2024年7月3日水曜日

2024年度 前期第13回

 こんにちは。現代法学部3年のSです。梅雨入り以降、雨・湿気・暑さの三重苦に悩まされています。今後はさらに気温が上昇すると予想されます。こまめな水分補給を心がけ、熱中症には十分ご注意ください。さて、今回はB班による新書報告です。

Cさん 稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』ちくまプリマー新書、2020年

本書は、雑草生態学の専門家である著者が、生物の生存戦略を例に挙げながら、人間社会における個性・多様性の意義を論じています。

著者は大きなカテゴリーで勝者(No.1)を目指すのではなく、特定分野で唯一無二(Only 1)かつ最高(No.1)を目指すべきだと主張しています。この考えを裏付ける例として、ゾウリムシの生存競争が挙げられます。ゾウリムシとヒメゾウリムシを同じ水槽で飼育すると、餌の奪い合いでヒメゾウリムシのみが生き残ります。一方、ゾウリムシとミドリゾウリムシは、水底と水面という異なる場所の餌を食べることで共存できるそうです。著者はこの生物の戦略を人間社会に適用し、大きな市場での競争より、特定分野(ニッチ)での専門性発揮が重要だと説きます。

また、本書は多様性喪失のリスクについても警鐘を鳴らしています。例として、品種改良したジャガイモの栽培を挙げています。収量の多い単一品種のみを広く栽培した結果、その品種が特定の病気に弱く、病気の蔓延により壊滅的な被害を受けたそうです。この例は、生物多様性の重要性と、単一の「優れた」特性に頼ることの危険性を示しています。

生物の生存戦略から人間社会の多様性の意義を導き出す視点が、斬新で興味深いと感じました。「No.1」かつ「Only 1」という概念は、同調圧力や画一性が強いとされる日本社会に一石を投じる内容だと思います。

Mさん 山本芳美『イレズミと日本人』平凡社新書、2016年

本書は、文化人類学者である著者が、イレズミと日本社会との関係を考察しています。

イレズミは、1960-70年代の任侠映画の流行により、ヤクザの暴力的イメージと結びつけられました。このマイナスイメージから、銭湯や温泉施設での利用禁止が広まりました。しかし、著者はイレズミの多面的な側面に注目しています。鳶職では職人文化として、親方のイレズミを弟子が継承することがあるそうです。また、琉球王国時代の沖縄では、女性の指のイレズミが伝統的でした。しかし、本土との統合後、本土出身者からの差別を避けるために、イレズミを消して沖縄出身であることを隠していたそうです。

Mさんは、イレズミをしている人を単に外見で判断するのではなく、イレズミの歴史的・文化的側面を理解した上で、一人の個人として見ることが重要ではないかと話しました。また、このような理解が広まれば、日本のイレズミ文化がより良い方向に発展するかもしれないと語っています。

海外ではアートとして認知されつつあるイレズミですが、日本での受容にはまだ課題が多いように感じます。本書は、イレズミを通して多様性と偏見について見つめ直すきっかけを与えてくれる一冊だと思います。

Hさん 岩田慎平『北条義時』中公新書、2021年

本書は、2022年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で注目を集めた北条義時の生涯を描いた歴史評伝です。著者は日本中世史、特に鎌倉幕府と武士に関する専門家です。

著者は義時の人生を三段階に分けて考察しています。まず、生誕から源頼朝との出会いと挙兵までの時期です。ここでは、伊豆の田舎出身の北条家が、頼朝との邂逅を機に台頭していく過程が詳述されています。次に、頼朝が征夷大将軍に就任した後の権力闘争期が描かれます。頼朝は、謀反の疑いがある者は親族であっても容赦なく処罰していたそうです。例えば、頼朝の弟にあたる義経の自殺も頼朝の意向によるものと示唆されています。最後に、義時自身が実権を握った執権時代が記述されています。頼朝の死後、義時が実権を掌握し、承久の乱で勝利するまでの政治的展開が述べられています。興味深いことに、義時も実権を握ると、かつての頼朝のように謀反の疑いがある者を厳しく罰していったそうです。​​​​​​​​​​​​​​​​

著者は、頼朝や義時のような権力者が人を信用できなくなる心理を分析しています。彼らは常に権力争いに晒されているため、味方と敵を正確に判断する必要があります。誤った判断は自身の命に関わるため、疑心暗鬼に陥りやすいと著者は指摘します。

北条義時の生涯を通じて、権力者の心理と行動を分析する視点が興味深いと感じました。私利私欲に走り、時に残虐な決断を下す権力者の姿は、現代の政治にも通じるものがあると思います。本書は、歴史上の人物を通して権力の本質と人間性を垣間見れる一冊だと感じました。

今回も多種多様な新書報告が行われ、非常に充実した内容となりました。生物学、文化人類学、歴史学といった幅広い分野の書籍が紹介され、それぞれが私たちの日常生活や社会に関連する興味深いテーマを扱っていました。次回はC班による前期最後の新書報告です。締めくくりの寂しさはありますが、どのような本が紹介されるか楽しみに待ちたいと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​