2021年5月26日水曜日

2021年度前期第6回:新書報告3

こんにちは、現代法学部2年新ゼミ生のSです。緊急事態宣言の延長が決定しオンライン授業も約1ヶ月延長が決まりました。慣れない時間がまだ続きそうですね。今回のゼミは、第3回新書報告でした。今回はAグループの発表となり、ゼミ生の皆さんはすでにオンラインでの授業に適応しているという印象でした。

Oさん:金菱清『震災学入門-死生観からの社会構成』(ちくま新書、2016年)

この本は10年目に起きた東日本大震災の被害者視点に立ち、災害後についてつづられています。災害時には国が様々な政策を試み、導入しました。これは政府が被災者たちを「助けたい」という行動に見え、客観的には正しい行動に見えます。しかし、そのような政策は外部からの押し付けのように感じるという被害者の視点が紹介されています。

Oさんは、中でも、心のケアについて論じた部分を面白いと感じたそうです。ここでの心のケアとは、記憶・痛み温存法というものだそうです。これは自分の幸せな記憶やその他の記憶を紙媒体などに書き起こし、脳とは別の記憶媒体に保存します。これにより記憶との対話を行い、気持ちを落ち着かせるという方法だそうです。このケアを知り、Oさんは何事も人とって書き起こすという作業は重要な意味を持っていると感じたそうです。

Iさん:長谷川宏『幸福とは何か』(中公新書、2018年)

この本は時代を古代ギリシャ・ローマ、西洋近代、20世紀に分け、各時代を代表する哲学者の幸福論をまとめたものです。

古代ギリシャからアリストテレスが代表として挙げられています。アリストテレスは、幸福を最高善と捉え、人生の最高的理想と考えていたそうです。アリストテレスの幸福論は現代にも大きな影響を与えていますが、私はエリート主義の幸福論という印象が強いと思いました。

西洋近代からはアダム・スミスの思想が紹介されています。アダム・スミスは、様々な人と行動を共にし、平穏無事な生活が幸福と考えているそうです。平穏無事とは、最低限のお金、生活、友人があればいいとう考えです。これは、紹介された幸福論の中で、私が一番賛同できる幸福論だなと感じました。

20世紀を代表する哲学者としてアランが挙げられていました。アランは、経済の成長は人の幸せに直結しないと唱えていたそうです。幸福は人からもらえず、自分で作るしかないと主張していたそうです。

この本では他にも多くの哲学者の幸福論があげられているそうです。Iさんは各哲学者の幸福論には当時の様々な時代背景も影響されていて、そこも踏まえながら読むとおもしろく読めると言っていました。

Zさん:『物語 東ドイツの歴史 分断国家の挑戦と挫折』(中公新書、2020年)

この本は、東ドイツ誕生から東西統合までの40年の歴史をつづっています。

東ドイツはソ連に支配されていたため、ソ連の影響をとても受けていたようです。冷戦の影響も強く受けていました。そのころ、西ドイツと東ドイツは比較されることが多く、東は荒廃し西よりも貧困していたと言います。西の方は経済・教育環境がよく、東から西への脱出者が続出したため、ベルリンの壁が建てられたという経緯がありました。その後、ソ連が資金不足に陥り、東ドイツとの関係が薄くったことで、西ドイツとの関係が密接になり始めたそうです。その結果、東と西の違いをなくそうという考えが、東西統合を果たしました。

ドイツの歴史で、失敗と言われるようなことが多いイメージで、知識を持っていいない人でもわかりやすくドイツについてまとめられているそうです。

Gさん:小西雅子『地球温暖化の最前線』(岩波ジュニア新書、2009年)

この本は、2009年当時の温暖化の要因と考えられるものがつづられています。京都議定書に関してもつづられているそうで、とても分かりやすくまとめられており、中学生にこれを読ませて学習させた方がいいとSさんは感じたそうです。

日本は過去に温暖化対策として様々な対策を提案していたそうです。その中で、Sさんが興味深かったものとして、「環境税」というものがあったそうです。環境税の一部として、「炭素税」というものがあり、CO₂の排出量に伴い税をかけるというものだそうです。しかし、産業界などから大反対を受け、断念となったそうです。しかし、この「環境税」はもし導入したらどうなっていたかは気になります。

近年「炭素税」を導入しようという動きがあるというニュースもありますが、まだ産業界からの反論に対して優勢に立てているわけではないので、今後の動きが気になります。

私の感想として、地球温暖化について、現在でなく過去について、どのような対策があったのかが気になる人は読むと為になる本だと思いました。

Bさん:湯浅景元『自立できる体をつくる』(平凡者新書、2019年)

「人生の後半、老後に老いないからだをつくるには?」というのがテーマの本だそうです。ここで言われる自立できる体とは、日常生活を自分で行えるという意味です。

人が一番老いを感じるのは、見た目など外から認識できるものに集中するというのがゼミ内で多数の意見として出ていたが、著者は体の内部に着目すべしと主張しています。身体が衰えてからではすでに遅いので、その前に対策をするべしとしています。日々、ウォーキングやストレッチを行うなどと、将来のために今から若さを追及することが大切だそうです。

40・50代までは体力をつけることが出来るそうで、まだまだ誰でも間に合います。私自身、コロナ禍で運動することが減っているので、エレベーターではなく階段を歩くなどと、日常生活の中でもふとした時にトレーニングになることを探し、行っていきたいと思いました。

Rさん:岡田暁生『音楽の危機』(中公新書、2020年)

現在、流行している新型コロナウイルスにより、音楽の価値やあり方が変化しているということが論じられています。

コロナ禍においてブスクリプションを解禁するアーティストが増え、ライブもオンラインで開催され始めました。著者は、サブスクリプションやCD、オンラインライブは、「空白」であるとし、コンサートとは全くの別物と述べているそうです。

著者は、コンサートやオーケストラは空気を共有すること、聞こえないものを会場のみんなで共有できるという点を高く評価しています。そのため、コロナ禍でコンサートやオーケストラが開催できないことが「音楽の危機」だそうです。人は音楽に癒され、救われることがあります。音楽は生命維持という役割ではないけど、心を豊かにする方法としてとても大切です。それゆえ、コンサートやオーケストラという音楽を一部の人しか聞くことが出来ないことは「音楽の危機」だと言えます。

私はサブスクリプションやCDが「空白」というのは賛同しかねますが、このコロナ禍が収まるまでライブができないことは、著者の言う「音楽」を聴くことが好きな人にとって、甚大な危機であると納得しました。


今回の新書発表では、一人の発表に対して、時間の関係で打ち止めになるほど多くの人が意見を言えていて、充実したゼミになったと感じました。発表の内容は、だれもが一度は考えたことがあるような興味をそそられる本が多かったです。ぜひ皆さんも一度読んでみてはいかがでしょうか。


2021年5月19日水曜日

2021年度前期第5回:新書報告2

 はじめまして。ゼミ生の3年のRです。第4回目授業も前回に引き続き、Zoomを使ったオンライン授業で新書報告を行いました。今回はB班の発表でした。

Mさん 堀田秀吾『なぜ、あの人の頼みは聞いてしまうのか?――仕事に使える言語学』(ちくま新書、2014年)

 日頃の言葉の言い回しが人を動かす言葉になっていくことが書かれています。Kさんの発表で印象に残ったのが、ジョークやお笑いはわざと伝える量を少なくすることによって笑いが生まれる点です。なんとなく見ていたお笑いもこのようなテクニックが使われていたことに驚きました。これらの知識を得ることによって、広告やキャッチコピーなどを見るのも楽しくなりそうです。

毎回、報告本に関連する書籍も
紹介しています。『女のからだ』
に関連して、日本のピル受容に関
する私の論文が収録されている『性』
(ナカニシヤ出版、2016年)紹介
しました。(相澤)
Kさん 荻野美穂『女のからだ フェミニズム以後』(岩波書店、2014年)

 この著者は人文学の博士であり、フェミニズムについて健康面から論じた本です。アメリカのフェミニズムは男性中心から逃れ、女性自身が中絶の決定権を獲得する目標としたのに対し、日本のフェミニズムは戦後の経済的困難による女性の自由を求めたものであるという違いが指摘されていました。また、日本は中絶の合法化は他国と比べて早く、ピルの承認は遅いという特殊な国であるということも知りました。私は、避妊や中絶問題について私たちの年代が積極的に考えなくてはいけないテーマだと改めて思いました。相澤先生が紹介してくださった、セクシャリティをテーマとした論文「ピルと私たち -女性の身体と避妊の倫理―」もあわせて読んでみたいと思います。

Yさん 宮田光雄『メルヘンの知恵―ただの人として生きる』(岩波新書、2004年)

 子供向けの4つの童話を哲学の観点から考え、「人として生きる」にはどうすればいいのか考える本です。Yさんが取り上げたのは「裸の王様」でした。この有名な童話の内容は、現代を生きる私たちの身近に起きていることにもつながると著者は述べていました。童話の中で人々が、「王様は裸だ」とわかっているのに指摘できないように、他者の様子を伺い、合わせ過ぎてしまう経験は誰にでもあると思います。私も人に合わせすぎてしまい、あの時、しっかり相手に伝えておけばよかったなと後から思った経験があります。大人になると難しいことではあると思いますが、人の短所も個性であると受け入れ、言うべきことは言う態度が大切であると感じました。

Tさん 鈴木貞美『日本人の生命観』(中公新書、2008年)

 この本には、各時代における生き方や、命に対する考え方の移り変わりが書かれています。古代は命に対し、排他的であり、排除する考え方でした。それから、仏教が日本に輸入されたことにより、輪廻転生の考え方が一般的になりました。武士の時代になると、「散り際の美徳」という最後の死まで美しく生きることが重要とされてきました。明治時代になると自由や平等といった民主主義が取り入れられ、現代の考え方に移り変わっていったと述べられています。この本は、文学や心理学の視点からも日本人の生命観について書かれているとのことで、一読してみたいと思いました。

 Wさん 箭内 昇『メガバンクの誤算 銀行復活は可能か』(中公新書2002年)

 日本と欧米のメガバンクの間に大きな格差が生じている事態について書かれています。この本の中では、日本と欧米の銀行を飲食店に例えています。日本の銀行は田舎町の和食屋である一方、欧米は、隣町にあるラーメン、洋食などの様々な食べ物を扱う飲食店のようなものだと述べています。田舎町の和食屋を利用していた人も、メニューが豊富である隣町に行ってしまうということです。つまり、日本の今の手法では、アメリカの大銀行に顧客が流れていくことを示唆しています。新型コロナウイルスの流行によって株式の取引が拡大しているため、時代にあった銀行の在り方を目指していく必要があると思いました。

Tさん 三橋順子『女装と日本人』(講談社現代新書、2008年)

 この本は、女装を軸に社会がどのように移り変わっていったのか書かれています。古代から女装をする人は存在していました。古代の人々は女装に対して、普通とは違い、人ではない存在に近いと考えました。そこから神に近い存在だと考えたそうです。古代神話にも女装をする人はいて、神聖なものとして考えられていたそうです。次の課外活動は歌舞伎を見に行くので、関心を深めるために女装という視点から歌舞伎を考えてみたいという意見がありました。

今回で全員が発表を終えることができました。次回も引き続き新書報告です。各自の発表を活かし、より良い討論ができるようにしましょう。


2021年5月16日日曜日

2021年度前期第4回:新書報告1

こんにちは、経営学部3年新ゼミ生のWです。

今回のゼミはいよいよ今年初の新書報告でしたが、緊急事態宣言の延長に伴い、残念ながらオンライン授業となってしまいました。まだゼミが始まって日の浅い中で、オンラインで言葉のキャチボールをするのは難しく感じました。私自身がZOOMでの会話に不慣れだったため、初めはなかなか質問が出来ませんでした。しかし、徐々に質問の量も増えていき、とても充実したゼミになったのではないかと感じています。それでは今回の報告です。

*相澤補足: 本年度はゼミ履修者の人数が増えたため、二つのグループに分けて交代で新書報告を行います。

Oさん:菅原克也『英語と日本語の間』(講談社現代新書、2011年)

日本では、TOEICを筆頭とした英語検定試験の点数のみが注目されています。そこで英語力が培われていないことを危惧した政府が英語教育の政策を出しました。その政策に対して、著者が批判しながら自分の主張を述べる形で、この本は書かれていたそうです。政府は英語の授業は全て英語でやるべきとしました。それに対して著者は、それでは授業自体が成り立たず英語嫌いを助長するとして、英語を日本語に訳すことを中心に授業するべきだと述べていました。たしかに、そもそもの英語力がない学生たちの授業を英語だけで行えば、授業自体のレベルを下げることになり、英語力を伸ばすことにはあまりつながらないと私は感じました。

Iさん:盛岡孝二『就職とは何か-〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書、2011年)

この本では、欧米諸国と日本の就職活動の開始時期を基に、日本の就活の特異性やそのことがもたらす影響について書かれていたそうです。大学在学中に就職活動をするのは日本のみであり、それは企業の優秀な人材を早いうちに引き抜きたいという考えから来ているそうです。その結果、本来学生が力を注ぐべき学業を満足に行えず、人材レベルが下がってしまうとのことでした。私は、日本のみが学生のうちに就活を始めるという指摘にとても驚きました。同時に、欧米諸国のように、学生がまずは学業に全身全霊をかけられるようにするのが、就職活動の本来のあるべき形ではないかと考えました。

Gさん:藤田正勝『哲学のヒント』(岩波新書、2013年)

この本では、「生」「私」「死」「実在」「経験」「言葉」「美」「型」の8つのテーマが取り上げられています。そして「死」と「実在」が対比関係であるように、それぞれが前後のテーマと関係のある形で本全体が構成されているそうです。私はこの8つのテーマの中で、言葉で表現する美しさと言葉そのものの美しさの関係について述べられている「言葉」と「美」の箇所に興味を持ちました。哲学初学者でもわかりやすい内容となっているそうなので、それぞれのテーマの前後関係に着目しながら読んでみたいと思います。

Zさん:本川達雄『ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学』(中公新書、1992年)

この本は、様々な動物のサイズの比較を基に、生物学における時間ついて書かれていたそうです。大きい動物は心臓の動きが遅く、時間の流れがゆっくりで、寿命は長い。小さい動物は心臓の動きが早く、時間の流れが早くて寿命は短い。このように聞くと、大きい動物の方が繁栄力が強いと思ってしまいます。しかし際は、寿命が短い生物は限られた時間の中で子孫を残すため、次の世代に移るのが早いと考えられ、これは進化のスパンが早いと言い換えられます。その結果、進化の度に環境に適応して繁栄力が高くなる、小さい動物の方が繁栄力が強いという内容に感激しました。ぜひ読んでみたい一冊です。

Kさん:阿満利麿『人はなぜ宗教を必要とするのか』(ちくま新書、1999年)

この本は日本と宗教の関係について、江戸時代の「浮世」といった歴史的背景をもとに書かれていたそうです。日本では宗教に重きが置かれていないという前提に立った内容でしたが、江戸時代の五代将軍徳川綱吉は儒教に心酔していたために「生類憐れみの令」や「服忌令」を発令したり、神社仏閣の建設を積極的に行っていたと学習した記憶があります。そしてその建設費用と明暦の大火からの復興費用が重なった結果、貨幣改鋳が行われています。だとすれば、たしかに日本にも宗教による文化はあったのではないかと私は感じました。

Tさん:石井洋二郎『フランス的思考 野生の哲学者たちの系譜』(中公新書、2010年)

この本はサド、フーリエ、ランボー、ブルトン、バタイユ、バルトらフランスの思想家6人の思考を読み解いていた本です。結論では、思考すること自体を楽しむよう提案されているそうです。私は発表を聞いて、「利己主義」の考えを貫いたサドが、自身の最期には孤独になっていたという内容にとても興味を惹かれました。自分のことにしか目がいかず、他者のことを顧みない結果が行き着く先は孤独である。これは現代でも同じことが言えそうだと感じました。

次回もオンラインで新書報告を行うことが決まっています。初回よりも積極的に質問が飛び交う、密度の濃いディスカッションができることを楽しみにしています。