こんにちは。現代法学部4年のTです。少しずつ肌寒い季節になってきました。近年は秋が短いと言われがちですが、今年は少し長めの秋を感じられるのではないでしょうか。この季節感が少しでも長く続いてほしいと思うところです。さて、今回はF班による新書報告です。
Sさん
島宗理『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」』光文社新書、2010年
本書は、人がなぜ遅刻するのかという素朴な疑問を起点に、行動分析学の視点から人間の行動の本質に迫る一冊です。著者は、遅刻の原因を一般的に言われる「性格」や「だらしなさ」として片付けるのではなく、先行事象と後続事象という行動分析学の枠組みで捉えるべきだと主張しています。
「約束の時間に遅れる」という行動を例に取ると、寝坊した、寄り道したといったものが先行事象に当たり、その結果怒られた、特に何も起こらなかったといったものが後続事象に当たります。先行事象を深掘りすると習慣化に辿り着きます。遅刻の常習犯は遅刻自体が習慣化しているとのことでした。特に遅刻した結果怒られるといったマイナスな後続事象が起きない場合は習慣化しやすいそうです。遅刻する人に対して怒らないのは、そうした遅刻の習慣化を誘発してしまうことになりかねず、注意すべきという指摘がありました。当の本人が遅刻癖を直すためには、遅刻しない習慣をつけるべきだそうです。例えば、遅刻の原因が寝坊である場合は、朝起きるのが楽しみになるようにするといったポジティブな動機付けが効果的だそうです。
この報告を聞いて、私自身は、やはり性格やだらしなさも遅刻の原因と言えるのではないかという疑問を抱きました。遅刻の常習犯は遅刻という行動自体が習慣になっているとの話でした。これは遅刻程度では罪悪感を覚えない性格であるとも解釈できると思います。
しかし、行動分析学の視点は、原因を内面的な資質に帰するのではなく、「寝坊」や「夜更かし」といった具体的な先行事象に焦点を当てています。そしてそれを変えるための行動療法に結びつけている点で、実践的だとは感じました。性格そのものを変えるのは難しいですが、習慣を変えることは可能です。遅刻の原因が「先行事象」にあるとするこの考え方は、「遅刻癖を直す具体的なステップ」を提示してくれる点で有意義な報告でした。
自分(T)の報告
池上正樹氏『ルポ ひきこもり未満 レールから外れた人たち』集英社新書、2018年
本書は、引きこもり当事者、その一歩手前まで追い詰められた人達、そして引きこもりと就労を繰り返す人たちの取材を通じて、家庭環境、支援のあり方、社会制度の構造的な問題を明らかにする一冊です。
著者は、引きこもりの大きな原因として家庭環境の悪さを挙げています。取材を受けた方の多くは、家庭環境や経済状況に問題を抱えていたそうです。また、家庭環境が悪い子どもたちはいじめに遭いやすく、学校生活で十分なコミュニケーションを取れないために、平均的なコミュニケーション能力を身につけられない傾向にあるそうです。そのため、就職活動で行き詰まるケースが多いとのことでした。
ここで、本書で取り上げられた引きこもり当事者Aさんのケースを紹介します。
Aさんは、機能不全家族(ネグレクト・精神的虐待)で育ち、中学生時代は神経症により不登校、高校も中退と大変な学生時代を送ります。その後、アルバイト・派遣社員としての生活を繰り返すも、リーマンショックでの解雇を機に生活保護受給者となります。彼の人生を振り返ると、幼少期の家庭環境が人生に与える決定的な影響が大きいとわかります。
また、Aさんは30代~50代の稼働世代に対する社会的な孤立防止や再就職支援の仕組みが不足していると訴えています。当時の引きこもり支援は「子ども・若者育成支援推進法」が法的根拠とされ、支援のゴールは「就労」とされ「39歳以下の若者就労支援」に重きを置いていました。しかし、本書で取り上げられた人の多くが40歳以上であり、相談に行っても「支援の対象外」と突き放されたそうです。
Aさんは次のように語っています。「どうして線を引いちゃうんだろう?支援側の都合で決めた対象に当てはまる人だけが利用できる。39歳と40歳の間で、人として何が違ってくるのだろうか?」この語りは、行政の縦割りや画一的なルールが、本当に支援を必要とする人々を切り捨てている現状を象徴しており、非常に印象的でした。
本書はかなりヘビーな内容となっており、SNSでキラキラとした生活が目に入りやすい分、現実に起こるこうした問題とのギャップに、読んでいて息がつまる感覚を覚えました。
仕事を失い、貯金を食い潰し、家賃すら払えなくなる人達の中には、住む家がないことを理由に採用を断られ、仕事が決まっていないことを理由に賃貸契約を断られるという、まさに八方塞がりの状態に陥っているケースがあります。もちろん、生活保護受給者として生きていくことはできるでしょう。しかし、生活保護の受給率は貧困層の数と比べたとき明らかに少ないのが現状です。生活保護を受給することへ抵抗感だけでなく、本来使えるはずの人たちに十分な情報が届けられていないのではないかと思います。また、相談に行っても突き放されたり、下に見られたりすることもあり、足が向かなくなるケースも考えられます。
Aさんも語るように、本来こうした制度は困っている人がシンプルに使えるようになるべきです。もちろん不正受給といった問題も起こる得るでしょう。しかし、そちらに気を取られて受給すべき人が受給できなくなっていては、本末転倒だと感じます。
教育や就労、高齢者や障害者への福祉、どれもがお役所的なルールで運用されています。そのため、一旦そこから外れてしまった者が復帰するのは絶望的に困難だとわかる内容でした。果たしてこうした問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか?今後も似たようなテーマで読書活動を続けたいと思いました。
今回のゼミでは欠席者も多く、口頭報告者は2名と少し寂しい回でした。体調管理を徹底し、次回のゼミはより盛り上がる報告会になればと思います。次回はD班の新書報告です。