2020年7月8日水曜日

2020年度前期 第11回:新書報告

現代法学部4年のMです。今回も先週に引き続き新書報告を行いました。どのような発表があったか一人一人紹介していきます。

相澤先生
石川明人『キリスト教と戦争』(中公新書、2016)
この本は、今までキリスト教は平和を訴えながらも、なぜ、戦争という暴力行為をしてきたのかを多くの事例、参考文献をもとに解説しています。殺しと愛は矛盾しないとする「正戦論」はアウグスティヌスに始まり、現代ローマ教会の正当防衛承認に繋がっていきます。以前の新書報告で「魔女狩り」について学びました。魔女狩りでは不当な判決と残忍な処刑方法によって多くの犠牲者を出しました。本書の事例で紹介されている宗教戦争においても異教徒への迫害があったことから、時には世俗文化として割り切ることも重要だと考察しています。

Tさん
森山至貴『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』(ちくま新書、2017)
近年LGBTと呼ばれるセクシャルマイノリティが注目され、クィア・スタディーズという言葉を聞くようになりました。クィア・スタディーズとは、あらゆるセクシャリティを対象としている分野の一つで、本書ではセクシャルマイノリティについての正しい知識や性の在り方の分類について歴史と経緯をふまえて説明しています。LGBTは多数者と少数者の対立と思われがちですが少数者同士でも差別が起きていることがあり、多様性の複雑さが現れています。

Aさん
原田隆之『痴漢外来』(ちくま新書、2019)
痴漢やレイプといった性犯罪について、犯人の性格や生活習慣から原因を紐解き、再犯防止に向けた取り組みを紹介しています。痴漢は「性的依存症」と呼ばれ、認知のゆがみによる性的興奮から抜け出せないため、犯罪の中でも再犯率が高いといわれています。日本では「認知行動療法」といった依存を克服する治療を経て社会復帰を目指します。一方、海外ではGPSによる追跡や保安処分によって通院が強制されるなど、社会からの風当たりもより強い傾向にあります。

Yさん
青木保『異文化理解』(岩波新書、2001)
異文化に対する偏見と先入観が、時には戦争をも引き起こす原因になるため、本書ではその国の文化が形成された歴史への理解も重要だと述べられています。また、著者はインターネットが普及した今の時代は先入観や固定概念による決めつけが生まれやすいと考察しています。確かに、マスメディアの報道次第で、情報の受け手である大衆に対して間違った理解を促すことも考えられます。このことから、正しく異文化理解を行うには常に慎重な姿勢で情報を見極める必要があると感じました。

Sさん
布施英利『「進撃の巨人」と解剖学』(講談社ブルーバックス、2014)
本書は、漫画『進撃の巨人』に解剖学の知見が生かされていることを論じています。本書に出てくる「美術解剖学」は、漫画の世界において筋肉を描写する際の情報として大いに役立っている学問だといえます。はじめは漫画家も解剖するのかと驚きましたが、解剖実習は医学部生しかやってはいけないため、漫画家は実習の様子を見学し、筋肉や骨格をスケッチするそうです。漫画を読む我々は実際の筋繊維を見たことがないため、『進撃の巨人』の描写のリアルさを判断することはできませんが、その筋肉描写のインパクトが私たちの想像力をかき立て、魅力の増幅に繋がっていると言えそうです。

Iさん
長沼毅『死なないやつら』(講談社ブルーバックス、2013)
本書は、高圧環境、酸性環境、宇宙線環境といった劣悪な環境下にいる極限生物を題材とし、進化の観点も踏まえて考察しています。極限生物は進化の過程で環境に適応したわけではなく、突然変異から誕生したといわれています。また、極限生物の特徴の一つに体の小ささがあります。これは、劣悪な環境下を生き抜くための進化だと思われます。極限生物の圧倒的な耐久性と生息域は大変興味がかきたてられます。

Nさん
竹内薫・丸山篤史『99.996%はスルー』(講談社ブルーバックス、2015)
情報化社会の現代ですが、本書のタイトルにあるようにほとんどの情報はスルーされています。その理由の一つは、人の脳が一度に処理できる量が決まっていて、およそ数十ビット/秒に対し、入ってくる情報は1000ビット/秒を超えているためです。また、マスメディアやSNSの発展により、情報量が2000年初期と比較すると35倍になったといわれています。これからは、重要な情報を取りこぼさず、なおかつ、スルースキルも習得することが必要不可欠だと考えられます。

Mさん
園山耕司『新しい航空管制の科学』(講談社ブルーバックス、2015)
現在日本における一週間の航空機の離発着数は国内線だけでも1万便を超えていて、それらを支えているのが航空管制です。航空管制は、飛行機のパイロットと常に連携を取り、離陸してから到着するまで指示を送り続けています。また、航空管制は、航空機がより安全に飛行できるように、衛星のほかに「エリアナビゲーション」とよばれる機械で高度や気圧等の変化を読み取り、航空機の位置情報を正確に把握しながら的確な指示を出しています。さらに、コックピット内の装置も以前はアナログなものでしたが、最近はカーナビ仕様になっているため航空管制の指示がよりスムーズに伝達できるようになったとのことです。

来週は今学期最後の授業です。もうひと踏ん張りです。