2020年7月15日水曜日

2020年度前期 第12回:GW「『社会のしくみ』を考える」

相澤ゼミ経営学部3年のNです。今回は、歴史社会学者の小熊英二さんのネットインタビュー「もうもたない!?社会のしくみを変えるには」を読み、次の2点の共有、ディスカッションを行いました。

(1)気になった点や他人の意見を聞きたいと思った点
(2)日本社会で生きるとき大切にしたいもの・変えてもいいもの

 詳しい内容を報告する前に、記事の概要を記載したいと思います。
本記事では、1970年代に完成した日本社会のしくみが、時代の変化に伴い、維持できなくなっているのではないかという考察が述べられています。日本社会のしくみとは、終身雇用や年功序列の賃金システム、そして新卒の一括採用などに象徴される雇用慣行と、それに規定されてできていった教育や社会保障のあり方、さらには家族や地域のあり方といった日本社会の慣習の束のことを指しています。
また、小熊氏は現代日本での生き方を、大企業型・地元型・残余型の3つに分類して説明していました。1つめの大企業型は、大学を出て大企業の正社員や官僚となり、賃金が年功序列で上がっていく人を指します。こうした大企業型は所得が多いものの、長時間労働や通勤時間が長く、地域社会とのつながりが薄い人が多いという特徴があります。2つめの地元型は、地元の学校を卒業し、農業・自営業・地方公務員・建設業などで地元にとどまって働いている人を指します。所得は比較的少ないものの、地域コミュニティ-を担い、持ち家や田んぼを有したり、人間関係が豊かだったりします。3つめの残余型は、平成の時代に増加してきたタイプで、所得が低く、人間関係も希薄という特徴があります。これらの象徴としては、都市部の非正規労働者などが挙げられます。
社会のしくみは、全人口のわずか3割の大企業型の安定性を守るために維持されてきました。しかし、東西冷戦の終結など、この三十年ほどの間に様々なことが起こったことから「日本は社会のしくみを維持できなくなってきているのではないか?」というのです。大企業型は、長時間労働・人事査定の強化・非正規雇用の活動といった方法でしくみを保っていますが、地域型・残余型の7割はどんどん非正規雇用へ移動していき、安定性を失っていきました。
社会のしくみが維持できなくなっていくにつれ貧困や格差という問題が出てきます。そうした問題への気づきが遅れた理由として、問題を論じるのが安定した約3割の人々であったこと、日本人が成果主義を嫌った事が挙げられています。現状、社会のゆがみは外国人労働者を使って解消しているものの、行政の人員不足によって人権問題が発生していると小熊氏は警鐘を鳴らしています。
記事の最後には、「社会のしくみを変えることに不安な者もいるかもしれないが、これからは、何を望み、何を望まないか考えていく必要がある」と、小熊氏は述べています。

記事の概要をふまえて、次に、冒頭で述べた(1)(2)についてゼミ生がどんな点に注目したのか、記載していきたいと思います。
(1)に関しては次のような意見が挙げられました。
・一億総中流(自身は中流階級と思う者が大多数)というなじみのない言葉が印象的だった。
・約3割の人々を残りの7割の人々が支えているというのに驚いた。
・日本では階級や階層の格差を意識するのが難しいことが分かった。
・日本は国内市場が大きいため、問題の発見が遅れたという点がおもしろかった。
・社会のしくみが東西冷戦で維持されてきたというのは皮肉で興味深かった。
・日本人がやりたくない仕事を外国人労働者で補ってきたという指摘に驚いた。
・公務員の数が少ないという問題を再認識できた。

私は、日本では階級や格差を意識しづらいという話が特に面白いと思いました。すなわち、企業内部では格差がそれほど開いていないため、格差を意識しにくい。一方、企業間の格差は着実に広がっているというものです。こうした、格差が見えにくい社会が形成された要因として、企業内で格差があると労働者のやる気が削がれるという点が挙げられるでしょう。私はそれと共に、他者と比べて自身が劣っているように感じる・自身が劣っていることを他者に気づかれたくない、という日本の恥の文化も関係しているのではないかと感じました。また、「こうした状況は私たちが選択してきた結果なのだ」という小熊氏の言葉も印象的でした。現状を「こんなはずではなかった」という方もいますが、我々が選択してきたからこうした現状になったという小熊氏の考えは実に興味深かったです。これは次の(2)にも関係してくることですが、何を守って何を捨てるのか、所捨選択を行う必要があると分かりました。

(2)の日本社会で生きるとき大切にしたいものは、物事を選択できる自由・趣味を行える時間の確保・自身や他者が健康に生きていけること・仕事に対してのやりがいの4点が挙げられました。逆に変えてもよいものとしては、現在の労働形態と、他人を気にしすぎる慣習の2点が挙げられました。
 私は、(2)に関するディスカッションを通じて、自身が大切にしていきたいもの・変えてもよいものを見直すことが出来ました。社会で生きていくにはあきらめなければならないことも多くあると思います。しかし、その時に本当に大切にしたいものは何なのかを考え、選択したいと思いました。

次週は1期最後のゼミとなります。もうそんな時期なのかと驚きを隠せませんが、最後まで気を抜かずに頑張っていきたいです。お楽しみに!