを容易に信じてしまう情報的影響、3つ目は自分が集団に属していることから、個人での行動を制限しがちになる規範的影響です。また、人々は良くないと理解していることでも、集団においては場を乱したくなかったり、それぞれの立場を考えたりして同調しがちであるともCさんは述べていました。

私はこの報告を聞いて、集団で行動することの難しさと同調をすることにネガティブにならなくても良いことを新しく学ぶことができました。


Hさん 福間詳『ストレスのはなし メカニズムと対処法』中公新書、2017年

本書では、具体的なストレスの発症例やその対策について解説しています。まず、ストレスとは私たちが日常生活において受けているあらゆる刺激に対する脳の反応です。現在は自分にとって嫌な出来事や悩み、経済的困窮、人間関係といった精神的・心理的な負荷として用いられることが多く、ストレスは常に自分の周りにあると言われているそうです。

ストレス発症の具体例には、パワハラ、育児ストレス、パチンコなどの借財について挙げてくれていました。特に、パチンコについてはストレス→ギャンブル→借金→ストレスの悪循環に陥ってしまい、根本的な解決策が無く付き合っていかないといけないと言われているそうです。

ストレス対策として、ストレスに対する備えとストレスを受けた時の対処が提示されています。備えに関しては十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事、日常的な運動や趣味の時間などが挙げられています。対処としては日記を書く、信頼できる人に話すといった感情の整理、専門的な支援を求めると良いそうです。

私はこの報告を聞き、避けられないストレスを上手く発散していくことの大切さやストレスの対策を新しく学ぶことができました。


Iさん 串崎真志『繊細すぎてしんどいあなたへ』岩崎ジュニア新書、2020年

Iさんは繊細さのパターンがいくつかあることを述べ、繊細に対する対処法も説明してくれました。繊細には6つのパターンがあることが証明されているそうです。緊迫した場面が苦手というパターン、他人の顔色を窺ってしまうパターン(これは日本人にありがちな繊細さだそうです。)。匂いや音に敏感なパターン。このように繊細さにはさまざまな種類があり、繊細を過度に感じているHSPの日本人の割合は5人に1人だそうです。

繊細に対する対処法は、 繊細さを感じたら心の中でじっと6秒数える6秒ルール。10人の人の前で話していたとすると2人は賛成、2人は反対、6人はどちらでもない人であり、どんな状況にあっても誰かしらはあなたに共感、味方してくれると意識すると少しは気持ちが楽になるという考えの2・6・2の法則この2つを挙げてくれました。

自分はあまり繊細な方ではないと思いますが、繊細だということをマイナスに捉えるのではなく多感的だとプラスに捉えること、そして繊細への対処を学ぶことができて良かったと思います。


Tさん 上田信 『死体は誰のものか:比較文化史の視点から」ちくま新書、2019年(書き込みでの報告を参照)

本書は現代日本の死体忌避文化が普遍的であるかという問いを起点に、世界各国の死体観の差異を考察しています。

Tさんが1番驚いたことは中国における死体の政治的利用だそうです。中国には「図頼(とらい)」という、死体を使って権力者に抗議する伝統的な手段が存在していたのですが、現代でも2008年に発生した暴動において、遺族が埋葬を遅らせた死体が政府への抗議の象徴として機能した事例があります。現代中国人はこの古い習慣を知らないはずですが、死体を抗議の手段として用いる行為が現代においても自然に発生しているということだそうです。

自分はこの事を知って、そもそも死体を使って何かをするということが考えられなかったです。このような死体の使い方をする中国にすこし不信感を抱いてしまいました。


ゼミの活動は今回で第8回ということで、今年から入った自分もそろそろ慣れてきつつあります。今回の新書報告でもさまざまな意見や質問、議論が活発に行われました。また、新書口頭報告の前の本についての雑談もフランクに楽しく本の紹介ができました。次回はC班の新書報告です。


2025年5月28日水曜日

2025年度 前期第7回

 こんにちは。経営学部2年のSです。今回初めてブログを書きました。今回は自分も発表し、ブログも書いた回となりました。A班の新書報告です。


Eさん 竹下大学『日本の果物はすごい』中公新書、2024年

Eさんが紹介してくれたのは、私たちが普段当たり前のように食べている果物の“歴史”を掘り下げた一冊です。実は、私たちが身近に感じている果物の多くは、明治維新以降に日本へ伝わってきたもので、当時はとても貴重な存在でした。今で言えば「宝石」のような希少品だったというのは、驚きでした。

さらに、人間の舌は30度±5度の範囲で最も甘みを感じやすく、温度が低くなるほど甘みを感じにくくなるそうです。桃などは冷やさない方が甘さを感じやすく、逆にリンゴや梨、さくらんぼ、スイカといった、果実に含まれる単糖類の一種の果糖をあまり含まない果物は冷やした方が美味しく感じられるとのこと。

こうした知見をふまえることで、果物をより深く楽しんでもらいたいというのが著者の狙いです。Eさん自身も、「果物を見る目が変わった」と語り、非常に新鮮な読書体験だったようです。

報告を聞いて、私がこれから食べる果物はより甘く、歴史に思いを馳せて食べられそうです。


Kさん 野村浩子『女性リーダーが生まれるとき』光文社新書、2020年

Kさんが紹介した本は、日本の女性社長や幹部たちの成功体験を通して、女性がリーダーになることの難しさとその背景を明らかにした一冊です。本書の中では、なぜ女性がリーダーに向かないとされがちなのか、その理由として「リーダーらしさ=男性らしさ」という固定観念が指摘されています。

たとえば、リーダーに求められる「責任感」「行動力」「説得力」などの資質が、無意識のうちに男性的な特徴と結びつけられているそうです。そのため、女性が同じように振る舞っても“違和感”として捉えられることがあるといいます。著者は、今こそリーダー像の多様化が求められていると主張しています。

Kさんはこの本を読んで、「女性はリーダーになる能力が劣っているのではなく、社会の構造や思い込みがそれを妨げているだけだ」と気づき、大きく勇気づけられたと話していました。

報告を聞いて、女性のリーダーが少ない理由には目から鱗でした。男女で公平な社会が目指されている一方で、まだまだ整備が追いついていないことを実感しました。

どちらの本も、私たちが当然と思っている日常の中に潜む「前提」や「バイアス」を見つめ直すきっかけを与えてくれるものでした。読み終えたとき、自分の視界が少しだけ広がったように感じられる、そんな2冊でした。


私Sも報告しました。本の内容紹介は省略して、報告してみての感想を記したいと思います。今回報告してみて、やはり新書報告は難しいと感じました。限られた時間で本の内容や構成を伝えつつ、有用な情報と自分の感想を伝えなくてはいけません。そのためには、本をよく読むことももちろん、報告を見据えて準備する必要があります。新書報告は難しいですが、難しいからこそ普段の読書と一味も二味も違う味わい深い読書だと思いました。

2025年5月14日水曜日

2025年度 前期第6回

こんにちは、現代法学部3年のIです。今回、初めてゼミブログを担当させていただきます。人生で一度もブログを書いたことがなかったので、とても良い機会に巡り合えたと思っています。今回はC班の新書報告です。


Tさん 『発達障害児を育てるということ』光文社新書、2023年

本書は、自閉症を持つ子とその親の約15年間ほどの経験が語られています。自閉症とは、一般人より物事へのこだわりが高いこと、コミュニケーション能力が低いという特徴があります。こだわりについては、例えば、自分の遊びに関して気に入らないことがあれば必ず始めからやり直したり、朝はチョコを食べるなどという「偏食」があるそうです。

Tさんが特に言及していたのは、本書で登場する自閉症の子供は軽度の自閉症という点です。軽度の場合、周りに自閉症があることが気づかれにくいことがあるそうです。また、全く言葉が話せないような重度の場合よりも、受けられるサービスが少ないということでした。

報告を聞いて私は、これからは重度の自閉症だけでなく、軽度の自閉症も社会的に目が向けられていくといいなと思いました。


Iさん 小林武彦『生物はなぜ死ぬのか』講談社現代新書、2001年

本書は、地球史をロングスパンで振り返ることによって、有性生殖である生物の「死」のメカニズムを辿ろうとします。

簡単にまとめると、生物は環境に適応してきた個体が生き残ります。その他の(古い世代の)個体はいらないものとして考えられ、生物は多様性を生み出すために存在するということです。

多様性に関してIさんは「ポケモン」を使ってわかりやすく説明してくれました。通常ポケモンは成長すると進化するものです。しかし、地球上の生物には進化が起こりません。その個体はその個体のまま環境に適応していくことで地球上に存在し続けることができます。それぞれの生物がその個体なりに地球の環境に適応し、存在することこそ多様性であるそうです。

私が特に気になった点は、Iさんが無性生殖の生物が存在している理由に言及していた点です。有性生殖の生物は環境に適応して存在していることに対して、無性生殖はたまたまその環境に適合しているだけで実際には環境の変化に弱いということです。

とても難しい内容でしたが、本書は「死ぬ」ということより「存在すること」「繁栄すること」を重視していると感じました。


Sさん 齋藤孝『頭がよくなる要約力』ちくま新書、2022年

本書は、要約することの大切さや、著者なりの要約力の技術、トレーニングについて論じています

まず、著者の持論として要約力は生きていくことに直結していて、要約力は仕事にも関わっています。さらに要約が苦手なら不幸になるとも論じられています。

上手く要約するためには最初の説明を長くしすぎない、結論から書く、比較をすることなどが重要だと述べられています。

私が特に気になった点は、著者は読んだ本を30秒で簡潔に伝えるという「30秒トレーニング」を要約力向上の実践としてあげていたことです。相澤ゼミでは1人につき約5分間の新書報告時間が設けられますが、30秒で一冊を紹介することというのは、さらに要約力が必要になるなと感じて機会があれば実践してみたいと感じました。


Mさん 小川洋子『物語の役割』ちくまプリマー新書、2007年

本書では、小説家の小川洋子が、自らの小説がどのような過程を経て成立していくのか論じています。

小川によれば、物語を創り上げていく上で、意識しなくてはいけないことは物語には最初からテーマが存在しないということです。小川自身は、物語には「キーワード」が多数存在し、その「キーワード」をつなぎ合わせていきながら、自分で想像して創り上げられていくそうです。小川のイメージとして、まず「キーワード」が映像で浮かぶと論じられていて、「言葉」は遅れてやってくるそうです。

本当に悲しいことや辛いことがあった時に人間は嗚咽を漏らしたり無言になるため、そのことを言葉には表せません。そのような悲しみや辛さを1枚でなく何十枚もかけて「言葉」で表すことができるのが物語であると聞いて、私は物語の役割が少し理解できたような気がしました。

今回も多種多様な新書報告を聞くことができました。特に「要約力」や「本のキーワード」など今後の相澤ゼミの活動に生かせそうな話もあり、とても有意義な新書報告となりました。次回はA班の新書報告です。

2025年5月7日水曜日

2025年度 前期第5回

こんにちは。経済学部4年のEです。桜は立派に咲き誇る割には散るのがとても早いです。「季節の移ろいを感じますね」とか書きたかったのですが、それよりも書きたかったことはまた今回もわたしが代打でブログに登場したことです。代打の神様の称号くらい欲しいものです。

今回は、B班による新書報告です。 


Iさん 三瓶恵子『女も男も生きやすい国、スウェーデン』岩崎ジュニア新書、2017年

男女平等政策がここ30年で大きく進み、今も日々更新中のスウェーデン。本書では、保育園や学校、企業を例にどのように取り組んでいるのかを具体的に紹介しています。

なぜスウェーデンが男女平等だと言えるか、理由は大きく分けて2つあります。一つ目は労働市場への女性の参加が進んでいることです。スウェーデンでは、かつて女性の就業率が低かったものの、大規模な経済発展を背景に女性の正規雇用が増え、低賃金の問題も改善されました。これにより、女性が働きやすい環境が整えられてきたことが分かります。二つ目は、女性の政治参加が進んでいることです。スウェーデンでは議会における女性議員の割合が高く、政党の選挙リストを男女交互に並べるように工夫されています。これが女性の政治進出を後押ししています。また、スウェーデンでは結婚や離婚がしやすく、子どもがいても結婚しないカップルが見られます。男性も女性も、結婚に関係なく個人として経済的に自立することが社会的に奨励されています。これもまた男女平等の実現に貢献しているといえます。

Iさんは、この本を読んで「日本もスウェーデンから学べることがある」と感じたそうです。Iさんがおっしゃるように、スウェーデンから学んだことを実現できる時が来れば、いつか日本もジェンダー後進国と呼ばれる現状を打開できるかもしれません。


Hさん 中谷内一也『リスク心理学』ちくまプリマー新書、2021年

本書にはリスクと心理学の関係性が書かれています。リスクとは「これから先起こるだろう望ましくないこと」、簡単に言えば「起こってほしくないこと」です。リスクは二つの要素で構成されています。それは、「不確実性」と「深刻度」です。前者は望ましくないことが起きる確率や可能性、後者はそれ自体の望ましくなさを意味します。リスクの大きさを求める事をリスク評価といいます。リスク評価が正しかったとしても、特定個人の未来を断定することはできません。正解がないのです。本書では他に、感情と合理性の衝突やリスク評価の基準、最新の研究成果を紹介しています。

わたしはよく、新しいことを始めるときに悩みます。アルバイトや部活といった、既に成立した共同体の中に入ることが怖いからです。わたしにとって起こってほしくないことは、共同体の中で仲間外れになることです。この現象の深刻度を数値化すれば、わたしにとってかなり高い数字を弾き出すでしょう。しかし、よく考えてみると人間は結局1人なのです。集合や共同体もあくまで1人の人間のかたまり。分かり合っているようで全然分かり合えていなかったり、1人じゃないように振る舞っているだけだったり。そう考えると、意外とたいしたことはないです。(以前聴いたラジオの受け売りですが。)もしかしたら自分で勝手に悩みや心配事を深刻にしているだけかもしれません。皆さんにとっての「望ましくないこと」はなんですか?


Cさん 小塩真司『性格とは何かーよりよく良く生きるための心理学』中公新書、2020年

本書の目的は、性格とは何なのかを知ることです。性格には類型論、特性論があります。類型論は、星座占いやMBTIなどいくつかの大きなカテゴリーに分けて特徴を把握しようとする手法です。それに対して特性論は、詳細な特徴を捉えていきます。

性格の特性を把握する特性論の代表的なものに、5種類の項目で構成されたビッグ・ファイブ分析があります。

①    「外向性」…外部との関連性を持つ程度を指す

②    「神経症傾向」…不安や怒り、抑うつや悲嘆などの否定的感情の感じやすさを示す

③    「開放性関心」…関心の広さや新しい経験への反応を示す

④    「協調性」…社会的な調和や共感力を示す

⑤    「勤勉性」…計画的に物事を進める度合いや誠実さを示す

参考 

https://www.bing.com/search?q=ビッグ・ファイブ分析&qs=n&form=QBRE&sp=-1&ghc=1&lq=0&pq=ビッグ・ファイブ分析&sc=9-10&sk=&cvid=B183453A2CCB41989E9E5555D1E01DE2

『嘘』を見抜いて自己分析! | ビッグファイブ性格診断【BIG5-BASIC】

本書ではこれらの分析を基に性格とは何なのかが述べられます。Cさんは、一人一人の性格を知る為にこの本は有益だとおっしゃっていました。

自分の性格を詳細に知っておくのは大事ですよね。わたしなんかは、「ああ、今こういう気持ちの沈み方しているからあれやって切り替えよう。」とか、「こういう人と関わるのは自分に向いていないから、距離感を保とう。」みたいに考え、性格を基に適切な判断を下せるよう心がけています。(年齢を重ねたから出来るようになったからというのもありますが。)

ちなみに、勤勉性とかは努力次第で変えられるみたいですよ。わたしが5種類の中で向上させたい項目は、外向性です。皆さんには向上させたい、もしくは低下させたい項目がありますか?


Sさん 佐藤眞一『ご老人は謎だらけ 老年行動学が解き明かす』光文社新書、2011年

本書では、老人の謎めいた行動を挙げて一つずつ解説しています。謎めいた行動の例として、「記憶は忘れるのに約束は覚えている。」が挙げられます。著者は本書で常に「老人は自尊心とプライドが物凄く高い」と伝えています。

Sさんが注目したのは、「老人はなぜキレやすいのか」です。人間には「主観年齢」があります。実年齢が30歳だとしても、心は常に18歳、ぴちぴちの高校生です!みたいなことです。老人は、主観年齢と実年齢の乖離を起こすのです。約30歳も若く見つもってしまうといいます。実年齢が70歳なら主観年齢は40歳だと思うのです。この点には、良い面と悪い面が存在します。主観年齢が若ければポジティブな気持ちで生活が出来ます。これは良い面だと言えます。反対に悪い面では、例として、車の運転が挙げられます。心が若々しくても実際は老いている。危機察知能力や反射神経も、老いた体では能力が衰えています。自分では普通に出来ているつもりなのに、事故を起こしてしまう。

これが老人の怒りっぽさにどう繋がるか。我々はご老人に対して適切な行動をします。電車なら席を譲ったり、介護施設であれば排泄の援助や口調を赤ちゃん言葉にしたり。老人からすれば、「自分は若いのに何でそういう対応をするのだ」と思うのです。老人の主観と、ご老人を外側から見る我々の間で生じるギャップが怒りを生むのです。

Sさんは、自身がどのような老人になるか気になったみたいです。

わたしは実年齢50歳で免許を返納するくらいには精神を老化させたいです。多少薄毛にでもなれば勝手に精神が老いていくのでしょうか。でも、見た目は若々しくあってほしいです。こう考えると、若作りする事が精神の健全な老化を阻害する要因とも考えられるかもしれません。年を取ると出来なくなることが多くなりますよね。それを受け入れるのってプライドが許さないのかもしれません。人間は、生まれた時に親や保護者の援助を必要とします。1人で生きる為には周りの支えを要します。元々、1人だけではなにも出来ないことを思い出してみるのも良いかもしれません。

 今回は、自分の感想の最後に質問を投げかける形式にしました。そういえば、このブログをゼミ生以外の人は読んでいるのでしょうか。OGやOBの方々が見ていたら、あらゆる手段を駆使して答えてきてほしいくらいです。 

次回は、C班による新書報告です。あっという間の1周です。ご自愛ください。

2025年4月30日水曜日

2025年度 前期第4回

こんにちは。経営学部3年のSです。徐々に気温が上がり、洋服選びが難しく感じます。今回は今年度初めての新書報告をしました。

Kさん 園部逸夫『皇室法入門』ちくま新書、2020年

本書は、日本の皇室について、法律の観点から論じている本です。皇位継承問題にも触れています。

Kさんは特に天皇の女性相続問題を言及していました。現在の皇室制度では、父方に天皇の血が流れている男系男子しか天皇になれません。この制度は2700年間続いており、長い歴史があります。現在、天皇陛下の長女である愛子内親王は、男系でありながらも、女性であるため皇位継承ができません。ですが、天皇陛下に男性が生まれなかったため、現在では皇位継承問題になっています。

自分は皇室制度について何も知らず、今回の発表を聞いて皇室制度について知りました。愛子内親王が素直に天皇になるのが良いと感じましたが、それを可能にさせない皇室制度を学び、2700年という歴史の重みを感じました。

Sさん 西岡壱誠『東大生と学ぶ語彙力』ちくまプリマー新書、2023年

本書は、語彙を暗記することではなく、語彙を理解する力について論じています。

語彙力を高めるためには、語彙をなんとなくではなく、理解することが重要です。例えば、信用と信頼という言葉の違いを考えてみます。信用とは、過去の実績などから相手を信じること。そして、信頼とは相手の成長や未来を信じること。このような違いがあります。また、これは日本語だけではなく、英語における接頭語にも同じことが言えます。このような違いをはっきりと理解することが、文章を書く時や議論をするときに、言葉の精度が上がることにつながります。

たしかに、普段使っている言葉の中には、意味もわからず使ってしまっている言葉が多々あると感じました。この本で学べることは、相澤ゼミ生にとって不可欠なものだと感じました。

Eさん 乾敏郎 門脇加江子『脳の本質』中公新書、2024年

本書は、脳の働きや構造、脳の病気について解説した本です。

本書は、脳の記憶について、長期記憶と短期記憶について触れています。長期記憶とは、時間が経っても覚え続けられる記憶のことで、人の名前や印象に残る出来事などの記憶がこれにあたります。一方、短期記憶とは、電話番号を少しの間覚えておくなどの、一時的な記憶のことをいいます。これは、情報の時系列を整理する脳の海馬から、大脳新皮質に保存され、情報を出していることに関係しています。Eさんは、脳の病気を発症した患者さんの例を紹介していました。

脳は、自分が思っているよりも繊細な器官なのかなと感じました。記憶の時系列などのさまざまな情報を整理する、脳の記憶という機能がいかに複雑なのかがわかりました。

今回は今学期初めての新書報告でしたが、質問が飛び交い、良い新書報告となりました。質問者が本に対して疑問に思ったことや、本に関連する知識を踏まえた質問がありました。どの発表も新たな発見がありました。次の発表も楽しみです。次回はB班の新書報告です。