2024年5月29日水曜日

2024年度 前期第8回

 こんにちは。経済学部2年のHです。今回はA班の新書報告をご紹介します。

Kさん 曽村保信『地政学入門‐外交戦略の政治学』 中公新書 1984年


本書では政治と地理が融合された地政学という学問について論じられています。地政学とは地球を1つの単位と見なし外交戦略に生かしたり、地理的要因を分析して、国際関係や国内外の情勢にどのような影響を与えるかといった問いを考察する学問です。


本書のタイトルである地政学は、イギリスのマッキンダ―が開祖であるとされています。マッキンダ―は「ハートランド」という考え方を提唱しました。ハートランドとは東欧に位置しています。これを大国がとってしまうと、国際関係に大きく影響が出て、最悪の場合は戦争に発展してしまうとマッキンダ―は主張しています。


Kさんは、シーパワーとランドパワーの関係にも触れました。シーパワーは海軍の強さを指していて、島国であるイギリスなどが得意としています。ランドパワーは陸軍を指していてロシアなどの陸面積が広い国などが得意としています。このシーパワーとランドパワーの関係は均衡していましたが、鉄道や情報技術の発展によりランドパワーが強くなりました。それにより国と国の間の関係が崩れ、第1次世界大戦が起きたとされています。


本書が書かれたのは1984年ですが、現在、ロシアによるウクライナ問題が起きています。一方的に他の国の領土を占領したり、攻撃したりすることは地政学に大きく関わっていると思います。自分には関係ないと思わず、こういった戦争が世界で起きている現実に向き合っていきたいです。


Tさん 小林亜津子『初めて学ぶ生命倫理』 ちくまプリマ―新書 2011年


本書は教科書的な役割をせず、様々な事例を紹介することを通じて、命とは何なのか考えるきっかけを作る内容となっています。その中からTさんは2つの例を取り上げて報告してくれました。


1つ目の事例は拒食症の10歳の女の子の話です。この女の子は拒食症で歩けなくなり、入院し余命半年と告げられました。だからと言ってご飯を食べるわけでもなく点滴も抜いてしまいます。そこで女の子の両親は治療を受けさせようと訴えたことで裁判になります。結果、裁判では認められ、治療が行われ2年かけて健康になることができました。健康になったことで女の子は両親に感謝するという話です。


2つ目の事例は白血病の15歳の男の子の話です。この男の子とその両親はキリスト教のエホバの証人の信者で、輸血を拒否します。そのため、治療を受けさせようと病院側が家族を訴えます。その結果、それが認められ治療をすることになります。しかし、18歳で治療を拒否できるようになるため、男の子は治療を拒否し、間もなく亡くなったといいます。


こういった生死の判断というのはとても難しいと感じます。自分だったらどうするかを考えながら、生命倫理というものについて考えることができました。


Kさん 広田照幸『日本のしつけは衰退したか』 講談社現代新書 1999年


本書では日本の教育レベルについて高くなっているか、低くなっているかについて触れられています。一般的には日本の教育レベルは低くなっているとされていますが著者はそうではないと批判しています。家庭の教育レベルは上がっているとされており、その原因として高度経済成長で家庭が豊かになり、使うお金が増えたからだと主張しています。それに加えて社会が家庭に求める教育レベルが上がったからともされています。


本書では直接、SNSの問題については触れられていませんが、現代ではインターネットが普及して教育レベルが低下したのではないかと指摘されています。この本が書かれたのは1999年で当時はあまり、インターネットは普及していませんでした。事情は大きく異なりますが、教育に関する価値観はそこまで変わっていないようです。


本書を通して教育の重要性について考えることができたと同時に今の教育レベルはどうなっているか気になりました。


Mさん 慎改康之『ミシェル・フーコー』 岩波新書 2019年


本書ではミシェル・フーコーの生涯を通し、フーコーの主張や理論について述べられています。フーコーはフランスの哲学者で20世紀に活躍した人物です。フーコーは、今と昔では考え方が異なっていることを示し、当たり前の常識をもう一度見つめなおすべきだと主張しています。


Mさんは『狂気の歴史』という著作に関する部分を報告してくれました。狂気とは17世紀ごろに貧しい人や犯罪者などを指していました。このような狂っているとされた背景には資本主義が形成されたことが大きいとされています。当時、「狂気」は今と違う意味を持っていました。フーコーは「変わっている」とは時代によって基準が異なり、社会によって変わってくるものだと主張しています。


また、本書では構造主義(社会が様々な物事を決める)と実存主義(自分で自分のことを決める)の2通りの考え方が出てきますが、フーコーは前者をとっています。それに対し、Mさんは後者をとっています。


このフーコーの考え方は正直、私自身には合わないと思いましたが。ですが、その時代によって様々な考えがあり、自分の主張や考え方が大事になると感じました。



今回は20世紀に書かれた本も登場し、その時代の価値観や今に繋がっていることをたくさん知ることができました。次回はB班の新書報告をご紹介します。

2024年5月22日水曜日

2024年度 前期第7回

キャンパスは緑が綺麗です。

 こんにちは。現代法学部4年のMです。ここ数日で夏日が続き、まだかろうじて5月であったことを忘れてしまいます。私は今週ついに半袖デビューをしました。素肌に風が通り、気持ち良いですね。水分補給も忘れずにこの暑さを乗り越えたいです。さて、今回はいつもの新書報告とは違い、上級生グループ、2年次生グループ、女子学生グループに分かれレクリエーションを行いました。

前半は、それぞれが感じた新書報告の悩みを話し合い、全体で共有するグループワークを行いました。先週のゼミで、新書報告が全員一巡し、各々感じたことがあったようです。

私のグループでは、

・「新書の内容を発表に向けてまとめることの大変さ」

・「読書時間を中々設けられない」

・「自分の報告に対してどのような質問が来るのか不安」

の3つが挙がりました。

他のグループからは、

・「内容を伝える際の語彙力」

・「発表の際のメモの作り方」

が挙げられました。グループによって悩みが異なり、私も共感しながら聞いていました。

共有された悩みについて、相澤先生が配布資料とともに回答してくださいました。今回は共有された悩みのうち、発表に直接関係するものを相澤先生の回答とともに2つ紹介します。 

 一つ目は、「内容を伝える際の語彙力」について。これは、文末がいつも同じ言葉になり、単調な印象になってしまうということです。確かに私も報告の時に、「〜と書いてありました。」、「〜と述べています。」の2つの言葉で乗り切った記憶があります...。この悩みに対して、先生は、「新書の内容を具体的に理解することで、説明も具体的になり、語彙の幅が広がる」と回答してくださいました。読んだ新書の全ての内容を理解できなくても、自分が一番興味深く感じたことを伝えれば、聞き手にとってもわかりやすくなります。

グループワークの様子

 二つ目の悩みは、「質問対応」についてです。新書の内容を理解し、まとめられたとしても、発表の際にどのような質問がくるのかは予測不能です。自分は理解しているつもりで話した事が、相手に上手く伝わっていなかった場合、どのように答えたらいいのか分からなくなります。私自身、初回の報告でどのような質問が来るのか不安でした。こちらの悩みに対して先生は、「でたとこ勝負。質問しする側も、報告者の答えやすい質問をしましょう。」と返答してくださいました。確かに報告を聞いている時、私も色々なことが気になって、ついたくさんのことを質問したくなってしまいます。しかし、なるべく本の内容に沿った質問をすることで、お互いに議論しやすくなるものだと思いました。

 この後引き続き、新聞の書評を読み、どのような構成かをグループで、話し合うワークを行いました。プロの文章を読むことによって、私たちの新書報告の悩みの解決の糸口があると感じました。語彙力、表現方法やまとめ方などを、来週のゼミに向けてしっかりと振り返っていきたいと思います。

 後半は、ゼミ同士の親睦を深めるグループワークを行いました。私たちは前半に分かれたグループで、大学内にある進次郎池までお散歩をしました。ただのお散歩ではありません。教室からの道のり、グループ内で共通点を探し、その数が一番多かったグループの勝ちというゲームでそれぞれ盛り上がっていました。気持ちよく晴れた空の下、少し汗ばみながらキャンパス内をゼミ仲間と歩き、いい息抜きになったなあと感じました。


共通点探しに苦戦中
そして、この共通点探しは意外と難しく、中々大変でした。私たちのグループでは、「山派?海派?」「猫派?犬派?」など、2択でお互いに聞き合いました。私たちのグループが五つの共通点を見つけたのに対して、優勝したグループは六つも共通点を発見していました。出身地、実家暮らしであることや所属していた部活動が運動部であったことなどです。基本的にゼミの時間にだけ顔を合わせる仲間たちの、意外な一面を知ることができました。ゼミの中で学年、学部を超えて話すことができてとても楽しかったです。

東経大の憩いの場 新次郎池
(Mさん撮影)

 もう5月も終盤です。あっという間に過ぎていく1年、相澤ゼミでもっとたくさんのことを、ゼミ仲間たちと経験できたらいいなと思った日でした。来週からまた、新書報告を行います。それぞれ初回の新書報告の振り返りをもとに、2周目の報告はどのようになるのか楽しみです。



 


2024年5月15日水曜日

2024年度 前期第6回

 こんにちは。経済学部2年のKです。初夏を感じる気温となってきました。私は、可愛い冬服とお別れするのがさみしいです。今回は、C班の発表ををご紹介します。

Tさん 山田昌弘『モテる構造』ちくま新書、2016年 

本書は、社会学の観点から男女の生きづらさの違いについて明らかにするという内容となっています。著者は「モテる・モテないと生きずらさが結びついている」と論じています。それは、我々の社会は、女性か男性であるという、性のアイデンティティにより分類されているからです。女性か男性に属することで、社会の一員だと感じる仕組みになっていると著者は考えています。つまり、モテるとは、自身が異性として認識されているという実感に繋がると考えることができます。また、男性と女性では、モテ方の違いがあります。戦後、性別役割分業の思想が強く残る中で、男性は社会に出て稼ぎが求められ、女性は稼ぎが求められない代わりに、家事育児のような、家庭の仕事が求められています。つまり、男性は稼ぎがないとモテない、女性は稼ぎがあってもモテるわけではないという、それぞれの生きづらさがあるといいます。

男性と女性では、社会から求められていることが大きく異なります。求められていることに対して、いかに答えることができているかが「モテる」に繋がるという思想は、社会学の観点ならではだと感じました。現代の日本は、ジェンダーの考え方が注目されていますが、モテ方に変化はあるのでしょうか。

Kさん 岩月謙司『男は女のどこを見るべきか』ちくま新書、2004年

本書は、男性と女性の思考の違いから、男性はどのような女性を選ぶべきかを考察しています。男女の違いの一つとして、女性は感情で動くのに対して、男性は感情ではなく起こった事実を元に行動を起こすといいます。例えば、窃盗にあった時、女は窃盗に遭ったことを、男性は盗まれたものに重きを置くというような違いがみられるそうです。そして男性は、愛されている女性を選ぶべきだと論じています。具体的に、考え方がポジティブで、よく人を褒める人が当てはまります。つまり、女性が感情的に動くときに、その感情がプラスであることが、素敵な女性に当てはまると言えます。

女性に限らず、ポジティブ思考で明るい人は人間から好かれると感じます。人間が感情的になった時、本性が垣間見えると思うので、日々穏やかで、明るい気持ちでいることが大切ですね。

Iさん 粂 和彦『眠りの悩み相談室』ちくま新書、2007年

本書は睡眠専門の医者である著者が、睡眠について解説しています。良質な睡眠が、私たちの健康に大きく影響することは周知の事実です。それでは、どうすれば良質をとることができるのでしょうか。今回は4つのポイントをご紹介します。

1,日中は活動的に:日中の活動量が多いほど、夜の睡眠に対する要求が高まります。運動不足は眠気を誘発しません。また、仕事や勉強、読書など、脳を使う活動を日中にしっかりと行うことで、夜は自然と脳が疲労し眠気が訪れます。

2,適度な体温低下を心がける:人間は、体温が下がる際に、眠気が発生します。そのため、温活動後の入浴で体温が下がるのを意識すると良いそうです。

3,就寝前のストレスを排除する:昼間の過剰なストレスは、夜の睡眠を妨げます。自分のストレスをコントロールすることが、良質な睡眠に繋がります。

4,朝は同じ時間に起きる:睡眠リズムを整えるため、可能な限り同じ時間に起床することが大切です。早寝早起きがベストです。

また、アルコールは睡眠に大きな影響を与えます。睡眠前にアルコールを接種すると眠くなる現象は、自然な体の仕組みではないそうです。アルコールを接種すると、眠くなるなるのは、気絶と同じような現象だと論じています。

睡眠は人間にとって欠かせないものです。自分の睡眠とよく向き合って、より良い睡眠を実現させることはとても大切だと感じます。

Eさん 春増翔太『ルポ 歌舞伎町の路上売春』ちくま新書、2023年

本書は、毎日新聞記者である著者が、新宿歌舞伎町の路上売春を取材し、その実態に迫っています。最近話題となっている歌舞伎町にいる「立ちんぼ」という女性たちは、コロナ規制緩和後に急激に増えました。年齢層は若い傾向にあり、未成年が増えているといます。著者は、NPO法人を設立し、売春している女性の相談などをしている坂本さんに力を借り、売春の実態に迫ります。そこで、売春行為をしている女性のほとんどに共通しているのが、ホストの存在だと言います。ホストは依存性が高く、一度ハマってしまったら抜け出すことは難しいと言われています。そのため、売春から抜け出す事も容易ではありません。東京都ではそのような人を支援する取り組みがあり、資格や住居の援助を行う支援もあるそうです。しかし、すぐに売春に戻ってしまうのも現状です。売春している人が悪いという意見がありますが、著者は売春することによって、ギリギリ生活できているのも事実であり、仕方のない一面もあると言います。

近年話題となっている路上売春ですが、実態を知るほど事態の深刻さ、複雑さが見えてきます。路上売春を止めることは勿論、防ぐことにも力を入れる必要があります。特に、未成年の路上売春は深刻です。私たちは、この事態について、問題意識を持つことが大切です。

今回は、多種多様な新書報告でした。質問も多くされていて、充実した新書報告となりました。次回は、書評を読むグループワークを行います。

2024年5月8日水曜日

2024年度 前期第5回

 こんにちは。経営学部2年のMです。GWも過ぎ、夏の訪れのような暑さを感じる時期となりました。梅雨入りも間近のため、体調を崩さぬよう皆様お気をつけください。今回はB班の新書報告を紹介します。


Yさん 松原耕二『本質をつかむ聞く力』ちくまプリマー新書、2018年

本書は、TBSのニューヨーク市局長をしていた著者の経験を元に、デマやフェイクニュースを題材とした情報の受け取り方について論じたものです。

Yさんは、本書が指摘している「言い換えによる意識の方向性の決定」という問題を取り上げました。これは、メディアなどに情報が載る際、言葉の言い換えによって受信者の受け取り方が変化する事態を意味しています。

改善案:Yさんは、本書が指摘している「言い換えによる意識の方向性の決定」という問題を取り上げました。これは、メディアなどに情報が載る際、言葉の言い換えによって受信者の受け取り方が変化する事態を意味しています。

例えば、「戦闘」を「衝突」に言い換えたら、戦うまでには至ってないように映ってしまうかもしれません。言葉の裏に何があるかに注意すべきだと著者は述べています。

人々は得てして情報を受け取る際に、自分にとって都合のいいものばかりを取り入れてしまうと私は考えます。先入観を持たずに何が事実かを見極め、主体性を持って情報を受け取ることが重要だと思いました。


Hさん 源河亨『「美味しい」とは何か』中公新書、2022年

本書は、音楽や美術と同じく食も美学の一つして捉えることが出来るのでは無いか、と主張しています。

その裏付けとして二つの実験が紹介されました。一つ目は、二つのグループに分かれてポテチを食べる実験です。一つの班はそのまま食べるのですが、もう一方の班はマイクとイヤホンを設置して咀嚼音をより大きく聞こえるようにします。実験の結果、咀嚼音が大きく聞こえた班の方が美味しいと感じた人が多かったそうです。この実験により、味覚や嗅覚だけでなく聴覚も食に深く関連していることが分かります。

もう一つは、ワインの実験です。ワインに力を入れて学んでいる大学の生徒たちに、二つのワインを飲ませます。片方は白ワインで、もう片方は赤い着色料を混ぜた白ワインと、どちらも同じ味のワインになっています。しかし、生徒たちの多くはそのワインが同じ味だと見抜くことが出来なかったといいます。この実験により、飲食物の色や形といった視覚の情報も味に影響を与えていることが分かります。

食について美学の観点から解析する新しい視点に目から鱗でした。


Cさん 正高信男『天才はなぜ生まれるか』ちくま新書、2004年

本書は、数々の偉人たちが、各々の持つ知的障害とどのように向き合っていたかを解説しています。Cさんはその中からレオナルド・ダ・ヴィンチについて発表しました。

レオナルドは幼少の頃から記憶障害を持っており、覚えることが苦手だったそうです。掛け算の九九もままならず、日常生活にも支障がありました。しかし彼はそれに対処するべく、多くの事柄をメモしていたそうです。それも、左右反対の文字を書いてメモしていました。彼のこのメモこそが、ブレーンストーミングの先駆けになったそうです。そのようにして、彼は自分のやり方で知的障害と戦い人生を生き抜きました。

自身の弱点に嘆くのではなく、どのように向き合っていくかという指摘が印象に残りました。


Mさん 木曽崇『「夜遊び」の経済学』光文社新書、2017年

本書は、「ナイトタイムエコノミー」(夜17時以降に行われる経済活動)が生み出す経済効果について外国の例も混じえて論じたものです。

ロンドンでは、行政がナイトタイムエコノミーの活性化に取り組んでいるそうです。夜の街というのは危険なイメージがどうしてもついてくるものです。この負のイメージに対処するべく、行政が安全基準のようなものを作り、夜の街の安全を保証する仕組みを確立しました。また、ニューヨークの地下鉄は、線路を2本敷くことにより夜間に走る専用の電車を設置しているそうです。そうすることによって、終電の心配もなくいつでも帰ることが出来ます。このように、世界の主要都市ではナイトタイムエコノミーの振興を図っていることが分かります。

現在の日本では、夜の街にはネガティブなイメージを持つ人が多いと思います。しかしその認識を改め、都市部での楽しみ方のバリエーションを増やすことによって、より良い経済効果を生み出すという本書の主張に興味が湧きました。


今回は我々の生活に身近な分野の報告が多かったので、報告を聞いていてとても興味深かったです。次回のC班の新書報告も楽しみです。


2024年5月1日水曜日

2024年度 前期第4回

 こんにちは。経済学部3年のEです。今回は今年度初めての新書報告を行いました。各ゼミ生が前回の授業で学んだプレゼンの仕方、聴き方を踏まえて今回の授業に臨みました。以下はA班による新書発表です。


Kさん 波多野誼余夫/稲垣佳世子『無気力の心理学』中公新書、1981年

本書は教育心理学の観点から書かれています。著者は「自分にとって不都合な環境を自身の努力で変えられる実感が少ない状態」を無気力と定義します。これに対し、「自分の努力に対する信頼がある状態」を効力感と呼びます。著者は、現代社会では生産性を重視するため、効力感の欠如が見られると指摘しています。

効力感を得るためにはどうすれば良いのかを説明するために、著者は幼児期の例を挙げます。赤ちゃんの場合、「泣く」という行動を通じて自分のニーズを表現します。親が迅速に反応することで、赤ちゃんは自分の努力が報われるという経験を積むことができます。次に、学校の教育システムについてです。通知表のような数字による評価は競争を促しますが、効力感を育むことには繋がりにくいとされています。その代わりに、情報に基づいた評価が提案されています。数学の評価を例にとると、「計算はできるが図形の把握が不得意」と評価することが良いとされています。

著者は、評価には人を統制する側面と、行動の良し悪しを評価する側面があると述べています。学校の通知表のような数字による評価は人を統制する側面が強いです。その為、著者は行動の良し悪しを評価することが重要だと主張します。つまり、その人は何が得意で何が不得意なのかを明らかにすることです。この行動の良し悪しを評価する段階に移行しなければ、無気力な子供たちが増える可能性があると示唆しています。

私は、行動の良し悪しを評価するのは第三者ではなく自分でやれば良いと考えます。客観的な事実のもと自分の不得意なものを明らかにするのは確かに良いかもしれませんが、他人に不得意なものを決めつけられているようにも感じるからです。しかし、通知表のように数字で評価するのはやや味気ないように感じたので概ね同意です。


Tさん 松田純『安楽死・尊厳死の現在』中公新書、2018年

著者は生命倫理学の専門家です。本書では世界各国における安楽死の歴史、現状、問題、そして思想史について詳細に論じています。

安楽死にまつわる問題の一つは、「安楽死の法制化が死ぬ義務を発生させるのではないか」という点です。具体的には、本人が望まない安楽死が行われる可能性が懸念されています。

著者はまた、健康という考え方についても検討しています。世界保健機関(WHO)は、「身体的、心理的に完全に良い状態」を健康と定義していますが、この定義は長年議論の的でした。現代の医療では、障碍者や不治の病を患っている人々を完全に治すことは難しいため、「完全に良い状態」を目指すことが無意味になる場合があるからです。そのため、オランダの国際的な研究機関が健康の概念を再定義し、「病気や障害があっても、前向きに生きる能力を健康と定義した」ことを紹介しています。

この再定義を踏まえ、著者は、病気や障害に直面した場合、その時点での人々の支援を受け入れることが重要であるとまとめています。著者は更に、このようなポジティブな健康観が社会に普及することを期待しています。最後に、このポジティブな健康観が広まることで、「安楽死」がどのような影響を受けるかについての疑問が提示され、本書は結びつけられています。

 私は、仮に安楽死が制度化されたとしたら、安易に選択せず熟考する必要があると考えました。

 

Kさん 松田英子『今すぐ眠りたくなる夢の話』ワニブックスPLUS新書、2023年

 著者は東洋大学で心理学の教授であり、公認心理士と臨床心理士の資格を有しています。彼女は一万人以上の人々の夢を分析し、その影響について研究しています。本書では、夢が人々に与える影響について詳しく述べられています。

まず、夢はレム睡眠とノンレム睡眠の二つに分かれます。レム睡眠では、主に記憶の定着に時間が費やされ、この時に夢を見るとされています。この夢がトラウマや悪夢を見て気分が落ち込むことに繋がるとされます。レム睡眠で体験した記憶は6時間から8時間で定着すると言われており、その間に経験した悪い夢を定着させないための治療法が存在します。

夢を科学的に解析することで、夢が人に与える影響が分かります。例えば、睡眠時に発生する周波数を解析することで、精神的ストレスの負荷や、その影響を評価できるとされています。精神的なストレスの負荷が高まると、思い詰めて自殺をする人々もいます。科学的に解析すればこのような状況を防止し、解消することに繋がります。

夢は記憶の整理をする役割があると聞いたことがありました。私はそれ以外に夢がもたらす役割や影響を知らず、精神的ストレスにつながる事を知りませんでした。私は定期的にノンレム睡眠や金縛りにあうので、自分の睡眠状態しようと思います。


次回も新書報告を行います。担当はB班です。どんな本が紹介されるか楽しみです。