2025年6月25日水曜日

2025年度 前期第11回

 こんにちは。経済学部2年のSです。今回が初めてのブログ担当になります。先日、大学の敷地内でクワガタを発見し、夏の訪れの早さに驚かされました。さて、今回はA班の新書報告です。


Kさん 森崎めぐみ『芸能界を変える』岩波新書、2024年 

本書は、俳優でありながら、芸能界の法整備やルール作りに尽力した著者が、芸能界の労働環境の変遷や現状の課題、その改善策を提示した一冊です。

海外の俳優が設立したNGO団体のシンポジウムで、森崎さんは衝撃を受けたそうです。海外に比べ、日本の芸能界の労働環境があまりに劣悪だったためです。森崎さんは、日本でも芸能従事者の権利を守る必要があると感じ、行動を開始しました。芸能界では俳優や演者だけでなく、スタッフや照明担当者なども含めた多くの人が、長時間労働や、基本的な休憩が取れないといった過酷な環境に置かれていました。実際、一般社団法人日本芸能従事者協会/全国芸能従事者労災保険センターがフリーランスであらゆる芸能に従事している方を対象にしたアンケートをとりました。そのアンケートでは80%以上の従事者が「仕事上、安全に関して不安に思ったことがある」「仕事中に寝不足で困ったことがある」等の劣悪な労働経験を報告しています。

森崎さんは、こうした状況を変えるべく、過去の事故例等を大量に集めて厚生労働省に労災適用を訴え、2021年に芸能従事者の労災保険が認められる成果を得ました。その後、「全国芸能従事者労災保険センター」の理事長に就任し、今なお相談窓口の設置やハラスメント対策など、芸能人のセーフティネット作りに取り組んでいます。

当時、芸能活動はあくまで活動であり、好きで行っていることであるという認識があったそうです。そのため社会保険が適応されづらかった、という内容が印象的でした。また、芸能界では、労災を隠すことが美徳だったそうです。こういった業界では、働くこと自体がリスクになってしまいます。特に、生活が不安定な若手俳優や裏方のスタッフにとっては大きな問題だったはずです。さらに、不安定で過酷な労働環境では優秀な人材が疲弊します。また、ミスや事故も起きやすくなり、作品のクオリティも落ちる可能性もあります。森崎さんは労働者の権利を守っただけでなく、業界全体の未来に貢献したと感じました。


Sさん 藤澤房俊『ガリバルディ』中公新書、2016年

この本は、イタリア統一運動の英雄ジュゼッペ・ガリバルディの生涯と功績を描いた歴史人物伝です。

ガリバルディは、分裂状態にあったイタリアの統一を目指し、象徴的な「赤シャツ隊」を率いて各地で戦いを繰り広げました。特に、少数の義勇兵で大軍を打ち破るなど、その戦闘能力は高く評価されています。一方で、政治的な駆け引きにはあまり長けていなかったそうで、政治における活躍はあまりありません。ガリバルディは、強さとカリスマで人気を得て、民衆をまとめたことで革命に貢献し、革命の象徴になりました。

本書ではガリバルディの漁師としての出自から始まります。国境に近い地で育った多言語環境が、のちの革命家としての素地を形づくったことが説明されています。そして、彼の恋愛や亡命生活、赤シャツ誕生の逸話なども紹介されます。これらの様々なエピソードを交えて、ガリバルディの人物像を深く掘り下げています。

当初、ガリバルディには支援が薄く、満足な装備がありませんでした。そんな中、逃げ込んだ倉庫の中に、赤いシャツが大量に保管されていたそうです。そして、それを部隊に配布し、ユニフォーム化したことが赤シャツの始まりでした。こういった世界史の教科書では触れられない内容も知ることができ興味深かったです。


今回のゼミでは、メモ用のワークシートを活用して報告を聞きました。今までは、各々好きな方法でメモをとっていましたが、今回は皆同じ紙でメモをとりました。さらに、報告後にはグループでメモを見せ合い、お互いの視点や記録の仕方を共有しました。人によって着目点や表現が異なり、大変参考になりました。箇条書きでまとめる人、図のようにまとめる人など、個性が出て面白かったです。また、他の人のメモを見て、私が報告で出た内容の年月日をメモしていないことに気づきました。自身のメモの不備に気づくこともできて学びが多かったです。メモをとることで、報告中に浮かんだ疑問や感想なども忘れづらくなるため、メモをとることの重要性を改めて感じました。

次回はB班の新書報告です。

2025年6月18日水曜日

2025年度 前期第10回

皆さんこんにちは。経済学部3年のKです。本格的に夏を感じる気温となってきましたね。私のおすすめの暑さ対策は、ズバリ「日傘」です。直射日光は日焼けの原因になるだけでなく、熱中症のリスクも高まりますし、将来のシミやシワの原因にもなります。今のうちから日焼け止めと合わせて、日傘も積極的に活用していきましょう。

さて、今回は毎年恒例の「歌詞解釈」をゼミ生で行いました。今回取り上げたのは、星野源さんの『地獄でなぜ悪い』(2015年)です。今回も事前準備として、ゼミ生が各々歌詞の解釈をワークシートに書き込みました。それを元に、まずはグループごとに、以下の観点から意見を出し合いました。

- 主人公はどのような人物像か

- 季節や時間帯は

- どんな状態にあるのか

- 「地獄」とは何の比喩か

- どんなストーリが込められているか

- この曲が伝えたいことは何か

ディスカッションの中で、「そんな解釈の仕方があったのか」「すごく腑に落ちた」「全然理解できない」といったさまざまな声が飛び交い、お互いの考えに驚かされる場面も多く見られました。

続いて、各グループで意見をまとめて発表を行いました。主人公が男性であることや、描かれている季節や時間帯については意見が一致しましたが、「地獄」とは何の比喩か、という点では大きく意見が分かれました。

- Aグループでは、「地獄」は思うようにいかない社会や現実の辛さの比喩だと解釈。

- Bグループでは、主人公が病気を患っており、その痛みや苦しみが地獄として描かれていると考察。

- Cグループでは、最初から天国など存在せず、この世こそが地獄であるという前提で解釈。

このように、同じ「地獄」という言葉でも、まったく異なる解釈がされていたことに驚かされました。自分では思いつかなかった視点に触れることができ、納得したり、疑問に思ったり、それについて討論することがとても面白かったです。 

初めに歌詞だけを読んだとき、私は、とても重く、ネガティブな印象を受けました。しかし実際に曲を聴いてみると、軽快でポップなメロディーに驚かされました。歌詞と曲調のギャップにより、まったく違う印象を受けました。

また、私は小説と音楽の大きな違いを実感しました。小説は文字情報だけを頼りに、登場人物の状態や心情を想像しますが、音楽にはメロディーやリズムといった要素が加わります。そのため、同じ言葉であっても、読んだときと聴いたときとで印象や受け取り方がまったく異なることがあるのだ気がつきました。最初は主人公の絶望や諦めを歌っているのかと思いましたが、実際には「現実を受け入れながらも前に進んでいくしかない」という前向きなメッセージが込められているようにも感じました。

さらに、自分の解釈と他人の解釈がまったく違っていたことから、音楽が人に与える影響や歌詞の意味は、聴く人それぞれの経験や価値観によって大きく変わるのだということを、改めて実感しました。歌詞が、ある人には「救い」としてとらえられ、別の人には「現実の辛さ」としてとらえられることで、音楽とは、それだけ多様な感情を表現し、無限の解釈ができる表現手段なのだと、今回の歌詞解釈を通して感じました。

今回もまた、白熱した議論がみられてよかったです。次回はA班の新書報告になります。皆さん体調に気を付けてお過ごしください!

2025年6月11日水曜日

2025年度 前期第9回 


こんにちは。現代法学部4年のTです。梅雨入りを控え、気圧の変化や湿度の上昇が感じられる季節となりました。今後は本格的な梅雨シーズンに入ると予想されます。低気圧による頭痛や体調不良にお悩みの方もいらっしゃるかと思います。十分な休息と水分補給を心がけ、体調に気をつけてお過ごしください。さて、今回はC班による新書報告です。


Mさん:清水徹男『不眠とうつ病』岩波新書、2015年

本書は、不眠とうつ病の関係を解明し、その治療方法を提示する一冊です。著者は、不眠とうつ病には相関関係があり、どちらからも発症し得ると主張しています。現代人は社会生活での不満や悩みを寝る前に思い出すことで、不眠に陥るパターンが多いそうです。

また、睡眠不足はネガティブな記憶を強化する性質があることがわかっています。ある実験では、睡眠不足の人と十分な睡眠をとった人に同じ記憶課題を行わせたところ、睡眠不足の人の方がネガティブな記憶をより強く記憶していたことがわかっています。つまり、ネガティブな記憶が睡眠を妨げ、睡眠不足がさらにネガティブな記憶を定着させるという悪循環が生じやすいのです。

不眠の治療法としては、認知行動療法により約7割の人が改善できるとされています。不眠症の人は、「寝床=ネガティブな記憶を思い出す場所」という意識が形成されている場合が多いです。そのため、寝る場所を変えることでその意識を切り離すことができると考えられています。また、不眠症の人は早く寝ようとする傾向にあります。そうした人には、眠くなるまでは寝床につかない・無理に寝ようとしないといった行動療法が有効だそうです。

私がこの話を聞いて思い出したのは、「寝床は固定しましょう」という一般的な睡眠指導です。しかし、不眠に陥った場合はむしろ逆のアプローチが有効であり、寝床を変えるべきだと知りました。こうした例外的なケースを知ることができた点においても、有意義な報告でした。


私Tの報告:石川良子『「ひきこもり」から考える 〈聴く〉から始める支援論』ちくま新書、2021年

本書は、ひきこもりの当事者に20年間インタビューし続けた著者が、「聴く」という視点から支援とは何か、支援がうまくいくとはどういうことかを考察する一冊です。

ひきこもり支援の最も大きな問題点は、支援内容が「当事者不在」で決められている点です。ひきこもり支援の多くは、支援者や教育関係者、当事者の親の論理で決められています。そのため、当事者の苦しみや思いが置き去りにされているそうです。また、当事者は支援者に社会不適合者として扱われる場合が多く、支援する側・される側で上下関係が生まれてしまうこともあるそうです。

著者は、こうした問題点を改善するために必要なのが「聴く」ことだと主張しています。なぜなら支援とは、支援する側・される側の協力によってできるものだからです。そのため、支援する側が、される側にとって信頼できる存在でなければなりません。そして、信頼されるために必要なのが「聴く」ことだと述べています。

著者は、支援する側が押さえておくべき「聴く」ためのポイントを5つ挙げています。第一に、当事者主体の支援姿勢として、最終的な決断は当事者に委ねることです。第二に、当事者への敬意と理解を示し、一人の人間として尊重することです。第三に、自己の価値観を押し付けていないか、自分はどのような価値観を持っているかを点検することです。第四に、相手の言葉をまず受け止め、理解しようとすること、わからなくても受け入れることです。第五に、対等な関係性を構築し、率直なコミュニケーションを心がけることです。

しかし、聴くことの限界を認識する必要もあります。相手が全く聴く耳を持たない場合や話そうともしない場合にはどうしようもありません。著者は、そうした限界を認識しつつも、まずは聴くことが重要だと改めて主張しています。

私が本書を読んで最も重要だと感じたのは、引きこもり支援において、対等な関係性の中で当事者の主体的な言葉をそのまま受け止め、解決策を提示しなければならない点です。支援者が先回りして解決策を提示することは支援ではないと著者は述べています。当事者が自ら選択できる環境、主体性を持つことができる環境を作り、彼らの選択を忍耐強く待つことこそが大切だと感じました。

質疑応答の時間では、「人との関係は相手を尊重することから始まるのではないか」という話題が挙がりました。引きこもり支援においては、当事者の話を聴く→信頼関係を構築する→当事者の意思を反映した解決策を提示する、というステップが重要だと分かりました。このステップは医療や育児においても必要であり、当事者の意思を聴かずに先回りして選択肢を提示してしまうと、関係が破綻するのではないかという指摘でした。私は引きこもり支援にのみ目が向いていたため、人間関係全般において「聴く」ことが重要だという考えには至りませんでした。こうした意見交換は、一人で本を読み咀嚼するだけでは気づかない視点を得ることができると再認識しました。今後の読書活動においても、自分一人で考え耽るだけでなく、「人の意見を聴く」という過程を大事にしたいと思います。


今回は体調不良による欠席者が多く、2名の口頭報告となりました。しかし人数が少ない分、一つの話題を深掘りすることができました。本ゼミでは、「聞いた人が一つ賢くなれる報告」を目標にしていますが、今回の報告では2つ、3つと賢くなれた気がします。次回は星野源さんの『地獄でなぜ悪い』の歌詞考察を行います。


2025年6月4日水曜日

2025年度 前期第8回

 こんにちは。経済学部3年のHです。今回初めてブログを担当させていただきました。がんばります。今回はB班の新書報告です。


Cさん 釘原直街『集団はなぜ残酷にまた慈悲深くなるのか』中公新書、2025年

本書は、服従する実験や同調する実験、また緊急事態における集団の心理について解説しています。その中でもCさんは同調について紹介してくれました。

集団において同調が発生する要因として3つの要素が挙げられるそうです。1つ目は無意識に同調をする暗黒的影響、2つ目はうわさやデマを容易に信じてしまう情報的影響、3つ目は自分が集団に属していることから、個人での行動を制限しがちになる規範的影響です。また、人々は良くないと理解していることでも、集団においては場を乱したくなかったり、それぞれの立場を考えたりして同調しがちであるともCさんは述べていました。

私はこの報告を聞いて、集団で行動することの難しさと同調をすることにネガティブにならなくても良いことを新しく学ぶことができました。


Hさん 福間詳『ストレスのはなし メカニズムと対処法』中公新書、2017年

本書では、具体的なストレスの発症例やその対策について解説しています。まず、ストレスとは私たちが日常生活において受けているあらゆる刺激に対する脳の反応です。現在は自分にとって嫌な出来事や悩み、経済的困窮、人間関係といった精神的・心理的な負荷として用いられることが多く、ストレスは常に自分の周りにあると言われているそうです。

ストレス発症の具体例には、パワハラ、育児ストレス、パチンコなどの借財について挙げてくれていました。特に、パチンコについてはストレス→ギャンブル→借金→ストレスの悪循環に陥ってしまい、根本的な解決策が無く付き合っていかないといけないと言われているそうです。

ストレス対策として、ストレスに対する備えとストレスを受けた時の対処が提示されています。備えに関しては十分な睡眠と栄養バランスのとれた食事、日常的な運動や趣味の時間などが挙げられています。対処としては日記を書く、信頼できる人に話すといった感情の整理、専門的な支援を求めると良いそうです。

私はこの報告を聞き、避けられないストレスを上手く発散していくことの大切さやストレスの対策を新しく学ぶことができました。


Iさん 串崎真志『繊細すぎてしんどいあなたへ』岩崎ジュニア新書、2020年

Iさんは繊細さのパターンがいくつかあることを述べ、繊細に対する対処法も説明してくれました。繊細には6つのパターンがあることが証明されているそうです。緊迫した場面が苦手というパターン、他人の顔色を窺ってしまうパターン(これは日本人にありがちな繊細さだそうです。)。匂いや音に敏感なパターン。このように繊細さにはさまざまな種類があり、繊細を過度に感じているHSPの日本人の割合は5人に1人だそうです。

繊細に対する対処法は、 繊細さを感じたら心の中でじっと6秒数える6秒ルール。10人の人の前で話していたとすると2人は賛成、2人は反対、6人はどちらでもない人であり、どんな状況にあっても誰かしらはあなたに共感、味方してくれると意識すると少しは気持ちが楽になるという考えの2・6・2の法則この2つを挙げてくれました。

自分はあまり繊細な方ではないと思いますが、繊細だということをマイナスに捉えるのではなく多感的だとプラスに捉えること、そして繊細への対処を学ぶことができて良かったと思います。


Tさん 上田信 『死体は誰のものか:比較文化史の視点から」ちくま新書、2019年(書き込みでの報告を参照)

本書は現代日本の死体忌避文化が普遍的であるかという問いを起点に、世界各国の死体観の差異を考察しています。

Tさんが1番驚いたことは中国における死体の政治的利用だそうです。中国には「図頼(とらい)」という、死体を使って権力者に抗議する伝統的な手段が存在していたのですが、現代でも2008年に発生した暴動において、遺族が埋葬を遅らせた死体が政府への抗議の象徴として機能した事例があります。現代中国人はこの古い習慣を知らないはずですが、死体を抗議の手段として用いる行為が現代においても自然に発生しているということだそうです。

自分はこの事を知って、そもそも死体を使って何かをするということが考えられなかったです。このような死体の使い方をする中国にすこし不信感を抱いてしまいました。


ゼミの活動は今回で第8回ということで、今年から入った自分もそろそろ慣れてきつつあります。今回の新書報告でもさまざまな意見や質問、議論が活発に行われました。また、新書口頭報告の前の本についての雑談もフランクに楽しく本の紹介ができました。次回はC班の新書報告です。