2022年6月29日水曜日

2022年度ゼミ 前期第11回:新書報告(A班担当)

 こんにちは。2年のMです。暑い日が続いていますね。熱中症で倒れる人も増えているそうですので、皆様も体調に気を付けてお過ごしください。さて、今回はA班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:高橋雅延『記憶力の正体―人はなぜ忘れるのか?』(ちくま新書、2014年)

本書では記憶力について解説されています。Kさんは『どうしたら記憶力が高まるのか』という部分を取り上げて解説してくれました。記憶力を高める方法として挙げられたのは二つです。一つ目の「想起」は覚えたいことを反復して思い出す方法です。二つ目の「場所法」は周辺の記憶と共に物事を記憶する方法です。これらを巧みに使うと効率的に記憶を保持できるそうです。逆に何かを忘れたい時はその出来事を言語化し、口に出したり書いたりすると効果的とのことでした。

私にも、覚えたいことは中々覚えられないのに忘れたいことは忘れられない経験があります。今回の報告で知ることができた記憶力を高める方法や忘れる方法を実践してみたいと思いました。

Yさん:駒崎弘樹『政策起業家―「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』(ちくま新書、2021年)

政策起業家とは、一般市民の立場で社会のルールを変えることや新たな法律を作ることができる人を指します。本書は政策起業家である著者の活動を記録した一冊です。新書報告で紹介されたのは「おうち保育園」に関する事例です。小規模保育園の設立はかつて法律で認められていませんでした。しかし、著者は活動を続け、様々な人の協力を得て認められるようになったのだそうです。著者のメッセージは「何かを変えたいなら声を上げなければ変わらない、当たり前だと思われていることは言わなければ気付いてもらえない」です。

事例と併せてとても説得力があり、何かを変えたいと思った時に勇気をもらえる一冊だと感じました。

Uさん:高階秀爾『近代絵画史(上)-ロマン主義、印象派、ゴッホ』(中公新書、1975年)

絵画を見た時に直観的に感動を覚えるか、歴史などの背景知識に感動を覚えるか。著者はどちらも認めた上で、本書では後者の背景知識が大切だと主張しています。例としてピカソの『ゲルニカ』という作品が挙げられました。『ゲルニカ』は民間人に対する爆撃の悲しみを白黒で歪な描き方をすることによって現している絵です。背景知識なしにただ特殊な描き方だと捉えるか、背景を知った上での表現と受け取るかで、鑑賞した時の心の動かされ方が大きく変わります。また「印象派」に関しても紹介してくれました。印象派の台頭により、輪郭を描いてから色を塗る手法から、輪郭を描かずに色で表現する方向に絵の描き方の潮流が大きく変わったそうです。

絵の受け取り方の話が特に興味深かったです。絵を見る機会があれば、直観から受け取る印象と背景知識がある上で観賞した時に受け取る印象の違いを気にしてみたいと思いました。

Hさん:小川剛生『兼好法師:徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年)

本書では兼好法師の知られざる一面が語られています。随筆『徒然草』を記した人物として知られる兼好法師、または吉田兼好について「世俗を離れ特定の宗派に属さず各地を転々する自由人」という印象を持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、これは兼好法師が作ったイメージであると著者は述べています。まず兼好法師は名家の出であるだけに経済基盤があります。宮中や内裏に出入りできるばかりかもてなされたほど顔も広く、「法師」の質素なイメージとはかけ離れた煌びやかな生活を送っていたようです。経済基盤に揺らぎが生じた際は土地の一部を手放し、じきに歌壇に目覚めて都を離れて寺を点々としたとのことです。

兼好法師は質素で周囲を気にしない自由な人物という印象を持っていたので、今回の報告を聞いて意外に思いました。


Kさん:鷲田小彌太『死ぬ力』(講談社現代新書、2016年)

本書では「死」について解説されています。当たり前の明日が続く保証はなく、本来人は常に最悪の事態を想定しなければなりません。しかし、人は死を恐れるあまり死を考えないようになり、死を恐れないために三つの物語を作ったそうです。一つ目は「不死」です。神話や伝説でよく取り扱われ、現代でも科学の力で語られているテーマです。しかし現状、不老不死を求めた人はみんな死んでしまっています。二つ目は「復活」です。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教などで見られる思想です。これも科学の言葉を借りて語り直されており、人体冷凍保存などは実際に行われています。三つ目は「魂」の物語です。魂は多くの宗教の中心にある概念です。現代には精神をデジタル化してデータとしてアップロードし、事実的な不老不死を試みるという研究もされているそうです。一方、死の恐怖を遠ざけるために物語を作ったにもかかわらず、実際は物語が死への恐怖をより加速させてしまっているという矛盾が存在しています。本書で著者は「死ぬ力」に直接言及をしていませんが、「終わりに向かって華々しく散りたい」という趣旨の発言はあるようです。

週末に帰省したので、
熊本土産をゼミ生に
お裾分けしました(相澤)。

人であればいつかは死んでしまうしそのいつかが今ではない保証はない、という本来は当たり前のことを改めて突き付けられたような気がします。自分の「死」について深く考えたことはなかったのですが、自分の人生を生きる上では外せないテーマだと思いました。

今回の新書報告で紹介されたのは以上の5冊です。テーマが豊富でどれも興味深い内容でした。来週のB班の新書報告も楽しみです。皆さんお疲れさまでした。


2022年6月22日水曜日

2022年度ゼミ 前期第10回:新書報告(C班担当)

 こんにちは、三年のNです。暑さも増し、体調を崩しやすくなる時期です。暑さに負けないよう、水分補給などをしっかり行って夏本番を迎えましょう。今回はC班の親書報告をご紹介します。

Tさん:澤井悦郎『マンボウのひみつ』(岩波ジュニア新書、2017年)

マンボウが大好きな著者が、マンボウの体のつくりや生態を解説しています。本書を紹介してくれたTさんには、マンボウのひみつについてクイズを交えながら紹介してもらいました。マンボウの生態は未だに謎が多く、その理由として、漁をする文化がないことや、3m2tの巨体が運搬を困難にしていることが挙げられました。また、広い地域に分布しているため調査が難航するそうです。

未だ謎の多いマンボウですが、伊勢長嶋ではマンボウを食べることができるそうです。ゼラチン質でプルプルとした食感が美味しいとのことなので、是非食べてみたいと思いました。

Mさん:上田一生『ペンギンの世界』(岩波新書、2001年)

ペンギンのスペシャリストである著者が、ペンギンの生活や生態、人との関わりの歴史を解説しています。今回、Mさんは、15世紀ごろにヨーロッパの探検家たちによって発見され、今日まで続いているペンギンと人との歴史について紹介しています。ペンギンは発見当初、「のろまな食料」とみなされていたそうです。また、ほかの鳥類と違い、飛ばないことから魚の仲間と考えられていました。このような誤解がペンギンに対する態度を冷酷にしていたそうです。しかし、19世紀の万博博覧会を機に徐々にペンギン愛護の機運が高まり、現在では動物園などで親しまれている動物になりました。

ペンギンは現在愛されている動物であり、過去に冷遇されてきた事実に驚きました。ペンギンへの態度が様変わりしたように、時代や環境で考えは変化していくと知りました。

N:幸田正典『魚にも自分がわかる 動物認知学の最先端』(ちくま新書、2021年)

本書では、魚の鏡像認知について、ホンソメワケベラを用いた実験を中心に報告されています。魚はかつて、人と比べて単純な脳を持つと考えられていましたが、現在では動物の脳構造は基本的に同じであることが最近の研究で分かっています。著者は、魚も人も脳構造に大きな差はない点に着目して魚の鏡像認知の可能性を見出しました。

鏡像認知とは、鏡に映った像を自分自身だと認識することです。マークテストと呼ばれる鏡を用いた実験手法が1970年代に確立し、動物が自分自身を認識できることが確認されました。マークテストはこれまで、オランウータンをはじめ、哺乳類や鳥類などで行われていました。魚は猿などの哺乳類に対して意思疎通が困難なため、本書ではこれまでの哺乳類などのマークテストとは異なるアプローチでの実験が報告されています。著者は、ホンソメワケベラが同種の魚についた寄生虫を払う習性を利用して、寄生虫に似た茶色の色素を注射して実験を行っています。ホンソメワケベラの習性を利用したことが功を奏し、ほぼ100%の個体がマークテストに合格し、魚が自己認識することが発見されました。

筆者は現在も魚の自己認識について研究を進めており、今後の展開にも期待したいです。

Oさん:村上靖彦『ケアとは何か』(中公新書、2021年)

本書では、ケアとはなにか、現象学の視点から個別具体の事例を取り上げて考察しています。著者は、「ケアとは生きることを肯定する営み」と定義し、相手との意思疎通の大切さ、相手の立場になって考えることを説いています。今回取り上げられた終末期患者の例として、「お寿司を食べたい心筋症患者」が挙げられました。通常、医療現場では高糖質の食事は命の危険にさらされるため制限されています。この事例ではケアの視点から、相手の意思を尊重してお寿司を食べることを認めています。当人の意思を尊重した結果、その患者の方は「好きに食べることができた」ことにとても満足されたそうです。また、こういった事例のなかには余命が伸びるといったポジティブな効果もみられたそうです。

適切な医療によって延命を図る以外にも、当人の意思を尊重することがその人の人生にとって良い場合もあるとわかりました。


以上が今回の新書報告でした。動物に関する発表が多く、皆さんの興味の傾向が見えてきたように感じられました。来週は今期最後のA班の報告になります。どのような本が報告されるのか、次回も楽しみです。皆さんお疲れ様でした。


2022年6月15日水曜日

2022年度ゼミ 前期第9回:新書報告(B班担当)

こんにちは、3年のIです。雨が多く、憂鬱な気分になりがちな時期ですが、1ヶ月後には楽しい夏休みです。頑張っていきましょう。今回はB班の新書報告をご紹介します。

  Rさん:千々和秦明『戦争はいかに終結したか (二度の大戦からベトナム、イラクまで)』(中公新書、2021年) 本書は、過去の戦争がどのように終結したかを解説しています。著者は、戦争の終結には「紛争原因の根本的解決」と「妥協的和平」の2つの方向性があるとしています。前者を重視すると現在の犠牲が増え、後者を重視すると将来の危険が高まってしまうので、この2つのバランスをとることが重要であると言えます。また、戦況が不利な側は有利な側の政権崩壊による戦争終結を期待することがありますが、実際に起こることはほぼありません。そのため、戦争終結のために、時には損切をする必要もあると著者は述べています。

  Zさん:小川さやか『「その日暮し」の人類学 もう一つの資本主義経済』(光文社新書、2016年) 本書では、文化人類学を研究している著者が日本とタンザニアの考え方の違いについて解説しています。日本の人々は「将来」を、タンザニアの人々は「今」をそれぞれ重視しているといいます。この考え方の違いの背景には、両国民の経済状況があります。比較的経済が安定している日本の人々は、「今」のことだけでなく、「将来」を考えた生活をする余裕があります。一方、貧困率の高いタンザニアでは、主に日雇いや自営業といった不安定な働き方をしている人が多く、賃金水準も低いです。このような、厳しい経済状況も、タンザニアの人々が「将来」よりも「今」を重要するようになった要因の一つにあるそうです。 
 
  Tさん:畑村洋太郎『やらかした時にどうするか』(ちくまプリマー新書、2022年) 本書は、失敗してしまったときのメンタルの保ち方について解説しています。今回は、「逃げる」、「人のせいにする」、「愚痴を言う」という3つの方法が取り上げられました。一見、現実逃避をしているようにも思えますが、自分の心を守るために必要なことなのです。そうして、心が落ち着いてきたら、失敗と向き合い、繰り返さないようにするにはどうすればよいか考えることが大切だと著者は付け加えています。

  Sさん:矢野勲『エビはすごいカニもすごい-体のしくみ、行動から食文化まで』(中公新書、2021年)  本書は、タイトルの通り、エビとカニの体のしくみについて説明しています。今回はテッポウエビとイソギンチャクガニの生態が紹介されました。テッポウエビは大きな腕から発射されるプラズマ波のビームで敵を撃退します。イソギンチャクガニは両手に毒のあるイソギンチャクを身につけることで天敵から狙われにくくしています。両者とも体は小さいですが、武器を身につけることで厳しい自然界で生き抜いています。  

以上4冊が紹介されました。今回もためになる知識をたくさん得ることができました。来週はC班の報告です。どんな本が紹介されるか楽しみです。みなさん、お疲れ様でした。

2022年6月11日土曜日

課外活動:バレエ「不思議の国のアリス」鑑賞会

本ゼミでは、芸術に触れる課外活動の機会を設けています。今年度最初の課外活動として、6月11日の晩にゼミ生たちと、新国立劇場でバレエ「不思議の国のアリス」を鑑賞しました。三時間近くにわたる壮大なパフォーマンス、幕が降りた後も鳴り止まないスタンディングオベーション。大変盛り上がった舞台でした。以下に、参加者の感想を掲載します。

Sさん:

会場の新国立劇場オペラパレス
踊りと演劇、近代技術が融合した新しい舞台作品でした。

第1幕でアリスが不思議の国に迷い込むとき、スクリーンを使って観客も一緒に吸い込まれていくような演出がありました。この演出のおかげで没入感が生まれ、作品を集中して見ることができました。第2幕で印象に残ったのは、イモ虫の登場シーンです。バレエは言葉ではなく踊りで表現しているが、イモ虫のセリフをスクリーンに映していました。これまで見たことのあるバレエではなかった表現方法だったため、驚きました。第3幕ではハートの女王のユーモアある踊りがとても面白かったです。原作で有名な女王のセリフである「首をはねろ!」が面白おかしく表現されていました。

どのキャラクターも作りこまれていて、原作と対比しながら見ても楽しむことができそうだと思いました。しかし、スクリーンやや大掛かりな舞台装置など、斬新な演出が多く、刺激的な色が使われている場面が多々あるため、好みがわかれる作品でもあると思いました。初めて見るバレエには向いていませんが、原作が好きな方、もっと刺激がある作品を見てみたいという方におすすめです。

Kさん:

今回の課外活動に参加した理由はバレエを今後自分から見に行く機会がないと思ったからです。自分が普段行わないものをこのゼミを通して行いたいと思っていたので、今回のバレエ鑑賞に参加しました。まず端的に言って、参加して良かったと思います。題目はアリスでしたが、”アリス”の世界をセットや映像を駆使し、見事に表現していました。その表現の工夫は演出家の人たちの努力を感じさせるもので、まさしく現代の”アリス”と言うことができると思います。そしてなんといってもバレエと音楽との親和性に驚きました。バレエの緩急のある動きや全身を使った表現はオーケストラが生で奏でる音色と合わさることで私たちの想像をより掻き立てていました。振り返ってみれば鑑賞後はとても疲れを感じていたと思います。しかし、その疲れがとても心地よく私の心は満たされていたので、上演後には出演者たちへ惜しみない拍手を送ることができました。バレエを鑑賞できたことで私の人生に一つ彩りが加わったと思います。

アリスの世界に迷い込むように、
会場内には様々なデコレーションが。

Nさん:

大学の課外活動は初めてなので緊張しました。

私は舞台装置の構成と、おとぎ話の文章を実際の動きにどう落とし込むのかに注目して観ていました。印象に残るのはチェシャ猫の表現です。第二幕のあらすじにはアリスのチェシャ猫への問いかけ、それに答えずとらえどころのないチェシャ猫に戸惑うアリスの場面が書かれています。舞台上では、チェシャ猫は分解された体のパーツが数人の黒子によってそれぞれ分担されていました。体の部位ごとに独立して動くので、実体がない、捉えられないことが表現されているのだと理解しました。舞台空間を大きく使ってチェシャ猫を動かせるので舞台袖の色々なところから出てくるのは視覚的に面白い工夫だと感じました。

初めてのバレエ鑑賞だったので不安もありましたが、実際に舞台を見てみると様々な工夫を見ることができて楽しく鑑賞できました。この度はこのような機会を与えていただき、ありがとうございました。

Yさん

バレエ鑑賞3回目の私は、少し変わった視点からバレエを楽しみました。私は今回、鑑賞しながら2つの違和感があると気づき、その原因を考察しました。ここでは一つだけ紹介します。

違和感の正体は「現代の多様性を尊重する文化とのギャップ」です。特に、バレエのダンサーの体型を見て「多様性とは、美しさとは何だろう」と考えました。

バレエのダンサーは全員体が鍛え上げられていて、女性はスラッとスリムで、男性は筋肉質で逞しくて、一般的には理想の体型として憧れられる存在に思えます。しかし私はそこに違和感を覚えました。バレエの舞台には太ったダンサーは登場しません。皆スリムで筋肉質で、それ以外の体型の人は出てきません。バレエの世界ではこれが「当たり前の美しさ」なのかもしれません。しかし、私たちが暮らす現実にバレエの「当たり前の美しさ」を適用させたとしたら、とても生きづらいと思います。もしかしたら、バレエのような伝統的な芸術に影響を受け、「痩せていなければいけない」「太っているのは良くない」という価値観が定着し、現代の生きづらさを作り出したのかもしれないと想像しました。

バレエを鑑賞していたはずが、いつの間にか社会問題を考察していました。本来の楽しみ方ではないかもしれませんが、芸術を題材に浮かんできた疑問について考えてみるのは結構面白いことだと思いました。

Uさん

結構長丁場。休憩時間に
感想を話すのも楽しみです。

今回、バレエ「不思議の国のアリス」を観劇していて、村上春樹の翻訳騒動を、ふと思い出した。

 村上春樹が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を翻訳したとき、「随分と、旧訳である野崎訳と雰囲気が異なる」と話題になった。

 それに対して村上はインタビューの際に、「時代が変わると、それに合わせて伝え方も変えなければいけない。何も変えないまま、"伝統だから変わらない"と述べていると、誰からも見向きをされなくなる」という趣旨の応答をしている。

 この村上のエピソードを今回の観劇で思い出した理由は、バレエが新しい試みに満ち溢れている点だった。例えば、幕間にあるゼミ生が「原作でアリスが巨大化したり小さくなったりするシーンが、舞台背景のスクリーンの映像を上手く利用して表現されていた」と感慨深げに語っていた。

 さらに演出の工夫は、スクリーンにとどまらなかった。劇場の構造を利用して、突然バレリーナが2階客席に登場して踊った。さらに、花びらが舞い散るシーンでは、実際に天井から花びらがひらひらと降り注いだ。

 バレエが世界で初めて行われたのは16世紀とも言われているが、言うまでもなくその時代はこれらの舞台装置はなかっただろう。現代の舞台スクリーンを表現するCG技術と、演出装置を上手く活用した「新しい」バレエだった。

 しかし最も印象に残ったのは、実は演出方法ではない。バレエの舞いや、タップの目を引くような技術の高さだった。

 ともするとCG演出や舞台装置のレベルが高いほど、根本のバレエがおろそかになりがちだ。しかし、今日の舞台で拍手が10分を超えるほど絶えなかったのは、その「バレエそのもの」が、とても魅力的だったからだ。

 演出に工夫がこなされつつも、あくまで主従の「主」の部分はバレエだと言わんばかりの圧倒的な実力に、目を惹きつけられた。感動を伝えたくて、拍手をし過ぎて手が痛くなった。

Oさん

バレエダンサーのピンとした姿勢と立ち振る舞いに毎回見とれてしまいます。

「不思議の国のアリス」は絵本でしか読んだことがなく、バレエではどのように不思議さを演出するのか気になっていましたが、その演出方法は終始自分の想像を超えていました。

踊りだけではなくて、花びらが上から舞い降りてきたり、客席の所までダンサーが来たりしたところが今まで見た演目とは異なり新鮮でした。

また、映像を効果的に用いてアリスの大きさが変化したり、水の中に入ったりするところを表現しており斬新で見応えがありました。ダンサーが一人で踊っているところも素敵でしたが、第3幕終盤で、大混乱に陥っている時に舞台中央の階段上にいて怒っているハートの女王を王様が翻弄されながらもなだめようとしているやりとりがあり、面白くてそちらに気を取られました。主人公たちが踊っていても、舞台上の至るところで各人たちのドラマが生まれており、どこを見ようかと目移りしてしまうほど鑑賞する楽しさに満ち溢れていました。場面によっては観客席から笑いが起こることもあり、バレエが主でありつつも、総合的なエンターテインメントショーのように感じました。

私にとってバレエの醍醐味は、バレエの踊りだけでなく音楽にもあると思います。ダンサーは台詞を口にしない分、舞台下のオーケストラピットから奏でられる音楽で状況を表現しているからです。音楽がない沈黙のシーンはほぼないため、演奏する方々も大忙しなはずなのに、寸分の狂いもなく踊りと合わせていたことに感動しました。舞台下で大役を務めているオーケストラは、まさに縁の下の力持ちと言えそうです。とても格好良かったです!

前回よりもよい席で鑑賞することができたため、気づきも多く熱中できた鑑賞会でした!


Zさん

バレエについて私はハイカルチャーとしての印象が強かった。良く言えば、伝統のある高尚なイメージ、悪く言えば、厳めしく、私のような無学な人間にとっては近寄りがた持っていた。

 今回『不思議の国のアリス』を鑑賞し、私のそういった悪いイメージは払拭された。なぜなら、この作品では、ハイカルチャー的な側面と同時に大衆娯楽的な側面を兼ね備えていたからである。バレエの繊細で優雅な踊りだけではなく、曲の雰囲気に合わせたコミカルな動きや、プロジェクションマッピングやパペットといった最新の技術が舞台の中で多用されており、鑑賞する側を飽きさせないような工夫が随所になされているのを感じた。

 今回の鑑賞でバレエの面白さの一端に触れることができた。


Dさん

私は、生まれて初めてバレエというものを鑑賞したが、こんなにも素晴らしいものだとは思いもしなかった。舞台を見る前には、「不思議の国のアリス」という原作をどのようにバレエで表現するのかと期待で胸がいっぱいだったが、この舞台は見事にその期待を超える感動を提供してくれた。

言葉が使えない分、振り付けでキャラクターの個性を鮮やかに描き出す必要があるが、今作はバレエ、ミュージカル、パントマイム、トリックアート、デジタル技術など様々な要素をふんだんに駆使して見事にそれぞれのキャラクターを表現していると感じた。さまざまなジャンルの「芸術」を融合させ、現代人に新たなエンターテイメントを提供するこの舞台を見て、表現の勉強にもなった。言葉を使わずとも、目線、身振り手振り、表情一つ一つで、その物語を語る出演者の方々の演技は、表現における神技だと感じた。他にも色々なことを学べて、色々なことを考えさせられる魅力的な舞台で、とてもタメになった。貴重な経験を得られて、本当に良かったと心から思う。

2022年6月8日水曜日

2022年度ゼミ 前期第8回:新書報告(A班担当)

  こんにちは、3年のZです。今回は一巡して、A班の2回目の新書報告が行われました。本と発表方法どちらも、バラエティに富んでいました。それでは、A班の報告を紹介していきます。

Uさん:千葉雅也『現代思想入門』(講談社現代新書、2022年)

 本書は、デリダやフーコーといった現代思想を学ぶことができる一冊です。著者によれば、昨今、物事に分かりやすさが求められていますが、単純に理解することはよくないとしています。なぜなら、社会の構造は分かりやすい単純なものではないからです。よって、複雑なものを複雑なものとして理解することが重要だと指摘しています。しかし、複雑なものの理解は簡単ではありません。これを理解するためには知識の積み重ねや理解するためのエッセンスが必要です。本書は、読者の理解を促すために、後者を意識して書かれているそうです。

 私は現代思想は、難解なイメージがあり、積極的な関心がありませんでした。この発表を聞いて、多少関心を持ちました。

Hさん:正高信男『考えないヒト ケータイ依存で退化した日本人』(中公新書、2005年)

 本書は17年前、まだスマートフォンが一切普及していない時代に書かれた一冊です。著者はケータイ依存によって、主に若年層に2つの問題が起き、これを「サル化」だと指摘しました。1つ目の問題は、「出歩き人間」の発生です。これは、ケータイによって、いつどこでも連絡が取れることから、自分の家に帰ろうとしなくなってしまう問題です。2つ目は、コミュニティ能力の低下です。メールの文章を読むことや、電話による声だけのコミュニケーションばかりになって、言葉を額面通りにしか受け取れなくなってしまうのではないかと著者は危惧しています。

 私は、本書は、ガラケーが主流だった時代に書かれた本であるため、スマホの普及によってケータイ依存が以前と比べてどう変化したかについても興味を持ちました。

Dさん:山田敏弘『その一言が余計です。 日本語の「正しさ」を問う』(ちくま新書、2013年)

 本書は、日常生活で余計に感じる一言について、その表現や文法に着目して、書かれた一冊です。発表では、例として、「~でいいよ」という表現が挙げられました。この表現が生まれる原因を著者は2つ考察しています。1つは、「らしい」や「ようだ」など、日本語は断定を避ける表現が多いためです。もう1つは、「~でもいい」から「~でいい」へと表現が変化したというものです。

著者は、私たちが、余計な一言を言ってしまう(捉える)立場だとして、相手の言葉を寛大に受け止める必要があると主張しています。

私は、細かい言葉のニュアンスや違いで余計な一言に変貌することに、コミュニケーションの難しさを感じました。

Yさん:池田晶子『14歳からの哲学 考えるための教科書』(トランスビュー、2003年)

 本書では、当たり前だと思っていることについて深く考える哲学書です。発表では「言葉」について取り上げられました。例えば、「美しい」という言葉であれば、まず美しいと感じるものについて考え、美しいとは何かと考えていき、最終的に、自分に他者との共有ができる美しいという概念があることが分かります。このことから、言葉は自分の中に概念として理解されるものであると著者は述べています。

 発表を聞いて、私はあまり普段当たり前だと思っていたものについて改めて考えてみると、新たな気づきが見つかって面白かったです。

Kさん:小林憲正『地球外生命体 アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来』(中公新書、2021年)

 本書では、「アストロバイオロジー」と呼ばれる、地球外生命体について研究する学問について解説されています。アストロバイオロジーは、地球外生命体を問うために、そもそも地球では生命がどのように誕生したのかを分析しています。本書によれば、地球の生命体は宇宙から飛来した隕石がきっかけで誕生したのではないかという説が有力になっているそうです。

 宇宙や生命についてはまだ分からないことが多く、話を聞けば聞くほど、興味関心が尽きないと感じました。


以上が今回の新書報告でした。興味深い発表が多く、学びを深められたゼミでした。来週は2回目のB班の報告です。どのような報告が行われるのか楽しみです。皆様お疲れさまでした。


2022年6月1日水曜日

2022年度ゼミ 前期第7回:新書報告(C班担当)

 こんにちは!3年のSです。今回で全班が新書報告を行いました。緊張したゼミ生もいると思いますが、どの報告も楽しく聞くことができました。欠席者が1名出たため、全部で4冊の紹介になります。それではC班の新書報告を紹介します。

Tさん:齋藤孝『からだ上手 こころ上手』(ちくまプリマ―新書、2011年)

本書は、身体と心を整える技術を解説しています。心は身体から、身体は心から整えることができると言います。そのためにはイメージを上手に使うことが大切だそうです。本書ではイメージが体に与える影響を検証した実験が紹介されていました。一人を二人で持ち上げる際、持ち上げる人を岩・水・煙だとイメージしながら持ち上げる実験です。最も重く感じたイメージは岩、次に水が重いと感じたそうです。水は掴み辛く、持ち上げにくいと思ったため煙よりも重い結果になったと思われます。同じ人を持ち上げているにもかかわらず重さの感じ方に違いが出ることから、イメージの重要性がよくわかりました。

背伸び体操風景
また、体を整える技術として紹介されていた背伸び体操を行いました。この体操を食事前に1分間行うことで、ダイエットを助ける効果が期待できるそうです。

私は落ち込みやすい時期があり、どうしても物事を前向きに捉えられないことがあります。そんな時は無理せず軽いストレッチや体操を行い、身体から健康になっていくことも大切だと思いました。他にも簡単に取り組める体操がいくつか書かれているので、気になる方は本書を読んでぜひ実践してみてください。

Oさん:芹沢俊介『家族という意志―よるべなき時代を生きる』(岩波新書、2012年)

「よるべなき」とは、頼るところがない、身を寄せる人がいないという意味です。本書は、現在の家族の居場所を1. 生後まもない子供の受け止められ体験、2. 自殺と中絶、3. 老後の三点に分け、著者の体験をもとに考察しています。

1では、震災で親を失い乳児院に預けられた子供が例に挙げられていました。乳児院では効率よく面倒を見るために、両親がいる子どもと比べて自分の主張を無視される機会もあります。よって、本当にやりやいことがかなえられないため、本来赤ちゃんが必要としている受け止められ体験ができない状況も起こり得ます。

2に関しては、避妊技術の発達により家族計画が立てやすくなったことで、女性の一生が母親の役割にとらわれにくくなっていると指摘されていました。

3では、親の老後の見届け方について述べられていました。子どもは親を老人ホームに預けると世話から解放され楽になるが、親本人は家族とのつながりを絶たれ、一人になってしまう問題があります。ゼミ生の中にはこの問題について兄弟で話し合った学生もいました。

前々回受けたSDGsの授業に関連した点もあり、興味深い内容でした。3の老後の見届け方は将来必ずやってくる問題です。家族で老後の方針を相談するべきだと思いました。 

Mさん:将基面貴巳『従順さのどこがいけないのか』(ちくまプリマー新書、2021年)

本書は、人々が従順である理由やその危険性、そして究極的に何に従うべきか論じています。

なぜ人は従順になってしまうのか、三つ理由があげられていました。一つ目は習慣になっているから、二つ目は安心感を得るため、三つ目は責任を回避するためだそうです。

ではなぜ従順してはいけないのでしょうか。それは気づかないうちに不正に加担する可能性があるからです。例えば、秩序のなかに女性差別が組み込まれていた時、この秩序を維持しようと従順でいると差別に加担してしまいます。

しかし、生きていく上で何にも従わないわけにはいきません。何に従うべきか。それは共通善と良心です。共通善は、公共の福祉を指します。良心のみに従っていると行動の結果を配慮できない場合が多いため、共通善も含めて判断する必要があるそうです。

紹介を聞いて、従順であることは楽ですが、不正に加担しないためにも自分で考えることも大切だと改めて思いました。本書は最近出たばかりで、聞いたことがある事例も多く挙げられているそうです。読みやすい内容になっているので、社会問題に興味がある方に読んでもらいたい1冊です。

Iさん:福間詳『ストレスの話 メカニズムと対処法』(中公新書、2017)

本書は、タイトルのとおり、ストレスとその解消法を解説しています。

ストレスの一番の解消法は食事と睡眠です。7時間以上寝る、バランスの良い食事をとることがストレス解消に最も効果的です。しかし、必ずしも健康的な生活が送れるとは限りません。 誰でも、必ずストレスをため込んでしまう場合があると思います。その時は、ストレスを避けるのではなく、「薄める」必要があります。

ストレスが溜まっている時には、殻に閉じこもるのではなく、外に出て多くの刺激を受けることが有効です。この刺激はすべてが良い刺激である必要はなく、マイナス面の刺激でも効果があります。一つの出来事に集中するのではなく、様々なことを考えることによってストレスは薄まっていきます。また、考えすぎないためにも運動をして疲れることも大切だそうです。

近年ニュースでも度々ストレスが話題になっています。悲しい出来事に強い印象を持ってしまいがちですが、自分を守るためにもその印象をコントロール必要があると思いました。Tさんが報告した新書と関連している内容なので、2冊合わせて読むとより日々の生活を豊かにできるのではないかと思いました。

以上が今回の新書報告でした。どの本も最近話題になっている内容で興味をひかれました。次週は2回目のA班の報告です。どんな本の紹介があるか楽しみです!皆さんお疲れさまでした。