2月8日の午後、ゼミ有志が新国立劇場に集合しました。皆でオペラを鑑賞するのです。演目は『フィレンツェの悲劇(ツェムリンスキー)/ジャンニ・スキッキ(プッチーニ)』の二本立て。それぞれ、一幕のみ、60分ほどで、初心者にも見やすいものです。
オペラパレスの華やかな雰囲気に圧倒されつつ、二時間あまりの贅沢な時間を楽しみました。以下は、参加者の感想です。
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Cさん
今回、オペラを初めて見た。以前のオーケストラと違って、音楽から得られる耳からの情報だけでなく、劇から得られる目からの情報もあったおかげか、退屈なく鑑賞することができた。
オペラを見ての第一印象は演者さんたちの声の迫力が想像以上だった事だ。演奏に負けないくらいの声をあの広い会場で発声できるのは、非常に驚いた。また、声自体にも抑揚があり圧巻の演技を見ることができた。
また、オペラ鑑賞は当然ストーリーがあるが、そのあらすじだけでは自分には理解し難い部分もあったと感じる。その理解し難い部分を、劇を見ることである程度は補完できたが、完璧に理解できたかと言われれば、難しい部分がある。だからこそ、今回のオペラはストーリーというよりもオペラとは一体何なのか、またどのような雰囲気なのかを感じることを考えて鑑賞できた。普段、1人ではほとんど行かないであろう場所に体験できたのは非常に良い経験になったと思う。この先、1つの高尚な趣味として考えるきっかけにもなった。
いずれにしても、新たな知識、知見を得られることが自分にとって有意義だと感じられる時間だった。
Sさん
フィレンツェの悲劇で最も印象深かったのは、ビアンカの二面性が露わになるラストシーンである。グイードへの「殺して」という切実な懇願から一転、勝者となったシモーネへの誘惑的な態度への変貌に疑問を感じた。彼女の行動は本心からの愛なのか、それとも純粋な生存本能なのか。私には明らかに後者に思えたが、それならばシモーネはなぜ怒りを見せなかったのか。幕が下りた後も、この疑問が残り続けた。ジャンニ・スキッキでは、幕が上がった瞬間から斬新な舞台装置に釘付けとなった。人間よりも巨大なクッキーや天秤、手紙、ペンといった日用品の誇張された造形は、一目見ただけでこれから始まるのが「喜劇」だと表しているように思えた。その日最も印象に残ったのは、ラウレッタによるアリア「愛しい私のお父さん」だ。彼女の歌声は群を抜く存在感を放っていた。カーテンコールでの大きな拍手は、その魅力が観客の心を掴んでいたことを物語っていたと思う。
Kさん
フィレンツェの悲劇は、3人しかいないのに迫力を感じました。マイクを使わずにオーケストラの音に負けない声で歌っていて、それでいて迫力を感じたので、オペラの技術はすごいとこ感じました。物語も終盤にかけて目が離せない展開となっていて引き込まれました。
ジャンニ・スキッキは、フェレンツェの悲劇と違ってポップな笑えるようなオペラだったのでとても見やすく、楽しめたと思います。
どちらも、オペラ初心者でも楽しめるようなものでした。いい経験になったと思います。
Tさん
フィレンツェの悲劇は、シモーネとグイードの心理戦が面白かったです。シモーネはビアンカとグイードの不倫に気づきつつも、あくまで商人として振る舞い商品を売りつけます。見逃してやるからいい値で買えよと言わんばかりの攻防が良かったです。決闘の場面では、ビアンカが「殺して」とささやくのがささやき女将みたいで面白かったです。
ジャンニ・スキッキは、喜劇らしく面白おかしい場面が多く楽しく鑑賞できました。アリア「私のお父さん」には鳥肌が立ちました。特別感動する場面でも無かったですが、迫力があり目線を惹き付ける声に不思議と鳥肌が立ちました。
Kさん
オペラを鑑賞するのは2回目だった。慣れない厳かな雰囲気の中で特別な体験ができたと思う。演目は二つに分かれていた。最初のフィレンツェの悲劇は場面転換が少なかった。ただ、商人が貴族に品物を高く買わせようと演説しているシーンは面白かった。オペラ独特の硬くて遠回りな言い回しが存分に活かされていた場面だと思う。一方で最後の結末がビアンカとシモーネがキスをして終わるという急展開にはついていけなかった。最後の物語のたたみ方の雑さというか、みている人を置いていく結末には唖然とした。二つ目のジャンニスキッキは何よりセットや小道具に手が込んでいた。本やメガネが人よりも大きく作られていてその中を登場人物が駆け回りながら話が進んでいく。本来の物語は遺産相続という話で、見た目が映えるような演劇にはならないはずが、演出の工夫や小道具の大きさによって場面映えするような劇になっていた。最後まで飽きずに見ることができたし、最後に観覧者に語りかけて物語を閉じるところもとても新鮮だった。二つの演目はセットから話の展開、演出まで大きく異なり、オペラの表現の幅を見せつけられた。
Rさん
参加者全員で。 いつもよりキレイめで集合しました。 |
Eさん
人生初オペラに感激しました。荘厳なオペラの会場となる国立劇場へ足を踏み入れる場面が私の人生に訪れるとは思っていませんでした。先生が事前に、あらすじを知っておかないと面白くないと言っていたので、きちんと準備して当日を迎えました。
私達が鑑賞したのは、(他の人も挙げていると思いますが)フィレンツェの悲劇とジャンニ・スキッキの2作品です。
1本目を見終わった後、25分の休憩を挟みました。鑑賞しているときは、正直言って「すんごいあらすじ通りィィ!!」と思っていました。ただ、最後のシーンで商人の主人公と尻軽ヒロインが体を寄せ合い、顔を近づけていた場面で、上の方の座席で観ていた僕には主人公がヒロインの首を絞めているかのように見えたのです。見間違いでもそうじゃなくても、結果的には最後の場面に考察の余地が生まれてきたので良かったです。
2本目の作品は喜劇でした。物凄く抽象的ですが、率直に上品な笑いだなぁと思いました。自分が普段笑っているものがいかに低俗で下劣な笑いなのかをまざまざと見せつけているかのようでした。(これは言い過ぎですが。)先ほども述べた通り、オペラってあらすじ通りなんだなぁと思いました。なぜ2回も言及したかというと、私は面白い映画やドラマに出会っても2回以上見る事がほとんどありません。もう見たし、知っていることを何回も見るのは時間の無駄だなと思ってしまうのです。(といいつつもスマホをずっと見て時間を無駄にすることが頻繁にあります。)しかし、オペラを観て気づいたことがあります。あらすじを頭に入れ結末まで知っているからこそ、あらすじがオペラや演奏、役者などによって肉付けされていく過程がとても見応えがあるように思えたのです。変な例えですが、映画のディレクターズカット版を観たときみたいな感じです。劇のエピソード自体、あらすじとして完結されており、それに手を加えるのは野暮なはずなのに、更に良いものをブレンドしていくことで完成品の質がより高まっていると言えばよいでしょうか。もう少しでオペラの面白いところを言語化できそうなのですが、今は面白さの核に手もかかってないところだと思うと、少々歯はがゆいです。少なくとも、この点に気づけて良かったです。
あとがき
オペラ鑑賞後、我々相澤ゼミ一行は15分から20分程度喋りながら新宿駅まで徒歩で向かいました。駅に到着し、僕はすぐさま帰ろうと改札に向かうと、とある後輩から声を掛けられました。「衞藤さん、このあと時間ありますか?」声をかけてきた人物は、僕がこのゼミで一番仲が良いといえる後輩でした。「これはまさか、この後ご飯にでもいくつもりなのか?」と僕は危険を察知しました。早く帰りたい気持ちと「仲の良い後輩からの誘いは断りたくないなあ」といった気持ちのジレンマから、生返事になってしまいました。するとすかさず、もう一人の後輩が声をかけてきました。この人物は僕がこのゼミ内で最も恐れている人物で、まるで僕が隙を見せた所にすかさず声をかけてきたかのような、あざやかすぎる手口で「衞藤さん、このあと時間ありますか?」と言い放ちました。後輩とは言え、僕はこの2人のコンビにはとある事情から逆らえません。「しまった。これでは断れないぞ。」と困惑してしまい、挙句の果てには今晩自宅で食べようと思っていた鍋を蹴って、2人とご飯へ行くことにしてしまいました。満員電車に揺られ、池袋へ拉致された僕。なんと2軒目まで行ってしまいました。2人の僕に対する質問を華麗に避け、アルコールの力を借りて素を曝け出し、2人の様子も伺いながら楽しみました。ですが、つい調子に乗ってしまい日本酒やレッドブルサワーを沢山飲んでしまいました。仲の良い後輩はお酒があまり飲めないタイプなので、割り勘にしたことを後になって悔やみました。最も恐れている後輩は僕と同じくらい飲んでいたので、改めてその恐ろしさを痛感しました。この人に飲まされてしまったといっても過言ではありませんので、責任を擦りつけたいです。18時を指していた時計も気づけば22時になり、解散。帰宅した僕は、レッドブルサワーによるカフェインのせいか全く眠れませんでした。目を瞑り、瞼の裏にその日の出来事を思い浮かべていると、僕はあることに気が付きました。3人で飲んでいるときに、一度もオペラの話をしていなかったのです。この事実に気づいたことで、僕はより一層眠りに入ることが困難になりました。人見知りの僕でさえ、例えば女性と映画を2人で観に行った後にご飯に行くなら、先ほど観た映画を中心に話を展開させます。そういうのが無かったのです。3人で喋る分には最適且つ一番ホットな話題なのに、なぜ誰も喋らなかったのか。あの2人がオペラを観て何を思ったのか。なぜわざわざ僕を誘ってきたのか。多くの謎が謎を呼び、鋭いメスも入れない程に複雑に入り組み、絡み合っています。僕はこれを逆探偵ナイトスクープ現象と呼ぶことにします。
多くの思い出が出来て、二度おいしい一日となったことは間違いありません。自費ではなかなか行くのが憚られますし、自分のような者が踏み入れていいものなのかと偏見によって悩まされていた私ですが、オペラに対するイメージがガラリと変わり、とても楽しかったです。美術館やオーケストラをはじめ、文化的なものや高貴なイメージのあるものに触れあえる機会が多い点は、このゼミの素晴らしいところだと思います。そして、素晴らしい仲間に巡り会えたことはこのゼミに入ったからこそだと思います。
長文失礼しました。