2022年10月26日水曜日

2022年度後期第6回:新書報告(D班)

 こんにちは。ゼミ生3年のYです。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。今週、東経大で葵祭が開催されるため、キャンパス内も少しずつお祭り仕様になってきています。葵祭はコロナ後、初めてのリアル開催なので、とてもワクワクしています!気持ちはとても温まっていますが、気温は下がってきているので、暖かくしてお過ごしください。さて、今週のゼミはD班の新書報告でした。報告の内容を紹介していきます。

Kさん:坂本貫志『ほんとうの定年後 -「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書、2022年) 

本書で著者は「定年後も、生活費・日本社会を維持するために働きましょう」と主張しています。これまでは、定年後は働かずに年金だけで生活が出来ていました。しかし、年金の受給額が減少や受給年齢が引き上げられた影響により、収入と支出の割合が逆転し、貯金を切り崩しながら生活をする人が増加しています。そのため年金だけで生活を維持するのが難しい時代になっています。この問題を解決するには「小さな仕事(非正規雇用・アルバイトなど)」をしながら生活することが必要だと、著者は主張しています。

私はまだ大学生という立場なので、定年後の生活を具体的にイメージすることは難しいと感じました。また、本書で語られている定年後の暮らしと、私たちが実際に定年を迎えたときの暮らしでは、状況がさらに変化しているだろうと想像します。しかし、最後まで幸せに生活するためには、定年後の生活を考慮するのが大切だと感じました。定期的に自分の人生観を見直していきたいです。

Hさん:丹羽宇一郎『生き方の哲学』(朝日新書、2022年)

本書は、「お金」「仕事」「成功」「覚悟」「生きる」の5つの切り口から、生き方について考えていく一冊です。私は、2章で語られている「ワークライフバランス」についてのお話が印象に残りました。一般的にワークライフバランスは「仕事とプライベートをそれぞれ確立して両者のバランスを取っていく」という意味で使われていることが多いと思います。しかし、著者はその認識を否定し、「人間は働くことが本来の在り方」、「働くために生きているのだ」と主張しています。

私は、著者のこの主張に共感しました。しかし、「私(Y)自身の働く目的は何か」を考えてもわからずモヤモヤしました。著者はきっと、働き方(手段)と自分の生き方(目的)が一致しているから、仕事こそが生きがいになっているのだと思います。働き方を考える前に、その根底にある「生きる」意味と向き合うことが、私自身のモヤモヤを解決するヒントになると感じました。社会人になれば、働く時間が人生の半分以上を占めることになります。自分の生きる目的を叶えられる仕事を選ぶためにも、「自分とは何か」を哲学し続けたいです。

Zさん:日本植物病理学会『植物たちの戦争 病原体との5億年サバイバルレース』(ブルーバックス、2019年)

私たちは普段、感染症などの病気にかからないためにマスクをつけています。植物たちも同じで、病気にかからないために対策をしているそうです。本書は、植物たちの病原菌の対策に焦点を当てて書かれた一冊です。Tさんは、植物の病原菌感染対策の話を3つ紹介してくれましたが、私の印象に残ったのは、リママメのお話です。リママメは、害虫から身を守るために、害虫の天敵となる虫を呼び寄せるフェロモンを発するという特徴を持っている植物です。

植物には、人間のように考えるための脳があるわけではありません。脳で「考える」という行為をしなくても、どうやったらより長く地球上で生き残れるのかを感じ取り、進化しているのが、非常に面白いと感じました。植物たちがどのように危険を察知し変化していくのか気になったので、私も植物に関する書籍を読んでみたいです。

Kさん:山本博文『「関ヶ原」の決算書』(新潮新書、2020年)

本書は、関ヶ原の戦いと島津氏という大名を主人公にした話がメインで書かれています。決算書というタイトルが付けられていますが、お金の流れについての解説はあまりされていないそうです。報告では、「関が原での撤退戦、島津の退き口」について紹介してくださいました。この戦いは、島津氏が巷で「戦闘民族・バーサーカー」などと呼ばれるようになったきっかけになったそうです。

Kさんの話を聞き、大将・島津義弘の戦略が無茶すぎると感じると同時に、自分たちが有利になるように考えて陣を導けるカリスマ性に感心しました。大将の戦略によって、300人対3万人の戦いで80人生き残るという結果を残している事実に衝撃を受けました。歴史の教科書ではあまり見ることのない名前なので、今回初めて島津氏の存在を知りましたが、もっと詳しく知りたくなりました。

Tさん:石井直方『カラダが変わる!姿勢の科学』(ちくま新書、2015年)

説明中のTさん。
本書は、姿勢を良くすることが大切だと伝える一冊です。姿勢次第で、肩こりや腰痛、ポッコリお腹などの問題を解決できると教えてくれました。姿勢をよくするためには、筋肉をつけることが大切です。ただし、ボディビルダーのような魅せる筋肉ではなく、バレリーナやスケート選手のようなしなやかな筋肉を目指すのがよいそうです。

みんなでトレーニング。
実際に、本書に書かれているトレーニングをゼミ生全員で実践しました。動きはシンプルで簡単なものでしたが、普段使わない内側に効いている感覚がありました。内側の筋肉を鍛えるためには、ゆっくり動くことが大切なようです。体幹を鍛えるトレーニングをするときは、心掛けてみてください。


今回も非常に面白い報告を聞くことができました。来週のゼミはE班の報告です。どのような話が聞けるのか楽しみです。

2022年10月19日水曜日

2022年度後期第5回:新書報告(F班)

 こんにちは!3年のSです。昼間も寒いですが、夜は特に冷え込むようになってきました。羽織やストールなど、暖かくできるアイテムを身に着けてお過ごしください。それではF班の新書報告を紹介します。


Uさん:瀧口美香『キリスト教美術史』(中公新書、2022年)

本書は、読者に芸術鑑賞を楽しんでもらうために、主にキリスト教美術を味わうのに必要な知識を三つ紹介しています。

一つ目は、偶像崇拝です。キリスト教は一神教で、唯一の神を信仰します。従って、描き手によってイメージが変わってしまう絵画は禁止されていました。では、なぜ教会や美術館に絵画が展示されているのか。それは、絵で表現すると、書物に比べ簡単に布教することができたからです。このため、聖書を基にした絵画が数多く描かれてきました。

二つ目は、表現技法の発展です。絵画に限らず、建築技術も時代と共に発展しました。例えばステンドグラスです。電気がなく、日光で明かりを得ていた人々は、窓からさす光を有効活用しようと窓ガラスに注目しました。その結果、自然と融合した美しい作品であるステンドグラスが生み出されました。このように、時代背景と技法の発展には密接な関係があります。

三つ目は、東西の違いです。絵画は、大きく二つに分けることができます。それは、奥行きがない絵と、遠近法が用いられた写実的な絵です。東の地方では、一神教の意識が強く、画法を統一して描いていました。西の地方では、より伝えやすくするために、描き手が想像する姿で自由に描かれました。よって、西の地方では時代と共に技術が発展し、写実的な絵画が今も残っています。美術展によっては、西と東で絵画を分けて展示している場合もあるそうです。

以上がキリスト教美術作品を楽しむために必要な三つの知識です。家族でよく美術館に行くので、全員で1度読んでみたいと思います。美術館に行く予定がある方、興味がある方は是非読んでみてください。


Kさん:渡辺正峰『脳の意識 機会の意識』(中公新書、2017年)

本書は、脳神経科学の専門家である著者が、脳と意識の関係を解説した一冊です。

意識とは、感覚的体験を指します。感覚的体験とは、何かを思い出そうとする何とも言えない感覚、アイデアをひらめいたときの感覚です。この感覚が脳のどの部分で起こっているのかを見つけると、感覚的体験のメカニズムを知ることができます。また、メカニズムの解明によって、自我や意識の本質を理解できると考えられています。

脳と意識の関係を探るために、1990年代後半から実験が行われてきました。その結果、意識と連動する脳の位置は特定できましたが、意識を担う部分の特定にはいまだに至っていません。そこで著者は、脳を機械で再現することで、脳の意識のメカニズムを見つけ出せるのではと考えました。なぜなら、脳の仕組み自体は少し複雑な電気回路であり、自我と意識を除くと、機械と同じような仕組みになっているからです。再現していく過程で脳と機械の違いを見つけ、意識のメカニズムが発見できると著者は予測しているそうです。

現在でも、脳と意識の関係についてわかっていることはほとんどありません。しかし、いつの日か意識の神秘が解き明かされ、私たちの意識が機械に乗り移ることもできるのではないか、とKさんは話していました。SF映画にありそうな話ですが、Kさんの報告を聞いて実現するかもしれないと思いました。機械に意識を移せるようになれば、身体が古くなっても新しいものに交換できるようになります。将来、不死の時代が来るかもしれません。


Nさん:岡村均『時計遺伝子-からだの中の「時間」の正体 』(講談社ブルーバックス、2022年)

本書は、体内時計とは何か、深夜にコンビニに行くと元気になるのはなぜか、その理由を時計遺伝子との関係から解説しています。

時計遺伝子とは、体内時計をコントロールする遺伝子です。時計遺伝子は24時間間隔で、光の明暗を用いて体を管理しています。例えば、朝に起きて夜に寝る生活リズムが挙げられます。哺乳類は目の奥に「視交叉上核」という時計の役割を持った領域が存在します。視交叉上核は、光の情報を目から受け取ります。起床時に浴びる太陽光は目覚めの信号と決まっているため、目を通して視交叉上核に送ることで身体を動かし始める仕組みになっています。

では、なぜ深夜にコンビニに行くと元気になってしまうのか。それは、コンビニの光が太陽光に似ているからです。目からコンビニの光を浴びることで視交叉上核が反応してしまい、朝が来たと勘違いします。実際は、朝の太陽光ではないため、昼間のように活発ではありません。しかし、2時間程活動が延びてしまい、夜更かしの原因になります。

以上が時計遺伝子と体内時計の関係です。明るい時間に活動し、暗い時間は休むリズムが、狩りを行っていた時代から現代まで受け継がれていると考えると、不思議な感覚になりました。健康に大切な早寝早起きを心掛けたいです。


Tさん:伊藤比呂美『女の一生』(岩波新書、2014年)

本書は、質疑応答形式で書かれた、女性の一生を見るかのような一冊です。Tさんは二つの質問と答えを紹介しました。

一つ目は、若い女性によるダイエットに関する質問です。流行りの服は細身で、華奢な女の子がかわいく着こなしているから自分も痩せる必要がある。しかし、どうしたらよいかわからないとの質問でした。著者の答えは、「なぜ痩せたいかを考える」でした。細身で華奢な女の子がかわいいのは、世間が作り上げた価値観だからかわいくて当たり前。あなたはその価値観にとらわれずに、自分が着たい服をきるべきと答えが述べられていたそうです。

二つ目は、恋愛がうまくいかないという性と恋愛に関する質問でした。著者の答えは、「自分と他人をしっかり区別できるようになる必要がある」でした。男女の恋愛でよく起きる失敗は、自分と他人を同じように扱ってしまうことです。まずは、私は私と認識できるようになること。次にあなたはあなた、と区別することで恋愛上手になれるそうです。

Tさんは女性について知ることができると思い、本書を読んだそうです。今の自分が知りたかったことは書かれていなかったと話していましたが、これからも様々な人と関わる機会があります。私は、今知識を生かせるタイミングが無くても、将来参考になる日が来るのではないかと思いました。他の質問と答えが気になったので、読んでみたいと思います。




以上F班4人の新書報告でした。他の班に比べ報告人数が少ないですが、1冊の内容が濃く、どれも印象に残る報告でした。次週はD班による2回目の報告です。体調に気を付けてゼミ活動に取り組みましょう!

2022年10月12日水曜日

2022年度後期第4回:新書報告(E班)

 こんにちは、3年のNです。すでに10月も半ばになり、肌寒さが増してきたように思います。そして、今回から新体制での新書報告になります。

Sさん:高水裕一『宇宙人と出会う前に読む本』(講談社ブルーバックス、2021年)

本書は、宇宙人のような異なる知的生命体に出会ったときに、どのように向き合うかについて解説した一冊です。宇宙にあるカフェで会話をしているという物語仕立てで話が進み、比較的とっつきやすい本という印象を受けました。宇宙人との対話の例として、地球に住む我々が自己紹介をする際、「地球出身です」と答えても、相手は「地球」という単語を知らないため理解できず、コミュニケーションが円滑に行われない、というものが紹介されました。当たり前に感じている自分たちの常識が、どこでもそのまま通用するわけではないことを思い知らされます。地球の枠組みを超えた宇宙人という存在を考えることによって、より広い基準での教養が身に着けられると思います。

Sさんは、例えば宇宙人が攻めてきたときにコミュニケーションを取れれば分かり合える場合もあるのではないか、と話していました。地球人同士のスケールでも同じ、自分のもっている常識を見つめなおすことは、異なる価値観の相手とのコミュニケーションの際に必要だと感じられました。

Yさん:小坂国継『西田幾多郎の哲学ー物の真実に行く道』(岩波新書、2022年)

「自分の本質とは何か」を問い続けた西田幾多郎の哲学を解説した一冊です。Yさんが紹介してくれたのは「純粋経験」についてです。これは主観と客観が未分化の状態のことを指します。Yさんの説明を聞いて、私は、経験の蓄積によって得られた感覚を抜きにして、そこに映る事象そのものを捉えることだと理解しました。

哲学の話題は難しく、どう理解したらよいのかわからないことが多くあります。主観を抜きにした純粋経験というものはあり得るのかという質問もありましたが、Yさんは、純粋経験とはなにか、本質とはなにかを問い続けることが大切と。今回はゼミ生の活発な質問もあり、ゼミ内でよかったと思います。

Tさん:本田創造『アメリカ黒人の歴史』(岩波新書、1991年)

日本国内でも話題になったBLM (black lives matter)に関心を持ったTさんが紹介してくれました。アフリカ大陸にルーツを持つ黒人の歴史について書かれた書で、奴隷制に関連した話題を紹介しています。16~17世紀、黒人は奴隷であり、人ではなく資産として扱われていました。18世紀には奴隷貿易が中止されましたが、奴隷制自体は存続しました。19世紀に反対協会が設立され、奴隷制に反対する勢力が徐々に出てきました。その後、奴隷解放宣言によって奴隷制が廃止されたのが1863年です。奴隷制がなくなったものの黒人に対する人種差別は続きました。様々な権利運動の活発化した1970年代に入り、黒人への人種差別はようやく改善の方向に向かいだしたそうです。

この新書は2001年に出版された本で、少し情報が古いため、現在も残る問題については記述しきれていませんでした。今起こっているBLMなどの問題については、この本に書かれていることを踏まえつつ、改めて考えていく必要があると感じます。

Mさん:齋藤孝『読書力』(岩波新書、2002年)

本書は、読書をする習慣がない人向けに、著者の考える読書法を紹介した書です。著者は、読書をするうえで特に、娯楽小説や推理小説ではない学術的な読書を読むことを推奨しています。理由として、学術的な書は、娯楽小説などと比較してある程度緊張感をもって取り組むことができると述べています。また、著者は、練習や積み重ねによって上達するものであるという点で、読書とスポーツを似たものだと捉えています。Mさんは本書のなかで、上手な読書をするための4ステップを紹介してくれました。

巻末には著者おすすめの文庫本が100冊紹介されているそうなので、機会があればいくつか読んでみたいです。秋学期が始まるこのタイミングで改めて読書のやりかたについて確認できてよかったと思います。

Iさん:伊勢武史『2050年の地球を予測する』(ちくまプリマー新書、2022年)

生物学の博士である著者が、環境問題の基礎知識を解説している一冊です。Iさんはそのなかから球温暖化について取り上げて紹介してくれました。

地球温暖化は二酸化炭素やフロンの増加によって発生する問題です。環境保全への取り組みが進んでいますが、それでも平均気温は上がり続けています。著者は対策の一つとして、環境保全とビジネスを組み合わせることを提案しています。私は、著者は生物学者ながら、柔軟な姿勢で環境問題に取り組んでいると感じました。

著者は、本書を読んで環境問題に対する姿勢を読者に少しでも身に着けてほしいと考えています。普段はあまり意識しない環境問題ですが、Iさんの紹介を聞き、私も普段から心構えを持っておこうと思いました。 


今回の新書報告も様々な分野の話題が取り上げられました。この時期は気温の変化も著しく体調には気を遣うと思います。次週も気を付けて報告に取り組みましょう。


2022年10月5日水曜日

2022年度後期第3回:新書報告(Ⅾ班)

こんにちは。二年のKです。10月に入り、季節の変化を日々実感する毎日です。肌寒い日が増えてきたので体調にお気をつけて過ごしてください。さて、本日は後期最初の新書報告を紹介していこうと思います。

Hさん:土井成紀『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版、2022年)

本書は、昨今耳にするようになったメタバースについてビジネスの視点で解説した一冊です。そもそもメタバースとは何でしょうか。メタバースとは「インターネット上の仮想空間」や「仮想空間において行われるサービス」のことを指すそうです。メタバースはその性質上ゲームやヴァーチャル事業と相性がよく、とても期待されている事業でもあります。そんな事業には、これから多くの企業が参戦することが予想されています。中でもGAFAと呼ばれる大企業は確実に参加するといわれています。メタバースによって私たちの生活が現実から仮想の世界に移っていく未来も、そう遠くはないのかもしれません。

最新技術にかかわる話で興味深い内容でした。発表の際にメタバースを映画「サマー・ウォーズ」に登場するOzに例えていて、とても理解しやすかったです。

Tさん:五十嵐敬喜『土地はだれのものか~人口減少時代の所有と利用』(岩波新書、2022年)

現在の日本では少子高齢化と都市部への人口集中が進んでおり、空き家問題が発生しています。この空き家問題に解決のめどはたっていません。解決が難しい理由として、地方公共団体の数の減少や空き家に対する措置の難しさが挙げられます。空き家への対応が難しい事情が二つあります。一つ目は費用が掛かるということです。壊すのにも一定以上のお金がかかり、またその予算にも限りがあります。二つ目に土地の所有権の強さがあります。このような多くの課題を抱えている空き家問題には全く新しい解決方法を提示することが急務であると著者は述べています。

自分の周りにも空き家が存在しているため他人ごとではなく親身に発表を聞くことができました。空き家はその土地を有効活用できていないという点でも大きな損失であり、解決が急がれる問題であると感じました。

Kさん:除本理史、佐無田光『君の街に未来はあるか?〔「根っこ」から地域をつくる〕』(岩波ジュニア新書、2020年)

日本はわかりやすく東京一極集中の状態です。政治、経済が都市部に集中する一方で、人口等も地方と首都圏では格差が存在しています。しかし、こういった現状とは裏腹に地方に移住したいと思っている人は増加傾向にあります。移住を希望する人たちに実際に行動してもらうためには強い地域性を築くことがカギになります。そして地域の根っこをつくるには二つのことが重要になります。まずは住人が地域の良さを知ることです。その次に商業的なプロモーションをするのではなく本当の良さだけを発信することが重要です。もし地域の特産がなければ新しく作ることも一つの方法だと著者は述べています。

発表を聞き、地方の人達による地域おこしへの努力がひしひしと伝わってきました。日本は東京だけで成り立つわけではありません。地方それぞれとの連帯があってはじめて国が機能します。地方の人口減少は深刻な問題であり、その地方に住む人々だけではなく日本全体で考えるべきだと思いました。

Oさん:山口裕之『「みんな違ってみんないい」のか?相対性主義と普遍主義の問題』(ちくまプリマ―新書、2022年)

本書では「みんな違ってみんないい」という言葉を通して相対主義と普遍主義の立場を解説しています。相対主義とはみんな違ってみんな良いという相対的なものの見方や考え方をする立場です。普遍主義とは事実が確固として存在するという立場です。発表では「正しさ」とは何なのかという話題から派生して、正しい情報を見分けるポイントを二つ介していました。一つ目は情報の出どころを確認すること、ネットだけではなく本などからも情報を得ることが大事です。二つ目は複数の意見と比べ判断することです。

新書発表をしている私たちは人一倍情報の扱いに敏感であるべきです。本から得た情報というだけで無条件に信じ込むことは危険だからです。本の情報は古すぎないか、著者の専門は何なのかに気を付けて本を選ぼうと改めて思いました。

Kさん:三井秀樹『ガーデニングの愉しみ 私流の庭づくりへの挑戦』(中公新書、1998年)

本書は大学の講師がガーデニングに励む奮闘記です。著者がガーデニングを通して気づいたことをまとめています。庭師には自分なりの理想の庭像があります。その理想を目指して庭造りをするためそれは重労働であり、計画性が必須の作業になります。しかし相手は植物。そう簡単にはいきません。植物が自分の想像通りに育つことは稀です。そんなときの対応で庭師は二つに分けることができます。植物の偶然性を管理しようとする模型職人とその偶然性に付き合い、受け入れようとする庭師の二つです。ガーデニングを楽しむためには後者のメンタリティが必要であると著者は述べています。そしてガーデニングをするうえで最もダメな考えが「育て方は正しかったのか」という自問自答です。失敗はあっても間違っている育て方などはないと著者は述べています。

植物についての発表でしたが多くのことに通じることだったと思います。私たちの力ではどうしようもないものが多く存在します。その時真っ向からぶつかるか、受け入れ、うまく付き合うかで人生の彩も変わるのかもしれません。

今回の新書報告では以上の5冊が紹介されました。どれも興味深く、印象に残る部分が多かった発表でした。

相澤追記:私の都合で、今回のゼミをもってお休みをいただきます。残りのゼミは、早尾貴紀先生がご担当くださいます。ここまで頑張ってくれたゼミ生に感謝するとともに、今後の活躍を期待します。