2022年11月9日水曜日

2022年度後期第8回:新書報告(F班)

こんにちは。3年生のDです。おだやかな小春日和が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。すっきりとした秋晴れの日にはどこかに出かけたくなりますよね。紅葉が一段と色を増す美しい季節ですので、ぜひ皆様も日本の秋を満喫してお過ごしください。

また、これからインフルエンザが流行する時期でもあります。くれぐれも体調を崩さぬよう、体調管理を今まで以上に気をつけて生活していきましょう。さて、本日はF班の新書報告を紹介します。

Uさん:宇野重規『〈私〉時代のデモクラシー』(岩波新書、2010年)

本書は、「民主主義」が抱える哲学的な問題点を、民主主義と以前の貴族制を比較しながら解説している本になっています。特に私の印象に残った問題点は、皆平等を掲げている点です。古今東西、人間は生まれ育つ家庭や生まれ持った身体的特徴などが異なるため、人生において平等ではない点が多くあります。

貴族制の時代では、生まれた身分や家庭によって育つ環境に圧倒的な格差があることは、周知の事実であったため、平民が貴族に嫉妬したり不満を抱くことは少なかったと言います。それに対し、現代では平等ではない点や生まれ持った差があるにも関わらず、人々は皆平等であるという風潮が強いため、人々の間で嫉妬や不満、ひがみなどのネガティブな感情が生まれてしまい、幸せを感じにくくなっているそうです。これに対し著者は、生きがいややりがいなどのリスペクトを確立し、それを他者との交流を通して配分することで幸せに近づくことができると述べています。私も他人のことばかり気にしすぎず、自分に焦点を当ててアイデンティティや自分の軸をより強固にしていきたいと、この報告を聞いて感じました。

Oさん:柏木恵子『子どもという価値 少子化時代の女性の心理』(中公新書、2001年)

本書は、少子化が進む現代において、「子どもを持つ」とはどういう意味があるのかと問い、子どもという存在の価値や考え方の変化について考察している本となっています。

日本では以前から、「子どもは宝物である」というような表現をよく耳にします。これは果たして本当なのでしょうか。本当なのであれば子どもにはいったいどんな価値があるのでしょうか。という点の考察がとても印象に残りました。ある研究データによると、日本や先進国では、子どもの価値というのは、実用的な価値や経済的な価値ではなく精神的な価値であると考えられているそうです。そして、子どもを持つ理由や意味は、「跡継ぎや労働力を確保する」「子孫を残すことで社会を繁栄させる」等の社会的理由から、「単純に子どもが欲しいから」といった個人的な理由に変化しているそうです。この変化の背景として、子どもが生まれることに対する捉え方の変化が挙げられます。昔は「子どもは授かりものである」というように自然現象として捉えられていました。しかし現代では「子どもを産む」というように、主語が母親や夫婦に置き換わり、子どもは計画的に産むものであるという捉え方が増加しています。この考察を聞いて、子どもの社会的な意義が弱まったことによって、子どもを欲しくない人や子どもを育てたくても育てられない人は子どもを作らないという選択ができるようになり、結果的に少子化に繋がっているのではないかと思いました。生まれてくる子どもの幸せを考えるあまり、そもそも子ども自体が減ってしまっているのは難しい問題だと思います。

Nさん:竹田いさみ『海の地政学』(中公新書、2019年)

本書では、前半で海洋の重要性に気づき、次々と海へ進出していった国々の世界史、後半では領海や排他的経済水域などの海洋に関する法律や制度、条約などが解説されています。Nさんは、前半の国々の世界史の中から、海洋の覇権を取ったイギリスについてお話してくださいました。

まずイギリスは、大航海時代にスペインの船から人材や資源を略奪しながら、奪った人材や資源を国力とすることによって成長していきます。その後、どんどん強大になったイギリスの海軍は、アメリカ、インド、オーストラリアの海運の要所を次々と抑えることによって覇権を握っていきます。そして20世紀に入り、第一次世界大戦が始まると、世界各国は植民地との情報網を築くため、海底にケーブルを開通させ始めました。その頃イギリスはすでに世界中に海底ケーブル網を構築していました。そこで世界中の他国のケーブルを自国に繋げ、情報を傍受したり、切断したりすることで、第一次世界大戦を優位に立ちまわり戦勝国になることができたそうです。

私は、19世紀の頃からすでに海底ケーブルという電信技術が確立され、20世紀にはそれが世界中に張り巡らされていたことにまずとても驚きました。世界史を海洋という視点から見ることはとても新鮮で面白かったので、後日私もこの本を読んでみようと思います。

Hさん:原田隆之『入門―犯罪心理学』(ちくま新書、2015年)

本書は、タイトルの通り犯罪心理学という学問を初心者にもわかりやすく解説している本です。日本では、窃盗や交通違反などの軽犯罪も含めると年間240万件ほど犯罪が発生しているそうですが、これは直近10年間で減少傾向にあるそうです。罪を犯しやすい人には8つの危険因子と呼ばれる共通点が挙げられます。

Hさんの報告では、この中でも特に影響力の高い4つの危険因子を紹介してくださいました。1つ目は、犯罪歴です。犯罪歴がない普通の人に比べて、犯罪歴がある人は再犯率が高い傾向にあるそうです。2つ目は、反社会的パーソナリティです。これは、物事に対して無責任だったり、周囲への攻撃性が高かったりする人物が該当します。3つ目は、反社会的認知です。これは、犯罪に対して罪悪感や抵抗感がなく、目的を達成するためなら罪を犯しても構わないという考え方のことを言います。4つ目は、反社会的交友関係です。素行の悪い反社会的な人物と関わりが深い人は、比較的罪を犯しやすいそうです。

この報告を聞いて、犯罪心理学という学問も面白い分野だと思いました。上記の他にも、受刑者にとって人気の刑務所だったり、殺人事件の発生率だったりと興味深いデータをいくつも示してくれたためになる報告でした。

Kさん:渡辺弥生『感情の正体』(ちくま新書、2019年)

本書では、発達心理学の観点から感情の正体について、考察と解説がなされています。まず、感情の正体に関して、ジェームズ・ランゲ説というものがあります。要約すると「悲しいから泣くのではなく泣くから悲しい」ということです。つまり、泣くという身体的な現象が起こった後に悲しいという感情が生まれるという説になっています。

続いて、感情のコントロールの方法には、東洋的なアプローチと西洋的なアプローチの二つがあるようですが、Kさんは東洋的なアプローチについて紹介してくださいました。東洋的な感情のコントロールの方法として、マインドフルネスというものがあるそうです。やり方はとても簡単で、意識を呼吸に集中するだけでいいそうです。人は大人になると過去や未来のことを考えすぎて、余計な悩みや心配事をたくさん抱えてしまう傾向にあります。だからこそ今に意識を集中させ、余計なことは考えないようにすることによって、感情を上手くコントロールすることができるようになります。

この他にも、青年期に問題行動が増える要因や自尊心と承認欲求に関するお話などもあり、とても興味深い新書報告でした。


今回の新書報告は、皆さんそれぞれが全く分野の違う新書だったため、様々なジャンル、学問の知識を学ぶことができました。来週の相澤ゼミは、4年生のOさんの卒論検討会を予定しています。どんなお話が聞けるのかとても楽しみです。