2021年12月22日水曜日

2021年度後期第12回:グループワーク「日本の教育はダメじゃない」!?

 こんにちは。ゼミ生のIです。今回のゼミは「『日本の教育はダメじゃない』を読む」というテーマでグループワークを行いました。

小松光、ジェルミー・ラプリー『日本の教育はダメじゃない ―国際比較データで問いなおす』(ちくま新書、2021年)は日本の学校教育について国際比較データを使いながら相対的に理解していき、日本の学校教育は本当にダメなのかを現実的な視点で考え、実際は「日本の教育はダメじゃない」と主張する本です。

ゼミ生は事前にこの本を各自入手し、本のメッセージを意識して大事に思われるところに印をつけながら読了したうえで今回のゼミに臨んでいます。1つの本をみんなで読んでグループや全体で考えをシェアすることで本の内容理解を深めていくことが狙いです。初めに3つのグループに分かれて意見を出し合い、その後グループで出た意見を全体にシェアをしていきます。以下の問いを順番にディスカッションする形でグループワークを進めました。

  1. 驚いたこと、意外だったこと
  2. 印象に残ったデータ、大事だと思ったデータ
  3. 著者たちのメッセージはなにか
  4. 本の内容や著者たちのメッセージについて考えたこと

1の問から順に、グループワークで出た意見を紹介します。

まず初めに、「驚いたこと、意外だったこと」です。各班の発表を聞くと、驚きに二種類があることが分かりました。一つは他国の現実を知っての驚きです。もう一つは、私たちが持っている日本のイメージと現実のギャップへの驚きです。

多数あげられた驚いたポイントの中で特に口をそろえていたのは、アメリカの学校の授業時間の長さについてです。ゼミ生の多くが、ドラマや映画の影響でアメリカの学生は自由を謳歌していそうなイメージを持っていました。しかしアメリカの学校は授業時間が長い国のトップであることがデータから分かりました。

一方で日本人は勉強時間が他国よりも断然と短く、また日本人は勤勉な国民性だと思っているけれど、アメリカ人からはそうは思われていないことがわかりました。自国のイメージは外から見るとまるで違うことがよくわかる例でした。

その他にも、日本では授業に別解も教えるが世界はそうではないことや、日本のように体育の時間が無い国の存在、日本人は創造力が欠けているのではなくむしろ高いこと等がありました。相澤先生は、ノルウェーやスウェーデンのテストの点数が国際的に見て低いデータから、北欧は日本にとってお手本の国としていことが多いが、現実は日本よりもすごいわけではないとコメントしていました。

私は、内側からでは正しい現実を知ることが難しい、つまり自国を知るのには世界と比べる必要があるということが分かりました。

続いて「印象に残ったデータ、大事だと思ったデータ」についてです。日本の先生の忙しさは世界と比べてずば抜けていること(164頁 )、日本は別解等授業の工夫があり質が高い授業であること(101頁)がわかるデータの他、

  • 日本のいじめは国際的に比較すると少ない(126頁 )
  • 自信と実際の学力は関連しない。日本は自信がないが学力は高い(113頁)

も挙げられました。

私は先生の長い労働時間が授業の質に関連しているのではないかと考えました。また、国内のいじめ問題の多さを世界と比較すると、問題の大きさの程度を測る物差しが変わり興味深かったです。

続いて、ゼミ生が本から「著者たちのメッセージをどう読み取ったのか」を紹介します。ゼミ生の多くが、データを正しくみることや、日本の現実を理解するためには、内側から見るだけでなく、外側から見ることが必要であることを著者たちのメッセージとして読み取っていました。本書に出てくる数々の国際比較データから、日本の教育が悪いという主張はデータに基づいていないことを確認しました。

相澤先生は64頁の記述をふまえて、「データはわかりやすさで支持しない。わかりやすさを信じてはいけない。白黒を明確にするようなわかりやすい話は信じてしまいがちだが、物事はそんなに単純ではない。1か100かではなくグラデーションである。」とおっしゃっていました。

私は著者のメッセージや相澤先生のコメントから、物事は1か100の問題ではなく複雑であり、物事を正しく把握する方法の一つがデータを見ることなんだと気付きました。

最後に、ゼミ生が「本の内容・メッセージを受けて考えたこと」を紹介します。「問題をゼロにするのではなく、減らしていくことが大切だ」や、「俯瞰的に物事を見ることが大切だ」と考えたようです。印象深かったのは、「この本自体からも距離を取る」という考えです。すなわち今の当たり前から少し距離を取ることが大切で、そのためには外部との接触の機会を意識的に作ることや、きっかけづくりを意識的にすることが大切だということに気が付きました。

さらに、教育問題は子どもの問題ではなく大人側の問題であるということにも気付いたゼミ生が多かったです。「大人が子どもたちにどういう大人になってほしいのか」、「これからの社会にどういう人が必要なのか」が教育方法に反映されるということです。このことから相澤先生は、「教育問題だけに限らず、『どういう社会に生きていきたいか』という価値観の話題に全てつながっているのではないか」とおっしゃっており、気付きを深めてくださいました。

私は本書に出てくる国際比較データを見ながら自分がこれまで受けてきた教育を振り返ると、国際的にみても質の高い授業を受けてきたことを誇りに思いました。これから教育を受ける子どもたちや、現在教育を受けている子供たちが同じように質の良い教育を受けられるように、国際比較データを使った教育政策について議論がなされることを期待したいです。

今年一年間お疲れさまでした。ゼミに入るまでは本を読む習慣が全くなかった人が多いゼミですが、この一年間で本を読むことに少しでも慣れたのではないかと思います。これから冬休みに入りますが、ゼミが無くても本を読んでいきましょう!

良いお年をおむかえください!