2020年10月21日水曜日

2020年度後期 第4回:新書報告

 こんにちは、ゼミ生4年経済学部Tです。寒くなり、上着も徐々に厚手に変わりますね。ゼミは変わらずオンラインで行っています。今週は新書報告です。それぞれご紹介します。


相澤先生:小塩真司『性格とは何か より良く生きるための心理学』(中公新書、2020)

著者は心理学の研究者です。本書は性格を紐解き、人生をよりよく生きるために役立つ心理学的知見を紹介しています。

まず読者の皆さんは、性格と聞いて何をイメージしますか?温厚、優しい、真面目…すぐ思いつくだけで数多くありますね。これらを分解していくと5つの要素で表現できます。学問上、“BIG5理論”と呼ばれます。以下がその5つの要素です。

・外向性:活発さ、元気さ

・神経症傾向:心落ちつかない感じ

・開放性:外への関心、興味の強さ

・協調性:他者とうまく付き合う性質、調和性

・勤勉性:真面目、計画的、誠実性

各人の性格とはこれらの要素に濃淡がついたものになります。自己分析ツールとしても広く活用されていることで有名です。また性格に優劣はないものの、勤勉性の強い人には好印象・仕事ができる人が多い傾向があるようです。直感的に好印象は調和性の影響が強そうだったので、勤勉性の強さで好印象に感じるのは意外ですね。日々、勤勉に務めなくてはと戒められました。


Nさん:武村政春『生物はウイルスが進化させた』(ブルーバックス、2017)

本書はウイルスの特性や起源を扱う内容でした。一般にウイルスは、生物が派生してできたものだとされています。著者は反対にウイルスが派生し生物ができたと主張しています。前提、ウイルスは生き物と定義されていません。ここでウイルスと生物との差について触れます。細胞性生物の遺伝子情報はDNA、ウイルスの遺伝子情報はRNAの塩基配列に保管されています。生物は自分でタンパク質を分解し増殖でき、ウイルスはできません。ウイルスの特徴の一つは、遺伝子の平行移動をさせることです。遺伝子の平行移動とは遺伝子情報をコピーすることで、これによって種を超えた遺伝子を媒介します。最後に著者は、ウイルスは目に見えないがたしかにいる、と締めくくり、これまで目を向けていなかったものに、目を向けることがときに必要だと訴えています。


Iさん:堀井令似知『ことばの由来』(岩波新書、2005)

本書は「指切りげんまん」を始めとした、字面ではルーツが推測できないような日本語表現の由来を説明しています。

「指切りげんまん」は約束を交わすときに使う言葉ですよね。みなさんも「指切りゲンマン、嘘ついたら針千本飲まそ」を一回とは言わず何度も使ってきたことでしょう。余談ですが、私は語尾を「飲ます」と使ってきました。耳で聞いたまま使っていたからだと思います。結論、「指切りげんまん」の由来は諸説あります。今回はその一説を紹介します。「指切りげんまん」を表す略語として、ユビキリやゲンマンが使われています。略語から言葉を分解して由来を追っていきます。ユビキリとは指を切ることから来ているのではとされています。遊女が相愛客に誓いの証として小指を贈ったそうです。ゲンマンとはゲンが拳、マンが万回、嘘をつけば拳で万回打たれるという意味に由来するそうです。どちらも穏やかではありませんね。

本書では詳しく取り上げられていませんでしたが、「胡座をかく」と「ベソをかく」の「かく」という動詞は同じ使われ方をしているようです。言葉の使い方は地方によって、同じ意味でも字が異なったり、同じ熟語でも意味が異なったりします。足を組んで床に座る姿勢が胡座なので、「かく」の動詞部分が座る意味になります。「ベソをかく」の「かく」が涙を流すという動詞になるので、意味が合いませんよね。こういった共通して使われる言葉にもなぜ?と不思議になります。日本語が難しいと評判なのは、こういった由来による背景もあるからだと感じます。


Sさん:辛島昇『インド・カレー紀行』(岩波ジュニア新書、2009)

カレーの語源をご存知ですか。17世紀のインドの“カリル”というスープから始まったようです。本書にはドーサやサンバルのレシピも書かれていて、インドの食文化についても取り上げられています。今日の日本のカレーは、イギリスによって輸入されました。南インドの米と食べるカレーが日本カレーのルーツです。ルーツの違いで、イギリスでは一般にカレーのことを“カリー&ライス”、アメリカでは“カリー”と呼びます。余談ですが、私がアルバイトをしている飲食店では、“カリー”と呼称しています。

相澤先生はインドがとても好きみたいで、カレーの味について地域ごとにレビューを共有されていました。同じ国の料理でも地域によって味の付け方が全く異なる特徴を持つようでした。先日のゼミでインドのトイレ事情についても触れられていたので、一層インドに興味が深まりました。


私T:竹田いさみ『世界史をつくった海賊』(ちくま新書、2011)

本書はイギリスのエリザベス女王政権下の海賊の活躍について解説されています。総じて、教科書で学んできたよりも、実際の歴史には卑怯なことが横行しているなと感じました。決して悪い意味ではなく、世界史で学んできた内容はポジティブな側面を取り上げてるので、仕方ないのだろうと思います。正々堂々の姿勢だけでは、勝てない現実があったのでしょう。海賊のように卑怯な活動も、必要悪だったのかもしれません。

歴史に出てくるこの時期のイギリス冒険家は、概ね海賊でした。国がバックで密かに援助して、海賊行為が行われていたようです。世界周航を初めて達成したマゼラン艦隊は有名ですが、マゼランは周航を遂げず亡くなってしまいます。指揮官として艦隊の世界周航を成功させたのは、イギリスのドレークが初めてです。ドレークは英雄として当時のイギリスでも取り上げられるものの、実態は海賊でした。ドレークを始めとした海賊を後援し、影で暗躍していたのはエリザベス女王です。当時エリザベス女王はヨーロッパでの地位は低く、スペインやポルトガルに引けをとっていたため、海賊を活用したようです。

その他、海戦や貿易で海賊は活躍します。世界史の教科書には記載されないダークサイドも史実として存在し、それが支えている歴史が存在することを知って大変興味深かったです。


Mさん:中川寛子『東京格差』(ちくま新書、2018)

本書は不動産価値に注目します。2040年には日本全体で40%と不動産価値が落ちると言われる中で、企業や自治体が不動産の価値維持できる地域にスポットをあて、自助努力や企業努力により価値が維持・向上する街とそうでない街との差が、なぜ、どうして生まれるのか解説しています。

企業による地域の価値が上昇した例として、東急グループによる駅を中心とした街づくりが挙げられていました。高級住宅地は元来お手伝いさんの存在を前提に作られてきました。その結果、現在でもコンビニやスーパーが少なく、現在では不便な街となり需要が低下しています。東急グループは駅周辺に街機能を集約することで、高級住宅街で起きている弊害を取り除いています。ある種コンパクトシティに近い街づくりを行うことで、課題を解決できる取り組みです。

Mさんが企業や自治体が不動産価値を高めると話していた際、恣意的ではと疑いつつ聴いていました。しかし内容は良い意味で裏切られます。そうではなく、不動産価値は地域の改題解決の副産物的についてきたものだとわかりました。中長期的に住む場所を選ぶのに、一読したいと思います。


Aさん:島田裕巳『疫病vs神』(中公新書ラクレ、2020)

疫病の正体がわかるまでの医学は意味をなしていませんでした。疫病の正体がわからない時代の処置やその意図、背景が書かれている一冊です。

中世の黒死病では、ヨーロッパの30%の人々が亡くなりました。疫病に対し当時の医学では、悪い血を抜くという意味で100cc~1000ccほど血液を抜いて「治療」していたそうです。私のような素人でさえ、意味がないなとわかります。また待機療法で治るまで安静にするという処置法もありました。血を抜くよりは有意義ですが、これも現代では疫病にかかって病院で何も治療されないのは想像できませんね。

日本では疫病が祟りから起きていると考えられ、神仏に祈ることや改元することで疫病と戦っていました。また、疫病の蔓延に妖怪が関わっていたとの考えもあったそうです。今日のように西洋医学が発展しなければ、疫病は神様にお祈りして対処していたと思うと感慨深くもなりました。


新書報告も回数を重ね、関連する内容も増えてきました。関連する内容が増えたことで、知識や考え方が体系的に醸成されてきたなと感じています。今回のブログは以上です。次回も新書報告が続きます。