こんにちは。現代法学部4年のTです。梅雨入りを控え、気圧の変化や湿度の上昇が感じられる季節となりました。今後は本格的な梅雨シーズンに入ると予想されます。低気圧による頭痛や体調不良にお悩みの方もいらっしゃるかと思います。十分な休息と水分補給を心がけ、体調に気をつけてお過ごしください。さて、今回はC班による新書報告です。
Mさん:清水徹男『不眠とうつ病』岩波新書、2015年
本書は、不眠とうつ病の関係を解明し、その治療方法を提示する一冊です。著者は、不眠とうつ病には相関関係があり、どちらからも発症し得ると主張しています。現代人は社会生活での不満や悩みを寝る前に思い出すことで、不眠に陥るパターンが多いそうです。
また、睡眠不足はネガティブな記憶を強化する性質があることがわかっています。ある実験では、睡眠不足の人と十分な睡眠をとった人に同じ記憶課題を行わせたところ、睡眠不足の人の方がネガティブな記憶をより強く記憶していたことがわかっています。つまり、ネガティブな記憶が睡眠を妨げ、睡眠不足がさらにネガティブな記憶を定着させるという悪循環が生じやすいのです。
不眠の治療法としては、認知行動療法により約7割の人が改善できるとされています。不眠症の人は、「寝床=ネガティブな記憶を思い出す場所」という意識が形成されている場合が多いです。そのため、寝る場所を変えることでその意識を切り離すことができると考えられています。また、不眠症の人は早く寝ようとする傾向にあります。そうした人には、眠くなるまでは寝床につかない・無理に寝ようとしないといった行動療法が有効だそうです。
私がこの話を聞いて思い出したのは、「寝床は固定しましょう」という一般的な睡眠指導です。しかし、不眠に陥った場合はむしろ逆のアプローチが有効であり、寝床を変えるべきだと知りました。こうした例外的なケースを知ることができた点においても、有意義な報告でした。
私Tの報告:石川良子『「ひきこもり」から考える 〈聴く〉から始める支援論』ちくま新書、2021年
本書は、ひきこもりの当事者に20年間インタビューし続けた著者が、「聴く」という視点から支援とは何か、支援がうまくいくとはどういうことかを考察する一冊です。
ひきこもり支援の最も大きな問題点は、支援内容が「当事者不在」で決められている点です。ひきこもり支援の多くは、支援者や教育関係者、当事者の親の論理で決められています。そのため、当事者の苦しみや思いが置き去りにされているそうです。また、当事者は支援者に社会不適合者として扱われる場合が多く、支援する側・される側で上下関係が生まれてしまうこともあるそうです。
著者は、こうした問題点を改善するために必要なのが「聴く」ことだと主張しています。なぜなら支援とは、支援する側・される側の協力によってできるものだからです。そのため、支援する側が、される側にとって信頼できる存在でなければなりません。そして、信頼されるために必要なのが「聴く」ことだと述べています。
著者は、支援する側が押さえておくべき「聴く」ためのポイントを5つ挙げています。第一に、当事者主体の支援姿勢として、最終的な決断は当事者に委ねることです。第二に、当事者への敬意と理解を示し、一人の人間として尊重することです。第三に、自己の価値観を押し付けていないか、自分はどのような価値観を持っているかを点検することです。第四に、相手の言葉をまず受け止め、理解しようとすること、わからなくても受け入れることです。第五に、対等な関係性を構築し、率直なコミュニケーションを心がけることです。
しかし、聴くことの限界を認識する必要もあります。相手が全く聴く耳を持たない場合や話そうともしない場合にはどうしようもありません。著者は、そうした限界を認識しつつも、まずは聴くことが重要だと改めて主張しています。
私が本書を読んで最も重要だと感じたのは、引きこもり支援において、対等な関係性の中で当事者の主体的な言葉をそのまま受け止め、解決策を提示しなければならない点です。支援者が先回りして解決策を提示することは支援ではないと著者は述べています。当事者が自ら選択できる環境、主体性を持つことができる環境を作り、彼らの選択を忍耐強く待つことこそが大切だと感じました。
質疑応答の時間では、「人との関係は相手を尊重することから始まるのではないか」という話題が挙がりました。引きこもり支援においては、当事者の話を聴く→信頼関係を構築する→当事者の意思を反映した解決策を提示する、というステップが重要だと分かりました。このステップは医療や育児においても必要であり、当事者の意思を聴かずに先回りして選択肢を提示してしまうと、関係が破綻するのではないかという指摘でした。私は引きこもり支援にのみ目が向いていたため、人間関係全般において「聴く」ことが重要だという考えには至りませんでした。こうした意見交換は、一人で本を読み咀嚼するだけでは気づかない視点を得ることができると再認識しました。今後の読書活動においても、自分一人で考え耽るだけでなく、「人の意見を聴く」という過程を大事にしたいと思います。
今回は体調不良による欠席者が多く、2名の口頭報告となりました。しかし人数が少ない分、一つの話題を深掘りすることができました。本ゼミでは、「聞いた人が一つ賢くなれる報告」を目標にしていますが、今回の報告では2つ、3つと賢くなれた気がします。次回は星野源さんの『地獄でなぜ悪い』の歌詞考察を行います。