2022年6月29日水曜日

2022年度ゼミ 前期第11回:新書報告(A班担当)

 こんにちは。2年のMです。暑い日が続いていますね。熱中症で倒れる人も増えているそうですので、皆様も体調に気を付けてお過ごしください。さて、今回はA班の新書報告を紹介していきたいと思います。

Kさん:高橋雅延『記憶力の正体―人はなぜ忘れるのか?』(ちくま新書、2014年)

本書では記憶力について解説されています。Kさんは『どうしたら記憶力が高まるのか』という部分を取り上げて解説してくれました。記憶力を高める方法として挙げられたのは二つです。一つ目の「想起」は覚えたいことを反復して思い出す方法です。二つ目の「場所法」は周辺の記憶と共に物事を記憶する方法です。これらを巧みに使うと効率的に記憶を保持できるそうです。逆に何かを忘れたい時はその出来事を言語化し、口に出したり書いたりすると効果的とのことでした。

私にも、覚えたいことは中々覚えられないのに忘れたいことは忘れられない経験があります。今回の報告で知ることができた記憶力を高める方法や忘れる方法を実践してみたいと思いました。

Yさん:駒崎弘樹『政策起業家―「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』(ちくま新書、2021年)

政策起業家とは、一般市民の立場で社会のルールを変えることや新たな法律を作ることができる人を指します。本書は政策起業家である著者の活動を記録した一冊です。新書報告で紹介されたのは「おうち保育園」に関する事例です。小規模保育園の設立はかつて法律で認められていませんでした。しかし、著者は活動を続け、様々な人の協力を得て認められるようになったのだそうです。著者のメッセージは「何かを変えたいなら声を上げなければ変わらない、当たり前だと思われていることは言わなければ気付いてもらえない」です。

事例と併せてとても説得力があり、何かを変えたいと思った時に勇気をもらえる一冊だと感じました。

Uさん:高階秀爾『近代絵画史(上)-ロマン主義、印象派、ゴッホ』(中公新書、1975年)

絵画を見た時に直観的に感動を覚えるか、歴史などの背景知識に感動を覚えるか。著者はどちらも認めた上で、本書では後者の背景知識が大切だと主張しています。例としてピカソの『ゲルニカ』という作品が挙げられました。『ゲルニカ』は民間人に対する爆撃の悲しみを白黒で歪な描き方をすることによって現している絵です。背景知識なしにただ特殊な描き方だと捉えるか、背景を知った上での表現と受け取るかで、鑑賞した時の心の動かされ方が大きく変わります。また「印象派」に関しても紹介してくれました。印象派の台頭により、輪郭を描いてから色を塗る手法から、輪郭を描かずに色で表現する方向に絵の描き方の潮流が大きく変わったそうです。

絵の受け取り方の話が特に興味深かったです。絵を見る機会があれば、直観から受け取る印象と背景知識がある上で観賞した時に受け取る印象の違いを気にしてみたいと思いました。

Hさん:小川剛生『兼好法師:徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年)

本書では兼好法師の知られざる一面が語られています。随筆『徒然草』を記した人物として知られる兼好法師、または吉田兼好について「世俗を離れ特定の宗派に属さず各地を転々する自由人」という印象を持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、これは兼好法師が作ったイメージであると著者は述べています。まず兼好法師は名家の出であるだけに経済基盤があります。宮中や内裏に出入りできるばかりかもてなされたほど顔も広く、「法師」の質素なイメージとはかけ離れた煌びやかな生活を送っていたようです。経済基盤に揺らぎが生じた際は土地の一部を手放し、じきに歌壇に目覚めて都を離れて寺を点々としたとのことです。

兼好法師は質素で周囲を気にしない自由な人物という印象を持っていたので、今回の報告を聞いて意外に思いました。


Kさん:鷲田小彌太『死ぬ力』(講談社現代新書、2016年)

本書では「死」について解説されています。当たり前の明日が続く保証はなく、本来人は常に最悪の事態を想定しなければなりません。しかし、人は死を恐れるあまり死を考えないようになり、死を恐れないために三つの物語を作ったそうです。一つ目は「不死」です。神話や伝説でよく取り扱われ、現代でも科学の力で語られているテーマです。しかし現状、不老不死を求めた人はみんな死んでしまっています。二つ目は「復活」です。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教などで見られる思想です。これも科学の言葉を借りて語り直されており、人体冷凍保存などは実際に行われています。三つ目は「魂」の物語です。魂は多くの宗教の中心にある概念です。現代には精神をデジタル化してデータとしてアップロードし、事実的な不老不死を試みるという研究もされているそうです。一方、死の恐怖を遠ざけるために物語を作ったにもかかわらず、実際は物語が死への恐怖をより加速させてしまっているという矛盾が存在しています。本書で著者は「死ぬ力」に直接言及をしていませんが、「終わりに向かって華々しく散りたい」という趣旨の発言はあるようです。

週末に帰省したので、
熊本土産をゼミ生に
お裾分けしました(相澤)。

人であればいつかは死んでしまうしそのいつかが今ではない保証はない、という本来は当たり前のことを改めて突き付けられたような気がします。自分の「死」について深く考えたことはなかったのですが、自分の人生を生きる上では外せないテーマだと思いました。

今回の新書報告で紹介されたのは以上の5冊です。テーマが豊富でどれも興味深い内容でした。来週のB班の新書報告も楽しみです。皆さんお疲れさまでした。