こんにちは。経営学部4年の寺内です。寒暖差が激しく、体調を崩す人が増えています。皆様もお体に気を付けてお過ごしください。今回は通常の新書報告に加えて、お互いのメモを見せあうグループワークを実施しました。始めに、B班の新書報告を紹介します。
Hさん 横田増生『中学受験』岩波新書、2013年
本書は、予備校講師を務めていた著者が中学受験の良い点・悪い点を紹介しています。中学受験と聞くと、「勝ち組」や「いじめが少ない」などを想像しがちですが、著者はそう良いことばかりとも限らないと主張しています。その根拠について、発表では「中学受験は親の受験」「中学受験は勝ち組か」「中学受験組にはいじめが無いのか」という三点を取り上げて説明していました。
「中学受験は親の受験」とは、高校受験や大学受験は子どもが決定権を持つのに対して、中学受験では親の意向が強く反映されることを指しています。
これは、中学受験時は子どもが小学生であり判断能力が低く、親が受験や部活などで有利であると考え受験させる場合や授業料が高額であるためです。親にとって大きな負担になることはもちろんですが、子どもにとって「親の意向で受験させられた」意識になることが重要です。受験や部活に注力しすぎるあまり遊ぶ時間が犠牲になり、親を恨むケースがあると言います。
この他にも、私立学校であってもいじめは発生することや、偏差値の高い中学校に入学してもその後の成績が振るわない場合があることが指摘されています。こうして著者は、中学受験が必ずしも良い進路につながるとは限らないと主張しています。
著者は結論として、「勝ち組」「入ってしまえば楽」という固定観念に囚われず、中学受験が自分達に本当に必要かどうか見極める必要があるとしています。
近年都内では中学受験の割合が増加しており、昨年度の私立中学進学者は全体の約2割でした。「周りが受験しているから」と成り行きで決めず、家庭の状況や子どもの意思を考慮することが大切ですね。
Tさん 村山綾『「心のクセ」に気づくには』ちくまプリマ―新書、2023年
本書は、社会心理学をもとに、生活に潜む様々な心のバイアスについて解説したものです。著者は、人間は自分の経験や心情で物事を判断しがちだが、実際は社会全体にとって都合のいい理由づけをしていると主張しています。
Tさんは、本書の議論の中で「相補的世界観」という考え方に興味を持ったそうです。これは、簡単に言うと人には良いところも悪いところもあり、その判断は社会によってされているという理論です。例として、「天は二物を与えず」ということわざが挙げられます。私達の価値や性格は一定の基準があるわけではなく、属する集団や時代によって変化する流動的なものです。他人を単純に順位付けして自分を比較してしまうと自分の存在に絶望してしまいますが、自分にはこんな良いところもあると思うことで生きていく理由になるとのことです。
Tさんはこの本を読んで、人間は無意識のうちに偏見やバイアスに呑み込まれがちだと考えたそうです。私達も、普段何気なく考えていることには無意識のうちにフィルターや色眼鏡がかかっていることを自覚し、差別や偏見をしないよう意識したいですね。
Mさん 鈴木謙介『サブカル・ニッポンの新自由主義─既得権批判が若者を追い込む』ちくま新書、2008年
本書は、社会学を専門にしている著者が既得権への批判から若者の在り方を解くものです。既得権とは既得権益のことで、特定の個人が法的根拠に基づき以前から獲得している権利と利益のことです。本書では、既得権・社会の在り方について若者の意識を交えて政治的に批判するとともに、若者の文化としてのサブカルチャーを解説しています。
Mさんが特に興味を持ったのは、「ジモト」の概念だそうです。本書では、地元を「ジモト」と表記しており、「単なる地理的なものではなく個人の共同性における承認先」を意味します。これを説明する例として、サブカルチャーの1つである宮藤官九郎監督の作品「木更津キャッツアイ」が挙げられています。鈴木によれば、この作品の中で、宮藤官九郎は地元を「死を過剰に怯えるものではなく、無意識に自己肯定するものでもなく以前と変わらずに肯定感を与えてくれる環境を維持してくれる場所」と表しています。Mさんは本書を通して、誰かと交流しなければ地元と思ってはいけないわけではなく、ただそこに居て生活しているだけで地元だと思ってもいいかもしれないと感じたそうです。
私の友人にも「地元愛」が強い人が数名いて、たかが育った環境というだけで何故そこまで思い入れがあるのか不思議に思っていました。自分を無条件に受け入れてくれる、大きな実家のようなものだと考えると、地元の見え方が少し変わってくるかもしれません。
Yさん 古郡廷治『あなたの表現はなぜ伝わらないのか』中公新書、2011年
本書は、他者に何かを伝えるための言葉の重要性とその技術を論じています。Yさんは、話し言葉と書き言葉それぞれのコツについて報告してくれました。
書き言葉において意味を正確に伝えるためには、表現手段をどう使い、どんなメディアを用いるかが重要だと言います。例えば、私達は「お手洗い」と言われたとき、すぐにトイレをイメージすることができます。これは、日本の文化的な背景や、私たちが育ってきた環境が比較的似ているためです。アメリカの公共の場所ではトイレを「restroom(直訳:休憩室)」と表記する場合が多くあります。しかし、日本ではこの発想・文化にあまり馴染みがないため、日本人話者には伝わりにくい表現になってしまいます。
著者はこのような例を挙げつつ、相手に意味を伝えるためには、相手の文化的背景や自分の属している社会を考えることが重要であると論じます。さらに言えば、正確に意味を伝えるためには、自分の知識と相手の知識が共通しているかどうかが重要になります。
話し言葉に関してYさんが大事だと思ったところは、「聞き手の知識レベル・関心・属性に合わせる」「分かりやすく話す」「公共の場にふさわしい言葉を話す」という三点です。発表では、聞き手の関心に合わせることの例として「ボディービルダーの人にDNAの難しい話をするより、プロテインの話をしたほうが受け入れられやすいのではないか」という話を挙げていました。分かりやすく話すという点では、スピーチなど予め考えておいた文章を話す場面でも、多少話し言葉に変えて話すと良いと言います。
自分が考えている内容をそのまま相手に伝えることは、意外と難しいものです。100%のうち50%しか伝わらなかったり、意味が湾曲して相手が不快な気持ちになってしまったりします。相手の属性や気持ちをよく考え、聞き手ファーストで話すことが大事ですね。
以上4人の新書報告が終わった後、メモグループワークを行いました。小グループで、報告のメモを見せ合いました。メモの方法・内容は様々で、iPad内のアプリを自由帳のように使う人、メモ帳に箇条書きする人、メモアプリに打ち込む人など各々がやりやすい方法でメモを取っていました。意見交換の際には、メモを取りやすい発表の特徴として、発表の概要をはじめに話すことや、順序立てて発表することが挙げられていました。メモが取りやすいということは、要点が分かりやすいということです。メモの取り方を工夫することも必要ですが、発表の仕方も重要ですね。
今回は新書報告に加えてグル―プワークも行い、非常に充実した授業でした。次回はC班の発表です。皆さんお疲れ様でした。