2025年10月22日水曜日

2025年度 後期第5回:新書報告

 こんにちは。経営学部4年のCです。10月下旬であっという間に寒くなり、冬を感じさせる季節となりました。皆さん、季節の変わり目にはくれぐれも体調をお気をつけください。ちなみに、個人的な話になりますが、秋服を揃えたのに直ぐに冬が来てしまったことにショックを感じています。衣替えの季節でもありますが、皆さん暖かい格好をしてお過ごしください。

さて、今回はD班による後期2回目の新書報告です。

Eさん:三宅香帆『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』新潮新書、2025年

本書は、話が面白い人の会話の技術とそれを活かした著者のエピソードトークで構成されています。

まず、タイトルにもある通り、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』について著者は5つの観点を提示してくれました。その5つとは、比較、抽象、発見、流行、不易です。「比較」は作品と他の作品の比べることで、「抽象」はテーマを言葉にすることを指しています。言語化すると言った方が分かりやすいかもしれません。また、「発見」は作品において新たな発見をすること、「流行」は時代の共通点を見つけることを指しています。最後に、「不易」は普遍的テーマとして語ることを指していますが、具体的にはあるジャンルの作品(映画など)を観ていると、ある程度展開が読めてくるそうです。ですので、作品におけるテーマの共通点は何かと考察することが挙げられます。

また、著者は「作り手が何を伝えようとしていたのか」を考えるための鑑賞ノートを作ることをオススメしていました。自分の解釈を通すことで、同じ作品を二度楽しめるようになるそうです。

報告を聞いて私は、『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』の回答として、話し手の喋り方よりも感じ方に焦点を当てている内容だと思いました。確かに、「何をどう話しているのか」ではなく、「何をどう読んでいるのか」というタイトルですので、作品における感じ方、考え方の技術を学ぶものだと納得できました。また、鑑賞ノートはこれから実際に行ってみたいと思いました。

Yさん:伊藤公一郎『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』光文社新書、2017年

本書は、データ分析の手法と思考法に関する内容となっています。

その中で、相関関係を因果関係のごとく報道するニュースや操作されたデータに惑わされないように、データ分析は詳しく理解する必要があると著者は述べていました。

また、具体的なデータ手法としてRCT(ランダム化比較試験)があります。RCTとはその名の通り、ランダムにデータを抽出しその平均を求めることを指します。

このデータ手法を行う前提として、同じ時間、タイミングで二つの検証はできないことが挙げられます。(実際は、一つの実験を行ってから時間を巻き戻して別の実験をするのが理想的ではあるか事実上不可能です)

その故に、ランダムにデータを抽出し平均を算出することでより正確なデータを得ようとしています。ただ、問題点としてお金と手間がかかることが挙げられるそうです。

このコストがかかる問題点を解決するために生まれたのが、RDデザインという手法です。

RDデザインは、場を用意するのではなく、用意された場で実験を行うことを指します。これにより、自然に場が用意されているのでお金や手間をかけずに検証を行うことが可能になります。しかし、問題点としてランダムではないので反論の余地は残されているそうです。

発表では二つのデータ分析を挙げていましたが、データは簡単に信用してはいけないと著者は述べていました。

報告を聞いて、相関関係と因果関係の話は私自身気をつけなければならないと感じました。例えば、頭が良い人は勉強を沢山しているかについて考えてみると、確かに勉強量と学力は比例しているように見えます。しかしながら、実際はその勉強量を実現するために親の経済力や周りの環境が重要である可能性があると思いました。

相関関係を因果関係のように解釈してしまうことは、一見すると根拠のあるように見えますが、実は偏見なのかもしれないと私自身気付かされる発表でした。

Cさん(私)の報告:笹原宏之『謎の漢字』中公新書、2017年

本書は謎の漢字について研究された本です。パソコンやスマホの電子機器で打つことのできる漢字は全てJIS漢字に登録されています。このJIS漢字を詳しく調べてみるとどこで使うか分からないような漢字も存在します。ではなぜ、このような漢字がJIS漢字に登録されているのか、本書の第一章ではそれを解説しています。

「嫐」という漢字は「うわなり」と読みますが、この漢字はなぜJIS漢字に登録されているのでしょうか。

その理由は、ある地名に使われているからです。熊本県にある「嫐迫(わなんざこ)」に使用されているそうです。この「わなん」という読みは「うわなり」が訛って、誕生した読みでこの地名以外に使用された用途はありません。

このように、ほとんどの謎めいた漢字はある地名で使われているからこそ、文字化けしないようにJIS漢字に登録されているそうです。

本書を読んで私は、漢字は調べれば調べるほど奥が深いと感じました。本書では幽霊文字や方言漢字、則天文字も取り上げていましたが、流石に漢字自体の歴史が深いだけあって情報がいつまでも完結しない実感がありました。

しかし、学びがいがあるコンテンツなので、私からもオススメします。余談ですが、漢字が好きな人は「漢字でGO」というゲームがあるので、そちらも併せてやってみてください。

次回は「みんなで同じ本を読む回」になります。

2025年10月15日水曜日

2025年度 後期第4回:新書報告

 こんにちは。現代法学部4年のTです。少しずつ肌寒い季節になってきました。近年は秋が短いと言われがちですが、今年は少し長めの秋を感じられるのではないでしょうか。この季節感が少しでも長く続いてほしいと思うところです。さて、今回はF班による新書報告です。

Sさん:島宗理『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」』光文社新書、2010年

本書は、人がなぜ遅刻するのかという素朴な疑問を起点に、行動分析学の視点から人間の行動の本質に迫る一冊です。著者は、遅刻の原因を一般的に言われる「性格」や「だらしなさ」として片付けるのではなく、先行事象と後続事象という行動分析学の枠組みで捉えるべきだと主張しています。

「約束の時間に遅れる」という行動を例に取ると、寝坊した、寄り道したといったものが先行事象に当たり、その結果怒られた、特に何も起こらなかったといったものが後続事象に当たります。先行事象を深掘りすると習慣化に辿り着きます。遅刻の常習犯は遅刻自体が習慣化しているとのことでした。特に遅刻した結果怒られるといったマイナスな後続事象が起きない場合は習慣化しやすいそうです。遅刻する人に対して怒らないのは、そうした遅刻の習慣化を誘発してしまうことになりかねず、注意すべきという指摘がありました。当の本人が遅刻癖を直すためには、遅刻しない習慣をつけるべきだそうです。例えば、遅刻の原因が寝坊である場合は、朝起きるのが楽しみになるようにするといったポジティブな動機付けが効果的だそうです。

この報告を聞いて、私自身は、やはり性格やだらしなさも遅刻の原因と言えるのではないかという疑問を抱きました。遅刻の常習犯は遅刻という行動自体が習慣になっているとの話でした。これは遅刻程度では罪悪感を覚えない性格であるとも解釈できると思います。

しかし、行動分析学の視点は、原因を内面的な資質に帰するのではなく、「寝坊」や「夜更かし」といった具体的な先行事象に焦点を当てています。そしてそれを変えるための行動療法に結びつけている点で、実践的だとは感じました。性格そのものを変えるのは難しいですが、習慣を変えることは可能です。遅刻の原因が「先行事象」にあるとするこの考え方は、「遅刻癖を直す具体的なステップ」を提示してくれる点で有意義な報告でした。

自分(T)の報告:池上正樹氏『ルポ ひきこもり未満 レールから外れた人たち』集英社新書、2018年

本書は、引きこもり当事者、その一歩手前まで追い詰められた人達、そして引きこもりと就労を繰り返す人たちの取材を通じて、家庭環境、支援のあり方、社会制度の構造的な問題を明らかにする一冊です。

著者は、引きこもりの大きな原因として家庭環境の悪さを挙げています。取材を受けた方の多くは、家庭環境や経済状況に問題を抱えていたそうです。また、家庭環境が悪い子どもたちはいじめに遭いやすく、学校生活で十分なコミュニケーションを取れないために、平均的なコミュニケーション能力を身につけられない傾向にあるそうです。そのため、就職活動で行き詰まるケースが多いとのことでした。

ここで、本書で取り上げられた引きこもり当事者Aさんのケースを紹介します。

Aさんは、機能不全家族(ネグレクト・精神的虐待)で育ち、中学生時代は神経症により不登校、高校も中退と大変な学生時代を送ります。その後、アルバイト・派遣社員としての生活を繰り返すも、リーマンショックでの解雇を機に生活保護受給者となります。彼の人生を振り返ると、幼少期の家庭環境が人生に与える決定的な影響が大きいとわかります。

また、Aさんは30代~50代の稼働世代に対する社会的な孤立防止や再就職支援の仕組みが不足していると訴えています。当時の引きこもり支援は「子ども・若者育成支援推進法」が法的根拠とされ、支援のゴールは「就労」とされ「39歳以下の若者就労支援」に重きを置いていました。しかし、本書で取り上げられた人の多くが40歳以上であり、相談に行っても「支援の対象外」と突き放されたそうです。

Aさんは次のように語っています。「どうして線を引いちゃうんだろう?支援側の都合で決めた対象に当てはまる人だけが利用できる。39歳と40歳の間で、人として何が違ってくるのだろうか?」この語りは、行政の縦割りや画一的なルールが、本当に支援を必要とする人々を切り捨てている現状を象徴しており、非常に印象的でした。

本書はかなりヘビーな内容となっており、SNSでキラキラとした生活が目に入りやすい分、現実に起こるこうした問題とのギャップに、読んでいて息がつまる感覚を覚えました。

仕事を失い、貯金を食い潰し、家賃すら払えなくなる人達の中には、住む家がないことを理由に採用を断られ、仕事が決まっていないことを理由に賃貸契約を断られるという、まさに八方塞がりの状態に陥っているケースがあります。もちろん、生活保護受給者として生きていくことはできるでしょう。しかし、生活保護の受給率は貧困層の数と比べたとき明らかに少ないのが現状です。生活保護を受給することへ抵抗感だけでなく、本来使えるはずの人たちに十分な情報が届けられていないのではないかと思います。また、相談に行っても突き放されたり、下に見られたりすることもあり、足が向かなくなるケースも考えられます。

Aさんも語るように、本来こうした制度は困っている人がシンプルに使えるようになるべきです。もちろん不正受給といった問題も起こる得るでしょう。しかし、そちらに気を取られて受給すべき人が受給できなくなっていては、本末転倒だと感じます。

教育や就労、高齢者や障害者への福祉、どれもがお役所的なルールで運用されています。そのため、一旦そこから外れてしまった者が復帰するのは絶望的に困難だとわかる内容でした。果たしてこうした問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか?今後も似たようなテーマで読書活動を続けたいと思いました。

今回のゼミでは欠席者も多く、口頭報告者は2名と少し寂しい回でした。体調管理を徹底し、次回のゼミはより盛り上がる報告会になればと思います。次回はD班の新書報告です。

2025年10月8日水曜日

2025年度 後期第3回:新書報告

 こんにちは。経営学部3年のMです。朝晩の冷え込みが少しずつ強まってきましたね。体調を崩しやすい時期ですので、どうかお身体に気をつけてお過ごしください。今回はE班による新書報告を紹介します。

Hさん 中野円佳『教育にひそむジェンダー』ちくま新書、2024年

 本書は、多様性を尊重する社会的な流れと、日常生活にいまだ根強く残る性別に関する偏見や固定観念との乖離を、教育の観点から考察した一冊です。

 著者によると、人は生まれてから成長する過程で、親や社会から無意識のうちに性別によるイメージを刷り込まれていくといいます。Hさんはその例として、小学生のランドセル選びを挙げました。「男の子がピンクのランドセルを選ぶのは変だ」という社会的イメージはいまだに残っており、Hさん自身も希望した色を両親に反対された経験があるそうです。

 さらに、性別による大学進学への親の期待の違いについても触れました。古い考え方ではありますが、「女性は家庭に入るのだから大学へ行く必要はない」といった価値観が今も一部に存在しており、Hさんの身近にもそうした考えを持つ親のもとで育った友人がいるといいます。

 私は、幼いころからの周囲の言動や環境が、本人の進路や自己イメージの形成に深く影響することを改めて感じました。Hさんの発表を通して、多様性を実現するためには、こうした無意識の偏見を自覚し、見直していくことが大切だと強く思いました。

Kさん 岡田尊司『不安型愛着スタイル』光文社新書、2022年

 不安型愛着スタイルとは、他人からの評価を過度に気にしたり、親しい人が自分から離れていくことを強く恐れる心理的傾向を指します。愛着スタイルにはいくつかのタイプがあり、それらは幼少期の親との関わり方によって形成されるといわれています。不安型愛着スタイルの人は、男性で約15%、女性で約20%とされています。

 この傾向の原因の一つとして、親との関係が挙げられます。遺伝的な影響もあり、不安型愛着スタイルの子どもの親自身も、同じ傾向を持つ場合が多いそうです。特に0〜2歳の時期に、親から十分な愛情を受け取れないと、不安型愛着スタイルになる可能性が高まるといわれています。オキシトシン(愛情ホルモン)のバランスが崩れることで、分離不安や「人が離れていくのではないか」という不安にとらわれやすくなるそうです。

 予防や改善の方法としては、完璧を求めすぎないことや、親以外にも安心できる「安全基地」を見つけることが大切だとされています。

 Kさんの発表を聞き、将来もし自分が親になる時には、子どもとの関わり方に大きな責任が伴うことを改めて実感しました。

Iさん 三好彰『花粉症を治す』PHP新書、2003年

 本書は、花粉症の概要やその症状を和らげるための対策についてまとめられた一冊です。

 花粉にはアレルゲンと呼ばれる成分が含まれており、それが体内に入ると免疫が反応し、くしゃみや鼻水といった症状を引き起こします。花粉症は正式には「アレルギー性鼻炎」と呼ばれています。

 日本では、約60種類の花粉が花粉症の原因として報告されています。一般的に知られるスギやヒノキのほか、イチゴやピーマンなどの植物も原因となる場合があるそうです。日本のスギの多くは、戦後に木材需要の高まりを受けて植林されたものです。山の保全や住宅建設のために安価で生産しやすいスギが選ばれたことが、その背景にあります。

 花粉症の対策で最も重要なのは、花粉との接触をできるだけ減らすことだとされています。具体的には、花粉症対策用のマスクを着用したり、髪に花粉が付きやすい長髪の人は帽子をかぶるなどの工夫が効果的です。Iさん自身も花粉症に悩んでおり、花粉症マスクを試してみたいと話していました。

 今回の報告では実生活に基づいたものが多く、聞いていてためになるものが多いと感じました。次回はF班の新書報告です。