2020年12月25日金曜日

2020年度後期 第12回:新書報告

こんにちは、経済学部4年Tです。寒さが厳しくなってきましたね。今回が年内最後のゼミとなります。それでは新書報告です。

相澤先生:筒井清忠編『昭和史講義【戦前文化人篇】』(ちくま新書、2019)
本書は戦前の文化人16人それぞれ注目して書かれたものです。文化人は様々で、小説家、音楽家、画家、哲学研究者、仏教研究者など多岐に渡ります。戦争という特殊な状況にあると文化人の功績は一転して汚点になり得ます。そう隠れがちな文化人を再発見できる点で意義のある一冊です。文化人を紐解くことで、昭和という時代が違う観点で見えてくるのだと思いました。シリーズで出版されているので、まずは直感的に興味が湧いたところから読んでみます。

私T
今回は先週欠席分含め、二冊報告しました。
阿部彩『子どもの貧困』(岩波新書、2008)
昨年別のゼミにて扱った新書です。貧困と聞くと衣食住がままならないことを想像するのではないでしょうか。そういった貧困を絶対的貧困といいます。裕福な国である日本では絶対的貧困には陥りにくいです。本書では相対的貧困に焦点が当てられています。相対的貧困は諸条件あるものの世帯所得およそ127万円と定義されていました。子どもは生まれてきた環境が全てです。選ぶことも、自助努力でどうにかなるものも数少ないケースです。少し前の一冊になりますが、問題提起の意義ではぜひ一読いただきたいと思います。
外山滋比古『知的生活習慣』(ちくま新書、2015)
本書は外山先生のエピソードに基づいて、いくつかの習慣を紹介されているものです。
仕事よりも生活が大事だと強調されています。確かに生活を優先していくことが、些か蔑ろになります。生活とは習慣でできています。生活習慣とは体と心の二面が存在しています。体の生活習慣をフィジカル生活習慣とし、心の生活習慣を知的生活習慣と定義していました。そんな知的生活習慣の一つを紹介します。日記付です。日記は一日の決算として書いていくそうです。様式は変えず、外山先生は博文館当用日記を愛用していたそうです。見返したときに基準となる軸がぶれないためにも、様式が変わらないほうがメリットが大きいと感じますね。

Aさん:小山聡子『もののけの日本史』(中公新書、2020)
旧世紀のもののけと人との関わりについて書かれています。もののけとは「人に害をなす正体不明の死霊」と定義されています。もののけのけは「気」から由来しており、鬼をイメージしているそうです。時代によって関わり方が変わります。職業として寄島という若い女性の霊媒が存在したり、狐を退治するビジネスがでてきたり、昨今の平和な時代では鬼太郎などキャラクター化させ娯楽として楽しんだりします。私自身オカルト的要素のものは信じていません。しかし文化として根付くのも理由があるのだとよくわかりました。

Yさん:金成玟『K-POP』(岩波新書、2018)
K-POPを聞いたことのない日本人は、とてもマイノリティだと思います。そんな親しみ深いK-POPの流行について書かれています。K-POPはアメリカのブラックミュージックを吸収したそうです。因数分解していくと、先例が集約されたものだと解説されていました。SMAPも参考にしているそうです。これらのことから、K-POPの明確な定義が難しくなっています。流行も時代の流れに沿った要素もあります。音楽がレコードからCDに変わったように、CDからダウンロードの媒体に変わっていきました。K-POPはその流れにYou Tubeの再生媒体を使って乗り切ったことも、流行の要因になります。あまり興味のなかったK-POPも理解が深まり、今までと少し違った音楽に感じそうです。

Iさん:岡田斗司夫『ユーチューバーが消滅する未来』(PHP新書、2018)
本書は2028年の世界を見抜き、どう変わっていくのか予測した内容が書かれています。20年30年スパンで考えると人間には仕事が残らないと言われています。どんな仕事が淘汰され、どんな仕事が残っていくのでしょうか。クリエイティブな仕事は意外にも残らず、AIが台頭していくそうです。反対に残っていく仕事も意外で、店員などは応用性が高い業務内容でAIなどでは対処が難しい理由から淘汰されないそうです。未来予測の3大法則も紹介します。
・第一印象主義
・考えるより探す
・中間はいらない
この3つです。直感的に意味が汲み取れないであろうところだけ補足します。「考えるより探す」は自身の答えを考えるよりも、共感性の高い答えをネット等から拾って行くというものです。3大法則も昨今の時代をよく表していると大変興味を持ちました。実際に購入したので読むのが楽しみです。

Nさん:南川高志『新・ローマ帝国衰亡史』(岩波新書、2013)
ローマ帝国はなぜ滅亡したのか、それはローマ人であるというアイデンティティの喪失と著者は訴えています。私はあまりローマ帝国について詳しくないので何とも意見し難いですが、Nさんは少し飛躍した論調だと感じたようです。ローマ人が持っていたアイデンティティは、ローマに対する誇りのようなものだそうです。誇りが生まれた背景には身分制度があったようです。身分が奴隷で生まれてきても努力により上に登れる制度であったそうです。実際に奴隷出身の皇帝がいるほどです。そのローマにゲルマン人が流入し、遊牧民族のゲルマン人はローマに馴染めなかったことで、アイデンティティが喪失しました。アイデンティティが喪失したことで、ローマ帝国が滅亡したのではと著者は考えています。

Sさん:築地達郎、京都経済新聞社取材班『ロボットだって恋をする』(中公新書ラクレ、2001)
まず恋をするという定義を自分にとってふさわしいと思う相手に同化することとしています。ただ本書はロボットと人間の共存について書かれています。Sさんはタイトルに惹かれて選書したので残念そうでした。内容は面白く、機械的なロボットというよりAIを搭載したアンドロイドのようなものに近い印象を受けました。学習する機能により、性格が形成されるそうです。扱っている人間がガサツだとそのロボットもガサツなロボットになってしまいます。ロボットは人間の子供のようなもので、扱う人間の人格もふさわしいものがあると訴えていました。ロボットも人間によっては人間不信になることもあるともありました。私の感想としては、すでにある通り面白いと思いました。しかし、2001年の本なので少し時代のブレを感じました。当時の時代に照らし合わせて読むとより面白いのかも知れません。

今回で年内のゼミが終了いたしました。今年もありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。次回は哲学書を読みます。