2020年6月24日水曜日

2020年度前期 第9回:新書報告

2020年度前期第9回
ゼミ生4年経済学部Tです。ブログも一周し私の担当が二回目になりました。今週は新書報告です。

相澤先生
山口晃『ヘンな日本美術史』(祥伝社、2012)
本書は現代美術家の視点で鳥獣戯画や水墨画を始めとした日本美術を捉えたものです。著者の感性を中心にして日本美術の魅力が語られています。事前知識のない美術品を鑑賞しても、手探りでの感じ方になります。そのため日本美術を鑑賞する上でヒント、糸口になるのではと感じました。

福田千鶴『後藤又兵衛 大坂の陣で散った戦国武将』(中公新書、2016)
本書は後藤又兵衛という武将を切り口に戦国武将の在り方が書かれています。ゼミ生のSさん曰く、戦国を舞台にしたゲームでは定番の人物だそうです。私は日本史に疎いため、後藤又兵衛を初めて知りました。

三鬼清一郎『大御所 徳川家康 幕藩体制はいかに確立したか』(中公新書、2019)
先生が読了されていないため表現を濁します。本書は徳川家康の後半生の生き方が書かれているようです。先生は日本史を様々な角度から見ることで「歴女」の夏にするそうです。

Mさん
草野真一『SNSって面白いの? ―何が便利で、何が怖いのか―』
(講談社ブルーバックス、2015)
著者は、SNSの成り立ちを追いつつ、SNSに肯定的な立場を表明しています。
本書では権力が5つあるとされています。いわゆる三権の司法、行政、立法に加え、4番目の権力がマスメディア、5番目がSNSです。ときにSNSは国を動かす力さえあります。SNSは強い権力であると意識が鈍くなってしまいがちだと思うので、権力の1つだと自覚が必要だと考えさせられました。本書の内容と関連して、SNS黎明期の様子を描いた2010年の映画『ソーシャルネットワーク』を相澤先生が勧められました。

Aさん
田中修『植物はすごい』(中公新書、2012)
メディアでも露出している田中氏の本です。一見意思のない植物の生き方を体系的に紹介されています。植物は守る手段として棘や毒、抗酸化物質を持ちます。棘は身を守る以外にも移動にも使われます。また毒を持つ植物は不作時にも食べられるものもあり、救荒植物と呼ばれます。例えば、救荒植物のヒガンバナは水につけることで毒が抜け、食べることが可能です。また、植物は光合成を行っています。しかし、太陽光の紫外線はCO2の割合に対し植物の必要な量を超え、活性酸素になり残留します。端的に言えば動物が日光を浴びることと同じです。日光が強いため植物は光合成でエネルギーをすべて酸素へ還元できず、紫外線のダメージを負います。そこで、植物の抗酸化物質(アントシアニン、カロテン)を体内で生成し過酸化を防ぎます。人間にもアントシアニン、カロテンは有効です。私は植物の凄さよりも、強さが分かりました。

Nさん
国立がん研究センター研究所『「がん」はなぜできるのか』(講談社ブルーバックス、2018)
今日では二人に一人が「がん」になるといわれています。そんな国民病となりつつある「がん」を取り上げた本です。未だに不治の病というイメージが根強い「がん」ですが、有効な治療法が増えています。しかし普通の検査では早期発見が難しい現状にあります。早期発見ができなければ、治療の難度も高くなってしまいます。悪い生活習慣とされるお酒、たばこによって免疫の作用が阻害を受け、がん細胞の増殖を抑えられず「がん」ができます。お酒、たばこ以外にも塩分過多の高血圧、運動不足や肥満も「がん」の原因に数えられます。私も最近は怠慢な生活を送っているので、改めて生活習慣を見直す機会になりました。

T(今回ブログ担当者)
森生明『会社の値段』(2006、ちくま新書)
コンサルティングファームを渡り歩いた森生明氏の本です。本書では著者のM&Aの経験から、会社の値段の出し方や考え方が書かれています。著者は会社の値段を図る手段として時価総額MV、企業総価値EVまた適正を図るPERを用います。時間が足りず発表では触れられませんでしたが、日本式の考え方米国式の考え方の比較もありました。それぞれ会社の価値への考え方が違っており、日本式は顕著に定性的、米国式は顕著に定量的であるとわかりました。本書は2006年に出版されているため、2020年の現時点と重なる部分と異なる部分も楽しめます。根幹の会社の値段については大きく考え方が変わっていないと思います。私の感想として個別株式の購入を検討している場合は一読するのがおすすめです。

Iさん
浜田寿美男『自白の心理学』(岩波新書、2001)
皆様は身に覚えのない疑いをかけられたことがありますか?Iさんは本書を読むまで、「身に覚えのない疑い」をかけられても「嘘の自白」をしない自信を持っていたようです。浜田寿美男氏は冤罪事件に関わってきた際、取調べの過程を分析しました。その分析によれば、問題点は取調べの環境にあるそうです。具体的には、取調室が密室であることや容疑者が犯人であると確信しているという点です。容疑者は、精神的に追い詰められ、孤独感ゆえ犯人の振りもしてしまいます。冤罪の疑いなので、証拠も矛盾した箇所も出てきます。しかし取調官は上手く捏造し矛盾点も消します。本書で分析された時代(2001)と異なり、現在は取調べの録画も行われているようです。取調べの録画について現代法学部のゼミ生Mさんへ現代の取調べについて情報を補足してもらいました。Mさんは、未だに残る課題として、取調べのすべてが撮影されるわけではなく場面が限られている点やカメラワークが悪く大事な場面の詳細がわからないことがある点を挙げてくれました。私は発表を聞いて、20年近く経過していても明確に問題が改善されていないこともわかりました。

Sさん
岩田誠 『上手な脳の使いかた』(岩波ジュニア新書、2016)
脳の仕組み、育ち方、使い方が書かれた本です。本書では大きく脳は大脳、小脳、脳幹の3つの部分からなると紹介されていました。特に大脳皮質の内側にある大脳辺縁系の海馬では記憶や学習を司っています。記憶をつくることを「記銘」と呼びます。本書では、海馬で優位に記銘させる方法が紹介されています。まず前提として本書に書かれている記憶の種類には以下の3つがあります。

・エピソード記憶(陳述記憶)
いつどこで何があったといった体験の基づく記憶
・意味記憶(陳述記憶)
モノの名前や公式といった学んで覚えた知識のこと
・手続き記憶(非陳述記憶)
運動の動作や絵の描き方といった技能に関する記憶で、実際に手や体を動かさなければ身につかないもの

中でも「エピソード記憶」が強い記銘が可能です。エピソード記憶は自分の体験がもとになるため、それだけで強いインパクトがあります。そのため海馬だけでなく、脳のいろいろな部分に送り分散し蓄えると考えられています。記憶を蓄える場所については詳しくわかっていません。また活用以外にも脳を有効に使うために休めることも重要です。本書では90分サイクルでの勉強がおすすめされていました。そういえば大学の講義と同じ時間です。いささか長いと感じていた講義が、理に適っていたみたいです。

私たちゼミ生も新書報告に慣れてきました。報告に際して先生から3分の使い方、新書で得た知識と自信の見解のバランスのアドバイスを頂きました。私は3分でまとめるのが難しく感じています。報告は必然と情報の取捨選択が迫られます。今回改めて読み解く力と伝える力を兼ね備え、同時に醸成させなければと課題を感じました。

来週も新書報告を行う予定です。